やさしい人たちに出会いました

 1

からっと晴れていた空が、突然曇り、雨になった日のこと。

 旅の途中であるミツキと陽は、手近な雑貨屋に飛び込んで傘を買い、ポケモンセンターへ急いでいた。
「なんでこんなに急に土砂降りになるの・・・!」
「ここまで降ると、あっても無駄だったなー、傘」
少々悔しそうなミツキに対し、陽はけろりとしているのが対照的だ。
 とはいえ、そうぼやいていても仕方のないこと。とにかく雨がしのげる場所に行くのが先決と、その後は2人とも無言で足を動かした。



 ところが、雨の中を走り続けていたミツキが、ふいにぴたりと動きを止めた。後ろに着いていた陽は危なげなく止まり、彼女の顔を覗き込む。
「ミツキ?」
「・・・ねえ、あれって・・・」
白い指先にうながされるまま視線をやると、道の真ん中に黒い塊があるのが見えた。
 広い道のど真ん中にぽつんと存在するそれ。違和感がありすぎて、近づくのをためらう。
 けれど、雨越しに目を凝らした陽が落とした言葉に、ミツキは否応なくぎょっとする羽目になった。
「・・・あれ、人っぽくねぇ?」
「えっ!?」

 言われて慌てて駆け寄ってみれば、確かにそれは人型の存在だった。ただ、髪は黒っぽく見えるものの、思い切りうずくまってしまっているので、本当に人かどうかまでは判断がつかない。
「あの・・・大丈夫ですか?」
見た目からして細身の少年のようだが、膝までべったりと地面について、丸めた背中に雨を受けるままになっている。それどころか爪を立てるかのようにして頭を押さえているものだから、体調でも悪いのだろうかと声を掛けざるを得なかった。
 ところが、少し待ってみても反応がない。それでよくよく見てみると、頭を押さえていると思った手は、きつく両耳を押さえていた。これでは呼びかけは聞こえないはずだ。
 仕方がないので、もう少し近づいて軽く肩を叩く。すると、やけに鈍い動作で腕が下され、真っ赤に泣きはらした真紅の目が、恐る恐るといった様子でミツキを見上げた。
「・・・だれ・・・?」
「ええと・・・私はミツキ。どうしたの?具合悪いの?」
「・・・待ち合わせ、来なくて・・・たぶん、迷子・・・」
辛そうに何度も息を吐きながら、断片的に言葉を口にする少年。答えの意味がよく分からず、もう少し尋ねたいのだが、この状態の彼とこんな場所で話をするのはどうかと思う。
「ポケセンに連れてこうぜ、ミツキ。そっちの方が良さそうだ」
「・・・そうね」
陽の提案に頷いて、ミツキは彼の差し出した傘を受け取った。自分の分も含め、2本の傘を畳んで小脇に抱える。
 それから、少年を担いだ陽と共に、土砂降りの中を全力で走り出した。



 一方、その頃のポケモンセンターでは、1つのグループが深刻な危機に陥っていた。
「てめっ・・・待ち合わせ場所を忘れただぁ!?」
「しかもこんな雨なのに!?」
身内であるメンバーから、さんざんブーイングを食らっているのは、レントラーであるソウという青年。
 なぜ彼がそんなにも責められているのかというと、今現在雨の中を置き去りにされているはずの存在は、雨に対してひどいトラウマがあるからだった。ボールの中に居ても雨を怖がるほどなのに、こんな豪雨の中にいるとなると、一体どうしているだろうかと焦らざるをえない。
「目印にしてたやつが、まわりにいっぱい立ってて・・・どれだかわかんなくなっちゃって・・・」
ソウは半泣きで精一杯説明するものの、もともと頭が少々足りない奴なので、どうにも要領を得ない。
 進まない状況に焦れたバシャーモのヒイロは、我慢ならずにとうとうキレた。いらいらと髪をかき上げると、炎タイプであるにも関わらず、窓から外に飛び出して行ってしまったのだ。
「あ、待って!」
「ちょっとソウ!」
続けざま、ソウと、クロバットのシノが窓枠を飛び越えて駆け出した。雨に加え夕闇が迫る中、3人の姿はすぐに見えなくなる。
「・・・私たちも探しましょう」
静かに窓を閉め、サーナイトのリョクが冷静に言った。視線を向けられたアブソル、ハクが無言でうなずく。
 その流れを受けて、トレーナーであるヒナも椅子から立ち上がった。
「わ、私も探すわ!」
しかしそれは、優雅な所作に遮られ。
「いえ、ヒナはここで待っていてください。もしかしたら、通りかかったどなたかが、ラクを送り届けてくださるかもしれません」
「・・・な、るほど・・・」
確かにそれは一理ある。それにどのみち、入れ違いにならないよう、連絡役はどうしても必要になるだろう。
「じゃあ私は、センターの玄関のところで待っておくわ」
「はい。よろしくお願いします」
「行ってくる」
ハクはヒナの頭をぽん、と撫でてから、リョクと共に雨の中に出て行った。


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