夏の白い人

 40.

ポケモンセンターの一階、ロビー。
夕暮れ時だからか、そこは多くの人やポケモンで賑わっていた。
若いポケモントレーナーの多くが旅をしているこの世界では、ポケモンセンターはトレーナーにとって情報共有の場でもある。
今でも、旅人たちの様々な言葉が飛び交う。

そんな中、陽と私は、てこてこと走る結麻ちゃんの後を、ゆっくりと付いて歩いていた。
彼女の手には、一目ではほとんど分からない様な、か細い糸が握られている。
まるで蜘蛛の糸の様な細さなのだが、こうした人混みにまみれても千切れないところを見ると、かなり丈夫に出来ているらしい。
彼女曰く、この糸の先に、アーティさんがいるのだという。

「俺が変なことしようとしたら、これでアーティを呼ぶつもりだったんだと思う」

後を追いながら、陽はそう言った。
……本当なのだろうか。

ふと、結麻ちゃんの走るペースが速くなる。
咄嗟の事で見失ってしまうかと思いきや、すぐ先に見覚えのある姿を見つけた。

「ご主人ー」

こちらに手を振る、結麻ちゃんのトレーナー、アーティさん。
ジムリーダーとはやはり有名人なのだろうか。彼は一目の付かない隅の方で待っており、先程は無かった薄いダークオレンジのサングラスを掛けている。
変装……のつもりなのかも知れないが、この場から浮いている事に変わりは無い。

「何事も無くて、良かったよぉー」

そう言って、アーティさんは笑顔で出迎えてくれた。
穏やかに帰ってきた私達の様子から、そう悟ったのだろう。
結麻ちゃんが、アーティさんの元へ駆け寄る。

「ただいまなのー」

「おかえりなさい、結麻」

脚にしがみ付く結麻ちゃんを、アーティさんが撫でて迎える。
まるで、歳の離れた兄妹の様だ。
こそばゆそうな顔をしながら、結麻ちゃんが口を開く。

「あのね、ミツキ、泣いてたの」

その言葉を訊き、ちら、と陽を見るアーティさん。
ああ、結麻ちゃん……。その話し方だと、語弊があるのだけれど。
まあ、事実なので仕方がない。
子供は正直だ。
陽の方は……。やはり、不服そうな表情をしている。

「でもね、でもね、とっても幸せそうだったの」

どうしてなの?
くりくりとした目でアーティさんの顔を見つめ、尋ねる結麻ちゃん。
一瞬きょとん、とした表情をしていたアーティさん。
しかし、すぐに微笑んで応えた。
それは少し、意地の悪そうな笑みだった。

「さぁ? どうしてだろうねぇ」


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