女子祭り!
4「わっ!?」
「ちょっ」
突然のそれに驚いて横に目を向ければ、やたら楽しそうなラクがそこにいた。
「はいこれ!俺的には、このお店ではこれが一番おすすめ!これ着て、これ着て、試着室から出てきて?あ、靴はこれな。あと上の服の裾は出して、このリボンでウエスト絞って。で、ヒナちゃんはこっち」
「私も!?」
「当たり前じゃん!あ、背面チャック平気?じゃあこれ。あとこれと、靴はこっち。ヒール5cm以上あっても大丈夫?・・・そ。歩きにくかったら言ってな。次案の靴はローヒールだから」
んじゃ行ってらっしゃい、と試着室に送り込まれ、混乱しながら着替えを済ます。
渡されたのは、アシンメトリーの膝下ワンピースだった。ミツキの肌色が映える絶妙な配色を見事にチョイスしており、どこから見つけてきたのかと驚くしかない。裾にあしらわれた二重レースもクール可愛い感じで、可愛さを損なわない上に大人っぽい雰囲気まで出している。ただ、肩がノースリーブなので少し寒々しいが・・・彼女の意識は、それよりも靴と一緒に渡されたものの方にくぎ付けだった。
「す、ストッキング・・・」
薄手でも丈夫で穿きやすい!と書かれたそれは、パンティタイプのストッキングで、肌色の上に細かいラメが煌めいている。これを一体どんな顔をして持ち出したのか・・・と思ったところで、パッケージの縁に『お買い上げありがとうございます』のシールを見つけてぎょっとした。
(既に買った後・・・!)
・・・まあ、冷静に考えれば、ストッキングの試着などないのだから当たり前なのだが・・・。
悪い意味でどきどきしながら着替えを済ませ、試着室の扉を空けると、少し離れた場所に立っていたラクが嬉しそうに近づいてきた。
「やった!色ぴったり!」
そして、さっと全身に目を通す。簡単に確認を済ませると、抱えていた買い物かごからパールカラーの手袋を引っ張り出した。次なるアイテムを片手に握ったラクは、戸惑うミツキをものともせず、肘上までのそれを片手に、細い手を優しく捕まえて。
「はい指伸ばしてー。あ、中指だけでもいいよ、これ中指だけに引っ掛けるタイプだから。・・・よし。じゃあ今度はこっち。ちょっとだけ腕上げて?はいオッケー。ちょっと鏡見てみてよ」
「う、うん・・・」
・・・いや、ちょっと待て。
あまりにも自然に、流れるようにされてしまったが、普通手袋は自分ではめるものだろう。なぜか、うっかりスルーしてしまった。なんてことだ。
「・・・ヒナちゃんが言ってたのって、こういうことなのかな・・・」
拒否しようという意識が全く生まれなかった。改めて認識するとちょっと怖い。でも、あれはラクだからやれるような気がする。生半可な人間では真似事すらできないだろう。
複雑な心境のまま、試着室に取って返して全身鏡を見る。・・・と。
「・・・わぁ・・・」
最後に肩に掛けられたのは、どうやら淡いパールカラーのストールだったようだ。ワンピースをよりきれいに見せるよう、背中で結んでボレロ風にしてある。くる、と半回転して背中を見てみると、大きな蝶結びが見えた。わざわざたっぷりした長いものをチョイスして、アクセントに持ってきたらしい。
「・・・・・・」
言葉が出ない、とはこういうことを言うのか。確かに見事な・・・見事過ぎてちょっと引くレベルのセンスだ。
ミツキがそのまま呆然としていると、「あらきれい」と後ろから声がかかった。とっさに振り向く、と。
「・・・。す、ごいね」
「何が?」
「ラクちゃんのセンス(才能)が・・・」
あと、ヒナもちょっとすごい。
ふんわりしたブラウスをリボンで絞って、マーメイドタイプのマキシスカートを穿いているのはいい。本当に驚くほどよく似合っている。・・・問題は、彼女が履いている靴。
「い、痛くないの・・・?」
思わず足が心配になるようなピンヒール。サマにはなっているが、自分にはとても履きこなせそうにない。
ああ、と足元を見遣ったヒナは、ちょっと首を傾げて一言。
