夏の嵐の夜

 70.

うるさい大粒の雨が、地面をびしゃびしゃに濡らしていく。
もう、そこらじゅうが雨の海だ。
白いあいつはゆっくりと、じっくりと、執拗に俺を追いかけて来ている。

俺は今、相手の姿は見えていない。
だから、向こうも同じはずだ。
俺の姿は、見えていない。
俺の今のこの姿だって、分からないはずだ。
でも、ただ気配だけが、街の中を駆けずり回る俺に迫り寄って来る。
どうしてだ。
こんなにもころころと姿を変えて、絶えず移動しているというのに。
このフキヨセシティに来たのだって、つい先刻のことだというのに。
俺の人間になった姿だって、分からないはずなのに。
ミツキと……人間のトレーナーと、一緒に行動していたのに。
まるで俺の行動や思考が、筒抜けになってるみたい、な……?

……いや、それは流石に不気味すぎるだろ。
そんな事、あり得るはずがない。

街の端に向かい、俺はシキジカに変化した。
今までずっと、街の中をぐるぐる回って逃げて来たんだ。
今の時点で街の外へ出れば、撒けるだろう。
外へ出て少し走ったら、適当な木陰でしばらく休もう。
ミツキが心配するだろうけど、流石に疲れちまった。

俺は一人、背の高い草むらの中を駆けだした。
人も、ポケモンもいない。
光も、影もない。
ああ、夜が、始まった。

*****


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