夏の白い人
49.ホドモエシティの夜、とある高級ホテルの一室で、女性の高い大きな声が響き渡った。
「ねぇでもやっぱり凄くなぁい? あのカルネさんと話しちゃったんでしょう!?」
いいなぁいいなぁー! 何を話したの?
そう私に訊いて来る目の前の女性は、今日の試合でアーティさんを倒した相手、フウロさんだ。
少し酒の入った彼女の頬と声色は、いつもより高揚して火照っている。
「え、ええと、その……」
「止めんかフウロ。ミツキ殿が困っていらっしゃる」
言い淀む私を庇うのは、フウロさんの手持ちポケモン、兵太さん。
そう。アーティさんのビークインに倒されてしまった、あのウォーグルという鳥ポケモンだ。
今は人間の姿をしており、その姿はまるで数多の戦場を潜り抜けてきたかの様な老戦士だ。
白髪の髪に、焼けた黒い肌。
その顔や服から覗く四肢には、いくつもの大きな傷痕がある。
ポケモンの回復力は人間の何倍も早く、治療さえすればどんな痛手を負ったとしても全快できるはず。
一体、過去にどんな深手を負ったというのだろう。
「だってぇー、あのカルネさんだよぉ? いるって知ってたら私、ちゃんとあいさつしに行ってたのにぃー」
そう言って、ごろんと兵太さんの大きな懐に身体を預けるフウロさん。
兵太さんの腕の中にすっぽりと収まり、だらりと腕を広げるその姿は、あのフィールド上で勇敢に戦っていた姿からは想像出来ない。
「でもきっと、ミツキちゃんの運が良かったんだよねぇ。アーティさんも、カルネさんが来るなんて知らなかったんでしょう?」
彼女は胸に引き寄せた大きな枕をいじりながら、アーティさんに尋ねる。
ここはアーティさんの部屋なので、その枕はアーティさんがこれから使うものだと思うのだが…。
しかし、当の本人はさして気にする様子も無く、それに応える。
「うん、全然。と言うか、そんな人が一緒ならミツキちゃんにプレミアムチケットなんか渡さないよぉ」
緊張したでしょう? と心配そうに尋ねるアーティさん。
いや、緊張など私も驚くほど全くしなかったので、その事を素直に告げる。
カルネさんはとても話しやすい、素敵な女性だったと。
一緒に試合を観る事が出来て本当に良かったと、そう伝えた。
「そっか。なら、良かったよぉ。観戦、お疲れ様」
「ご主人、ミツキよろこんでるの。よかったの」
「うん。そうだねぇ、結麻」
胡坐をかいて座るアーティさんの脚の上には、結麻ちゃんがちょこんと座っている。
さっきからずっと、二人であやとりをしているのだ。
一本のあやとりを交互に取り合う、二人あやとり。
この二人の雰囲気は、いつでも本当に和やかだ。
「それにしてもあの二人……、遅いのう」
そう言って、兵太さんが部屋の時計を見やる。
時計の針は、もうすぐ午後十時を指そうとしていた。
確かに、そろそろ帰って来ても良いはずの時間だ。
陽ってば、一体どこで道草を食っているのかしら……。
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