夏に潜む影
51.違和感を感じたのは、フウロと兵太に頼まれた高い酒を買った後からだった。
「なぁ、陽よ。おぬし気付いておるか?」
流石、アーティの手持ちポケモンなだけある。
貞女もその気配に気付いた様だ。
ああ……。やつらだ。
こそりと俺に伝える貞女は、俺に続けて話す。
「はっきりとは分からぬが、先刻から何者かに附けられておる」
「ああ。そうだな」
ごくりと唾を飲み込む。
ヤバい。
何で、よりによってこいつが一緒の時に見つかるんだ……。
動揺するのがバレないように振る舞うが、貞女は俺の焦りを見逃さなかった。
「ふん。その様子、何か知っている様だな。……話せ」
「……」
「何を黙りこくっておるのだ。さっさと言え」
「……嫌だ」
「何を童の様な事を言っているのだ。これは命令だ。話せ」
「……」
「……貴様、結麻の方がよっぽど利口だぞ」
「……」
「……良いか、今この状況ではのうのうとあの部屋へ帰る事は出来ぬ。どんな無礼者かは知らぬが、闇夜に忍び付け狙う輩なのだ。我らが主に危害を加えかねん気味の悪い連中である事に違いはない。主らの居場所をつきとめられる様な愚鈍な真似、わらわは絶対にせぬぞ。だとすれば、この状況は我々で何とかせねばなるまい」
「……」
「それには、非常に不服だが貴様の協力も必要なのだ。そんな事、説明せずとも阿呆のおぬしでも分かるであろう。さあ、もう一度言うぞ。話せ。これは命令だ」
貞女の真っ直ぐな瞳が、俺を捕える。
くそ、そんなこと、分かってる。
分かってるよ……。
「何とかしてやる」
「はぁ? 貴様、何を言っている……」
「俺が、何とかしてやる。その代わり」
その代わり、もう、何も訊かないでくれ。
睨むようにして言葉を返し、俺は、貞女と共に闇に溶けて消えた。
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