やさしい人たちに出会いました
2突然の雨を避けようと、ポケセンにはトレーナーやそのポケモンたちが次々に駆け込んでくる。その度にヒナは据え置きの椅子から立ち上がり、どこかにあの紫の少年が紛れてはいないかと視線を彷徨わせた。・・・あのこの傷は本当に深いのだ。こんなことで、無駄に苦しんでほしくない。
(お願い、誰か早く・・・!)
ラクを、見つけて。
何度目かの宿泊客を見送って、そろそろ泣きたくなってきた頃。
突然、ヒナの視界に、痛む思いで探していた人物が飛び込んできた。
あまりの不意打ちに一瞬呆けたものの、間違いないと脳が判断するや、体は勝手に動いていた。
「ラク!!」
駆け寄りながら名を呼ぶ。その声は今までの人生で最大級ではなかろうか、という大声で、ロビーに居た人々がなんだなんだと視線を送ってくる。しかし、ラクのことでいっぱいいっぱいのヒナは、全く気づきもしなかった。
「・・・ヒナ、ちゃ・・・?」
「ラク、良かった・・・!」
ぐったりと伏せてはいても、声を聞き分ける程度には周囲を判別できている様子に、ついヒナの涙腺が緩んだ。
どうにも止まらなくなった涙を放置して、そっとラクに手を伸ばす。触れた頬は冷たかったが、力なくすり寄る動きに安堵した。
・・・そこでようやく、彼女は気づく。
ラクが、見知らぬ赤髪の青年に背負われている、ということに。
いや、当人がこれだけぐったりしているのだから、それは当然のことなのだが、残念ながら本気で認識していなかった。心配のあまりどれだけ視界が狭まっていたかがよく分かる。
「あのっ、ごめんなさい!えっと・・・」
慌てて謝罪するも、ずぶ濡れのまま待ってくれていた彼は、「いーよいーよ」と笑顔で返答。
「探してたんだろ?見つかって良かったなー。な、ミツキ!」
「ええ。本当ね」
「わあっ・・・!もうホントにごめんなさい!うちの身内のトラブルでご迷惑を!」
まさかこんな女の人までびしょ濡れにさせてしまっていたとは。彼女が傘を2本抱えているところから見ても、ラクのためにわざわざ濡れてくれたらしい。
ヒナは他メンバーへの連絡をジョーイさんに頼み、今日借りた部屋に2人を招いた。雨で宿泊がいっぱいになっている、という話を聞いて、ぜひ同室してください!と押し切った結果である。
「とにかく先にシャワーをどうぞ!お兄さんはとりあえず体を拭いておいてください」
「この子はどーすんだ?」
「ああ、そのへんに下しておいてください。今の状態ではどうしようもないので」
さらっと言われた言葉に陽は面食らうが、何も言わずにその場に病人(?)を下した。
下された方はというと、あの雨の中に居た頃よりずいぶん楽になったらしい。まだ顔色は悪いが、苦笑に似た情けないものではあっても、一応笑顔を作る余裕ができたようだ。その顔でぺこ、と会釈。
その様子を見守ったヒナは、改めて陽に向き直り感謝を述べた。
「ありがとうございました。また後で、トレーナーさんにも挨拶させてください」
「気にしなくていいって!やばいことにはならなかったしさ」
ぱたぱたと両手を振って笑う彼は、生来明るいタチのようだ。それならばとヒナもそれ以上は言わず、「私はヒナで、こっちはゲンガーのラクです」という簡単な自己紹介を済ませた。
そのすぐ後には、本当にささっとシャワーだけ浴びたらしいミツキが、ヒナのルームウェアに身を包んで現れた。というわけで、ここで陽と交代。
彼女に対しても会釈したラクに、ミツキも安心したらしい。ほっと息を吐くのに、思わずヒナの頬も緩む。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「いいんですよ。困ったときはお互い様でしょう?」
「ああっ、敬語なんていりませんよ!たぶん私の方が年下です!というか私、小学校の頃は運動部だったので、実は年上の人に敬語で話されるのが苦手なんです」
「・・・え?」
「あ・・・そうだったんだ・・・」
「え?」
「え?」
「・・・ん・・・?」
「・・・なにしてんだ?」
陽がシャワーを終えると、リビングの床の上に3人が正座していた。まあ、そのうち1人は完全に壁に寄りかかっているので、正しく正座とは言えないのだが。
「いや・・・世間は狭いと思いまして・・・」
頭が痛そうな様子で答えたのはヒナ。意味が分からない陽は首を傾げざるをえない。
「なんだそりゃ。なあ、何があったんだよ、ミツキ」
「・・・それがね」
私たち、同じところから来たみたいなの。
prev / next
[ back ]