夏に潜む影
50.*****
「なんで……。なんで俺が、お前なんかと一緒に出掛けなきゃいけねぇんだよ……」
「そんな事、わらわとて同じ気持ちじゃ! さっきから貴様のそのやかましい色の髪を毛根からむしり取ってやりたくて仕方がないわ!」
「な、なんだとおぉ!?」
今、俺はアーティの手持ちポケモン、ビークインの貞女と真夜中のホドモエシティを歩いている。
中世のお姫様かぶれ……この女の外見と口調と性格、もうどうにかしてくれ。
さっきからこいつの声が頭に響いて仕方ない。
「ふん。陽よ、どうせスケベな目をした貴様の事だ。買出しなら主人であるあのミツキという少女と共に行きたかったとでも思っていたのであろう?」
「あったりまえだ! ミツキとお前とじゃ、比べものになんねえよ!」
なに言ってんだこいつは。
そんな思いで見返すと、貞女はびしりと俺に人差し指を向けた。
指、近ぇよ……。
「その言葉、そっくりそのまま貴様に返してくれる! 良いか陽よ、我が主人アーティと貴様とでは、天と地ほどもの差がある! その下衆で無能な頭に、よく叩き込んでおくが良い!」
「は、はぁ!? そんなに言うんだったら、お前がじゃんけんで負けた時点でアーティを誘えば良かったじゃねぇか!」
「何を言うか馬鹿者が! 我が主人、アーティは優れたバトルセンスの持ち主にして、並外れた芸術的才に恵まれた御方! 凡人とは生きている世界が違うのだ! じゃんけんなぞに負けたわらわに付き添い買出しに赴かせようなど、出来るものか!」
……そう。いま俺たち二人は、ミツキ、アーティ、そしてフウロと、その手持ちポケモン達の集まりの為に買出しに出ている。
じゃんけんにさえ負けなかったら、俺もミツキと一緒にホテルで待っていられたのに。
よりによって、こんなやつと……。
「変なところで忠誠心をはたらかせんなよ!」
「何を言う! 貴様は阿呆か! 忠誠心無くして主人に仕えるなど有り得ぬぞ愚民めが!」
「お前、さっきからいろんなことカッコよく言ってるつもりかもしれねぇけど、大体がいい子ぶってる様にしか聞こえねぇからな!」
「な、何だとぉ!? 貴様、わらわの気高き想いを侮辱する気かぁ!!」
はぁ、なんでこんな事になっちまったんだ……。
きんきんとこいつの声が頭に響いて、脳みそがぐらぐらする。
事の発端は、数時間前。
ミツキと話をしてみたいと言ったフウロに捕まえられなかったら、こんな事にはならなかったはずだ。
アーティとフウロは以前から付き合いがあり仲が良く、フウロはアーティから、ミツキの話を聞いたらしい。
何でミツキ、女にもモテてんだよ……。
なんか、ライバルが増えるばっかだ。
「あーあ。もうあの時に、さっさと逃げとけば良かったぜ……」
そんなことを考えても、もう遅い。
さっさとこの遣いを終わらせて、早くホテルに帰ろう。
きっと、ミツキも俺の帰りを待ってくれている。
そう思いながら、俺は貞女と共になかなか眠らないホドモエの町を歩いて行った。
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