夏に映る姿

 61.

PWTの会場近くには、数々の出店が軒を連ねている。
焼き菓子やらポケモンの面やら、まるで祭りの屋台の様だ。
それぞれの店からは、威勢の良い声が響いて来る。

「よぉ、そこのお嬢さん! くじ、やってかない?」

「えっ?」

突然呼び止められて振り向くと、頭に捻り鉢巻をした中年の男性がいた。
細身の筋肉質な肌が、小麦色に焼けている。

「べっぴんさんだねぇ。……って、なんだぁ、カレシ付きか」

「あ、あの……」

「なんだぁ? おっちゃん」

ずい、と陽が私と男性の間に立つ。

「そこのカレシぃ、カノジョを常夏のバカンスに連れて行きてぇとは思わねぇか?」

陽を指差し、ニヤリと歯を覗かせる男性。
……彼氏、か。

「ん? なんだそれ?」

「なんと! 一等賞は東の楽園、セイガイハへの旅行ペア宿泊チケット!!」

「おお!」

「更に! サザナミタウンへのクルージングや、ダイビング体験も付いている!!」

「おおお!!」

「しかも! 日程は観光客が少ないシーズン末期に合わせてあるんだ! カノジョとのんびり、くつろぎのバカンスを! 残暑の厳しい時期にぴったりなこの旅行が、たったの500円で当たるかもしれねぇんだ! ちなみにハズレナシ! さぁ、このチャンスを逃す手は無いだろ! やったやった!!」

そう言って、くじが入っているであろう箱と、何も持っていない右の手の平を差し出して来る男性。
……そんな上手い話があるものか。
第一、実際本当に当たるかどうかも定かでは無い。
男性には失礼だが、そんな胡散臭い話を誰が信じるのだろう。
早くポケモンセンターに戻ろう、そう言おうとした時には、もう遅かった。

「よっしゃ、やってやるぜ!」

そう言った陽の右手は、すでにその箱の中に入っていた。

「まいどあり!」

そう言った男性の右手には、陽が渡した500円がしっかりと握られていた。

「……馬鹿」

私はただ、その様子を黙って見守る事しか出来なかった。


prev / next

[ back ]