夏の陽と虫

 39.

ひるんでいる俺に、ミツキは次々に言葉をつむいでいく。
心地のいい声が、俺の身体を伝わっていく。

「私ね、自分が騙されているって訊いて、凄く怖かったの。陽が、実はとても怖い人なんじゃないかって」

「……」

「でも、そうじゃなかった。陽は、陽のままだったんだもの」

だから私、ほっとしちゃって。
そう言って、俺に笑顔を向けるミツキ。
なんで、なんでそんな顔ができるんだよ。
どうして。

「……俺のこと、気持ち悪くないのか?」

「ええ、そうね。思わないわ」

「……」

黙っている俺に、ミツキが続ける。

「ポケモンそのものを見たことがなかった私にとっては、どのポケモンも特殊で異質よ。そんな能力について話されても、今更、敬遠することも無いし……。私、電気タイプのポケモンに雷を落とされる方が恐ろしいわ」

雷になんて当たって生きている自信、私には無いもの。
そう真顔で言ってくる。
なんだよ。
なんなんだよ、もう。
心配した俺が、バカみてーだ。

「はは……なんだぁ。あはは」

「……? 陽?」

「……俺さ、ミツキがかばってくれたの、すげぇ嬉しかったんだ」

「え?」

「あいつ……アーティが、俺の正体について言ったとき」

「ああ……、あれは」

「ミツキは、騙されてる立場なのに。俺に騙されてたって知ったのに。それでも、俺のこと信じてくれて。信じようとしてくれて。俺のこと恐くても、助けようとしてくれて。」

「あ、あの、陽……?」

「ホント、嬉しかったんだ。……ありがとう」

ぎゅう、と、ミツキの肩を引き寄せ、抱きしめる。
俺の腕にすっぽりおさまっているミツキが、愛おしくてしかたない。
ああ、あったけぇ。
すげぇ気持ちいい。
ずっと、こうしてたい。

……え? 俺とミツキの間に、苦手な虫ポケモンがいる?
気になんねぇな、そんなの。
今はミツキの髪の、いい匂いしかしねぇや。

*****


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