森の中で b

 I.

「ニンフィアの、アニィ……? かつてこの森に住んでいた者なのですか?」

「ええ。彼女は同じ仲間です。今でも、私とは親交があります」

「この森から、人間界へ……。その様な者が、いたのですね……」

「ええ。彼女は、自ら進んで人間界へ出てゆきましたよ? 外の世界を見てみたいと。本当の自分を、探しに行くのだと」

「……理解に苦しみます」

「ふふ。まあいずれにせよ、彼女になら貴方も安心して会うことが出来るでしょう?」

「ええ。ご親切な計らい、感謝致します」

「いいえ、構いませんよ。では早速、こちらを貴方にお渡ししておきます」

「……? これは……?」

「文、と呼ばれるものです。人は何か大切な依頼する時、こうして薄い生地に文字を書き、それを送ってこちらの思いを伝える事が多いそうです」

「そうなのですか……? 何だか不思議でございます……」

「ええ、確かにそうですね……。しかし、これは人間界において、相手の大切な時間を拘束させないという点で大変良い方法なのだと聞きました」

「はぁ、なるほど……」

「貴方にはこの文を、彼女……アニィへ渡して頂きたいのです。そして貴方からも直接、アニィへ今のこの状況を伝え、その内容と共にこの文をマーシュ殿へ渡して頂くよう頼んでください。この方法であれば貴方はマーシュ殿に接触せずに済みますし、マーシュ殿も好きな時間にその内容を知る事が出来ますからね」

「そういう事でしたか。かしこまりました。では早速、明日の朝、そのアニィ殿のいる人間の町へ行って参ります」

「ええ。よろしく頼みましたよ、エル」

「はい。……ところで、ゼルネアス様」

「はい?」

「この文は、ゼルネアス様がお書きになったものなのですか?」

「それですか……? ええ。そうですよ。私が書きました」

「ゼルネアス様、人間の文字をお書きになることが出来たのですね……」

「え? ええ。人間の姿になったのは随分と久し振りで、感覚が鈍っていましたが……」

「!? 人間の姿に……? ゼルネアス様が、その様な事を……」

「まあ、ペンを握るという行為は人間の腕と指が必要ですからね。私はその様な身体を持っていないので」

「……左様でございますか」

「まあ、慣れない事はあまり進んでしませんよ。この森で、……特にあなたの前で、人間の姿になる様な事は致しません。ご安心ください」

「……はい」

「それでは、よろしく頼みましたよ。エル。どうか、気を付けて行って来てください。アニィにも、よろしくお伝えください」

「はい、かしこまりました。では、失礼致します」

「ええ。お疲れ様でした。いってらっしゃい」


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