「ラクが地味にちょっとずーつ高さ上げてくるから、そのうち履けるようになったのよね」
「・・・えっ」
「言ったでしょ、妥協しないって」
肩をすくめて見せたヒナは、「といっても、普段は足に優しい靴ばっかりチョイスしてくるけどね」とフォローも入れた。
「それにしても、こんなパーティー衣装どうする気なのかしら・・・?」
「え?」
首を傾けてそう言ったヒナに、ミツキも気づく。確かにこれは普段着ではない。
しかし、それをよくよく考える暇はなかった。
「おーい、いつまでそこ居んのー?」
試着コーナーの外から呼ばれて、2人は慌てて店内に戻った。するとそこには、ラクと一緒に笑顔の女性店員が複数人。
なぜ?と思う間もなく、ラクが近寄ってきて聞いた。
「気に入った?」
「え?あ、うん・・・」
「じゃあこれ着てくんで、タグ切ってください」
「かしこまりました」
「「ええっ!?」」
まさかの発言に2人共驚いた。ヒナなどは、この服でどうしろっていうのよ!と叫んだが、ラクはスルー、店員たちはくすくす笑って手際よくタグを切っていく。
「お会計はどうなさいますか?当店では月額ローンも承っておりますが」
「ローン!?」
今までの人生で一度も自分に関係あるものとして聞いたことのない言葉に、ヒナが再び叫んだ。
しかしラクは慌てず騒がず。
「いや、一括で」
「ありがとうございます。合計・・・」
「お?思ったより安いじゃん。ラッキー」
「「!?」」
・・・なんだか今日は一生分驚いている気がする。
茫然としたままの彼女たちの手を引いて、ラクは取り敢えず店を出た。近くの公園のベンチに大判のハンカチを2枚敷いて、2人を順番に座らせる。・・・その手には、ちゃっかり2人の荷物があった。いつの間に握ったのか分からないが、そういえば彼女たちはどちらも手ぶらでここまで来てしまったのだ。隣に置かれたその紙袋を見たミツキが、ようやく気づいてあっと声を上げる。その中には、自前のバッグと服一式が、きちんと揃えて入れてあった。
2人を座らせた後どこかに行ったラクは、すぐに一旦戻ってきて、彼女たちにレモネードを手渡すと。
「これ飲んで、ちょぉーっと待ってて。すぐ戻ってくるから」
「な、待ちなさ・・・」
そして何を思ったか、引き留めようとしたヒナの手をやんわり押し返して・・・ちゅ、と音を立てて額に口づけた。
「いいこで待っててね?」
「「はっ・・・!?」」
隣で見ていたミツキも、これには思いっきり目を見開いて固まった。何事だ、これは。
しかも、その間にラクは駆け去ってしまい、着飾った女子2人が公園に取り残される。
「・・・何、あれ・・・」
「・・・どういうことなの・・・」
再び呆然とする羽目になった2人。
しかし、実は最後のラクの行動にはちゃんと意味があった。
「おい、あれ声掛けるチャンスじゃね?」
「いや、さっきの彼氏がすぐ戻ってくるっつってたからな、様子みとかねーとやばいかも」
人でにぎわう場所には、ナンパだって発生するのだ。要は『虫よけ』。
それからラクは、本当に5分と経たず戻ってきた。・・・ただし、ひとをもう1人連れて。
「えっ、誰?」
見たことのない白い男にミツキは首を傾げたが、知っていたヒナの方は思わず立ち上がって声を上げた。
「・・・なっ・・・絆っ!?」
「おーう、久しぶり、ヒナ」
ひらひら、とのんきに手を振るのは、ラクの実兄・絆(ばん)だ。しかし彼が住んでいるのは、ここではなくカントー地方のはず。
「なんで・・・」
「理由はこいつに聞けよ。俺だってなあ、こいつがテレポートでいきなり現れたかと思ったら即連れ出されたんだぞ。つか、ここからカントーまでって、そんな簡単に飛べるもんか?」
「普通は無理ね」
「やっぱりか」
溜息を吐いて、絆は周囲を見回す。が。
「・・・おい、あいつどこ行った」
「「え?」」
・・・また、いない。
仕方がないのでとりあえず自己紹介をしていると、すぐにまたラクが戻ってきた。その手には小さな袋。
「ちょっとごめんなー」
