夏の陽と虫

 31.

「わぁー! ねぇキミ、ハッサム好きなのぉ?」

突然、後ろからのんびりとした声が聞こえた。
振り返ると、茶色いくるくるとした癖毛の男性。
その特徴的な髪を揺らしながら、その人は尋ねてきた。

「ボクもね、好きなんだぁ。まぁ虫ポケモンは、どの子でも好きなんだけどねぇ」

「……は、はい」

誰なんだろう。この不思議な人は。
当然だが、初めて会った人だ。
長身だからか派手な服装だからなのか、それともこの独特な雰囲気からなのか分らないが、少々…いや、かなりこの場から浮いている。
首元にオレンジのスカーフを巻き、その長く細い脚を黄緑とオレンジのストライプパンツで包んでいる。
そのパンツを留めるベルトには、大きな蝶のバックルが付いている。

「ぅんんー? 違うのぉ?」

「何なんっすかー、おにーさん」

陽が、私と男性の間に割り込む。
陽の背中が近くて、思わず後ずさる。

「俺のパートナーに、何か用っすか」

ずい、と陽が男性に詰め寄る。
何だろう、いつもの陽じゃない。
いつもの陽より、……機嫌が悪い。

「あぁー、ごめんねぇ? キミが彼女のハッサムー?」

気を悪くしないでおくれよ、ともう一度謝罪の言葉を口にし、彼は続ける。

「ボクはね、アーティって言うんだぁ。よろしくねー」


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