夏に映る姿

 60.

*****

時刻は太陽が天高く昇った正午過ぎ。
夏の日差しが大地を容赦なく照らしている。
少し日向で歩いただけでも、じわじわと汗ばんでくる。

「フウロさん、もうポケウッドに着いてる頃かな」

穏やかに揺れるPWTの旗を眺めながら、私は呟いた。
雪解さんに乗っていた時は気付かなかったが、今日の風は、温かくて穏やかだ。

「ああ。フウロなら、もうとっくに着いてていい頃だろうな。……なんかあいつ、すげぇスピードで飛んでそうだ」

今頃、必死になってカルネを探してるんじゃねぇの?
そう言って、陽は笑った。

結局、私は雪解さんの背中に乗って風を気持ち良く感じることは出来なかった。
フウロさんや雪解さんには申し訳なかったが、丁重にお断りさせてもらった。
……自分の事だが、こればかりは仕方ないと思う。
怖いものは、怖いのだ。

フウロさんはがっかりして、また次の機会にと言ってくれた。
アーティさんは、賢明な判断だと言ってくれた。
陽は……、生きた心地がしなかったと言っていた。
他人の事なのに大袈裟だと、私は笑った。
しかし、その心配は行動にも表れた様で、彼はしばらく、私の手を握ったまま離してくれなかった。

「そう言えば、アーティさんは今頃どの辺りかしらね」

「さぁなー。のんびり帰るっつってたから、まだライモンかもな」

フウロさんがポケウッドへ飛び立った後、私達はアーティさんとも別れた。
彼は明日から、ジムの仕事があるのだという。

「貞女が持たせておけって言うから、これ、渡しとくねぇ」

そう言って、アーティさんが私に手渡したのは、腕時計型のテレビ電話だった。
ライブキャスター、という機械らしい。
そんな高価な物は貰えないと必死で断ったのだが、いいからいいからと押し付けるようにして、彼は去って行ってしまった。
ライブキャスターの連絡先には、各地のポケモンセンターや交番、アーティさんやフウロさんの連絡先まで登録されていた。
思わぬプレゼントに私はひとしきり感動していたのだが、陽はあまりいい顔をしていなかった。
……本当に、アーティさんの事となるとどうしようもない。

「それにしても、今日のトーナメントもすごかったよなぁ!」

隣を歩く陽が、ぐっと背伸びをする。
広い肩が大きく反って、ぱきりと音を鳴らす。

「そうね。一般トレーナーの部とはいえ、とっても楽しかったわ」

また、カルネさんと観に来たいな。
身の程知らずもいいところだが、私はそんな事を考えていた。

私達は結局、再びPWTで試合を観戦する事にした。
理由は、ただ単にもう一度ポケモンバトルを観たかったからだ。
正直に言って、昨日はプロ同士の試合だったからか、私には何が何だかよく分からなかった。
……まあ、今日の試合も十分に理解できたという訳ではないのだが。

「えっと、あの時のムーランドの波乗りは効果が抜群で……」

「いや、それはそうなんだけどなぁ。あいつは水タイプじゃなかったから、効果は少し弱かったんだよ」

「えっ。そうなの?」

先程の試合の復習をしている私達の横には、色とりどりの出店と、人々の声が。
まばゆい光に照らされて、風景がちらつく。
あまりにも眩しくて、地面に濃く映る黒い影にも、私には景色がうつっている様に見えた。


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