言いながら、ラクは2人の後ろに回り込む。そして袋から髪飾りを取り出し、ささっと女子たちの髪形をきれいなアップに纏め上げた。
「はい完了〜。うん、やっぱ女の子はいいな!」
「へえ・・・似合うじゃんか」
正面に回って満足げに頷くラクと、しみじみと感想を述べる絆。色彩が全く違うのでだまされるが、こうして並ぶと確かに同じ顔だった。表情もよく似ており、さすが双子である。
だが、それを感心するより先に、ヒナには問わねばならない問題があった。
「ねえ、いい加減この騒ぎの目的教えてくれない?」
これに対し、にこっと笑ったラクが、ようやく説明を口にした。
「ごはん食べに行こうと思って!」
「「「・・・え!?」」」
一体どのレベルの店に行くつもりなんだか。
上機嫌なラクに案内されて、彼らは揃って移動。
ラクは道中に兄と自分の分も服を買い、白の襟シャツに細いタイプのリボンタイ、なめらかな素材のズボンとベストという格好になった。髪もムースで片側だけ固め、結果として2人は並ぶとほぼ左右対称になる、色違いファッションになった。ちなみに色は、絆がワインレッド系で、ラクがネイビー系。
顔の良さも相まって、完全にきらきらした一行になった面々は、とある店の前まで来た。
「・・・って、待って待って、ここって」
バー?
店の外観を見て恐る恐る聞いたヒナに、ラクはにこっと笑い返して。
「そうだよ」
「は!?」
「いやおいしいんだって、ごはん」
「こんな昼間からやってないでしょ!」
「やってるよ。昨日の夜予約入れといたし。ユキジ〜、来たよー」
「そんな入り方っ!?」
まるで友達の家に行くかのようなモーションに、思わず突っ込んだヒナのみならず、他2人も目を丸くした。が、もうここまできては入るしかないので、そろりと後に続く。
あんな態度では店の雰囲気を壊してしまったのでは、と心配した一同だったが、次の瞬間それが杞憂だったことを知った。
「待ってたぞラク!・・・うお、また美人さんだなオイ」
客用のテーブルに座って待っていたらしい、店主と思わしき立派なタキシードの青年が、そのままホストにでもなれそうなきれいな顔を破顔させて駆け寄ってきたのだ。
彼はラクの前まで来ると、どちらともなく手を出して、がっつりと握手を交わした。
「なぁ、そちらのお嬢さん方が例の?」
「そ、俺のトレーナーと友達!あ、ちなみにどっちも先約ありだから」
「そんな釘刺さなくても恩人の大事な人に手は出さんよ。やあ、お前さんも久しぶりだな!」
気さくな様子でひょい、と片手を上げて、彼は絆にも挨拶をした。・・・が、覚えのない絆はきょとん。
「・・・どっかで会ったか?」
「一回だけ、ちらっとな。サイカの・・・バクフーンのトレーナーって言ったら思い出せるか?」
「あ!?」
ああ、あの九死に一生を得たド根性トレーナー!
「あんた客商売の人だったのか!?」
悪い連中にポケモンを強奪されたとかいう話だったから、てっきり旅をしているトレーナーなのだと思っていた。とはいえ確かに、彼だと思ってみると間違いない。よくもまあ、あれからここまで回復したものだ。
「いやー、ちと疲れたもんで店休んで旅行に行った先でアレでなぁ・・・余計疲れた」
「そりゃあ・・・」
むしろ死にかけているから、疲労どころではないのでは。
さっくり言われたセリフに、なんとも言葉に詰まった絆。しかし、店主ユキジは全く気にせず、いっそ土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。
「それでもみんな無事だったからな。良かったよ。ありがとうな。トレーナーのお嬢さんも。俺の家族が本当に世話んなった」
「いやそんな!がんばってくれたのはラクで、」
「それに、別にあんたのためにバクフーン・・・サイカだっけ?あいつを助けようとしたわけじゃないしな」
「俺にはそれで充分だ。・・・さ、もっと奥に入ってくれ。全力でもてなさせてもらうよ!」
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