夏の嵐の夜
71.*****
言っとくけど、俺はここが怖い訳じゃない。
もう一度言う。俺は、ここが怖い訳じゃあない。
「さっきからどうしたのです? 黙りこくってしまって」
「うるせぇ。ちょっと寒いだけだ」
「……そうですか」
なんだその目は。
バカ野郎。
ここが寒いのは、まあ当然なんだ。
外は夜の大嵐。
いま俺たちのいる建物は、冷たい石造り。
そしてその建物内を、びっしりと埋め尽くすように並ぶのは、ポケモンの、墓。
……ここは、タワーオブヘブンだ。
「ここまで沢山お墓があるなんて、いささか不気味というか、異様な雰囲気がありますね」
「……御風、お前そんなこと言うんだな」
「おや、これは失敬。不安を助長させてしまいましたか……」
「別に、不安じゃねぇっつの。……ま、こんな夜中じゃなけりゃあ、こんなに肌寒くなかったのは確かだな」
ここは本来、とても神聖な場所だ。
亡くなったポケモン達を慰霊するための、清らかな場所。
だからか、ここはどこか、近寄り難い空気がある。
様々な想いを乗せた、独特の空気が。
どこの墓地に行っても、この感じは変わらないと思うけど。
それがまあ、こんな夜中になると尚更、だ。
「おや、あれを見てください」
御風に言われて、俺は首を上げた。
上の階から、一匹のヒトモシがこちらを覗いている。
他人の命を吸い取っては輝くという、紫色の炎。
その小さな炎は、ぽっかりとその周囲を不気味に照らしている。
野生ポケモンの住処となっているここの二階へ上がれば、辺り一面がそんな光景だ。
全く、俺もいつ命を吸い取られるか、分かったもんじゃない。
「貴方が死んでしまったときは、丁重に埋葬してさしあげますよ。楽しみにしておいてくださいね」
「黙れ。縁起でもねぇこと言うなクソケンホロウ」
そう言うと御風は、はははと笑った。
笑い事じゃねぇバカ野郎が。
「雨、止みませんねぇ」
「……そうだな」
俺たちの声が、塔の上へと響いていく。
ヒトモシたちの、淡く光る炎を揺らして。
様々な人の想いを乗せた、空気と共に。
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