女子祭り!
3でもねぇ・・・やっぱりどうしても、アチャモの頃の感覚がまだ抜けないのよね。ポケモンってほんと成長が一足飛びで・・・。まだ変化に付いていけてないっていうか。うん、だからね、私待ってるの。私の中で、ヒイロとの年の差が縮まるのを。・・・って、年の差カップルみたいよね、これ」
最後の一言を早足に言い切って、ヒナは照れくさそうに視線を逸らした。彼女がこうしてはにかみを表すのは非常に珍しい。なんだかんだいって、本気でヒイロのことを思っている証拠だろう。
聞いているラクはにこにこと嬉しそうにし、ミツキも心臓のあたりが温かくなるのを感じた。やはりこういう、綿菓子のようなふわふわした甘さは女子目線ならではだろう。
「そっかぁ、恋してるんだね、ヒナちゃん」
しみじみと呟いたミツキ。・・・すると、なぜかラクが何度も頷いてみせ。
「ちなみにヒイロの方も自覚あるみたいで、一日中見てると面白いよ。ヒナちゃんが自分のことを『子供』として見るか『年頃』として見るかで、機嫌がぽんぽん変わるから」
「・・・それが分かるの多分あんただけよ」
この突っ込みを聞いて、ラクの顔がいたずらっぽく歪んだ。彼女がよくする明るいいたずらっぽさとは違う。多少の悪意を思わせるようなそれだ。
前会った時は見ることのなかった類の表情に、ミツキは少し驚く。
「ふはっ、ヒナちゃんいきなり機嫌悪くなったね。私『だけ』がヒイロの機嫌察せるから悔しいの?」
「な・・・!」
「わー、怒ったー、図星だ図星だー」
思わず立ち上がったヒナを見て、にししっ、と歯を見せて笑う顔はやはりゲンガー。そしてそのイタズラっぽい笑みのまま、ラクはゆらりと赤い目を光らせた。
「・・・っ!?」
「ヒナちゃん・・・?」
いきなり動きを止めた彼女に、ミツキは首を傾げる。しかし、ラクが「さっきの仕返し〜」と楽しそうに舌を出したため、原因だけは理解することができた。ただ、具体的に何をしているのかは察せない。
ミツキが戸惑っていると、ヒナの顔色が急激に真っ赤になり、テーブルを叩いて大絶叫。
「ッッ、ラク―――っっ!!」
「わっはーい!」
「何その変な歓声あんた何喜んでんの何てもの見せるの・・・このおバカーっ!!」
「っくく、楽しかったでしょ、誓いのキス疑似体験」
「うわああああああもおおおおおお!!」
「ふひゃ、も、おっかしー・・・あーははははは!』
・・・どうやら何かの技で、ヒナに幻覚を見せたらしい。
原型に戻り、床を転げまわって笑うラクは実は超レアだ。それだけ気が抜けているということなのだが、笑われている方はそれどころではない。
「こぉんの・・・っ!」
『ケキャキャキャキャ!』
「ふ、二人とも・・・」
床の上を縦横無尽に走り回るゲンガーと、鬼の形相でそれを追い回すトレーナー。しかし、ヒナが何かにぶつかりそうになったりすると、不可視のクッションがピンポイントで現れてケガを防止するあたり、もう完全に遊ばれてしまっているのが丸分かりである。
やがて、鬼ごっこはヒナのダウンで終了になった。
「あー面白かった」
擬人化状態に戻って上機嫌でクッキーを頬張るラクは、心なしか顔がぴかぴかして見える。まさに満足、といった感じ。
対してヒナはテーブルに突っ伏してぜぇはぁ言ってる真っ最中なので、ミツキは乾いた笑いしか出てこなかった。・・・というか、もしその対象が自分だったらと思うと怖くて逆に笑えてくるのだ。正直なところ、陽とキスする幻覚なんて見たくない。色々な意味で身が持ちそうにないし、第一絶対に、相当な間まともに顔が見られなくなる。
しばらくは下手に刺激するまい・・・と、ミツキは神妙に黙った。
この後も、3人は、やがて復活したヒナを含め、色々な話をした。なんてことない日常の話、初恋の話、今度会ったら何をしたいか、など。
いくら喋っても話は尽きず、そのまま時間は夕方へ。
そして日が暮れる頃には、男性陣がぞろぞろと戻ってきた。
・・・戻ってきて早々、普通に元気なラクを見てヒナ組メンバーが悲鳴を上げたあたり、あの『病気』は普段はもっと長引くものらしい。訊けば、大抵は丸一日以上かかるのだそうで、意識が戻るころには薬か点滴が必要になるレベルなのだそうだ。なるほどそれなら驚いても仕方ない。
晩御飯は、女子組3人できゃいきゃい言いながら作った。
さすがにラクほどの腕はないものの、ミツキとヒナも人並みに料理はできる。ただ、人数ゆえに量が量なので、ラクがメイン、ヒナが副菜とサラダ、ミツキが汁物とデザート、という割り振りにならざるをえなかった。
・・・それにしても、大きなフライパンを幾つも使い、中身を軽々とひっくり返しながら料理をするラクは、その姿だけ見ていると非常に男らしい。料理の姿勢や所作には男女差がないからだが、見た目の細さに似合わないこの腕力体力はどこから出てくるのやら。
これが他の2人ならば、両手で握ったとしても重さで手が震えるような重量でも、ラクの手にかかれば鼻歌交じりの片手作業。とかくポケモンとは人よりはるかに強い生き物ではあるが、これはそれとは違うだろう。ゲンガーは『どく・ゴースト』であって、力自慢の種族ではない。・・・着せ替えの時に分かっていたことだが、やはりこういう異常を見つけると少し哀しくなる。たくさんの傷痕と共に押し付けられた、本人が望まない力の片鱗だ。
それでも2人共、そのことについては何も言わなかった。今すべきは楽しむことだ。そういう余計なことは、ぐいぐいと頭の隅に押しやっておく。
そしていざ食事、となると、いつもと違って一人一皿ずつであるにもかかわらず、やはりヒナ組メンバーは大騒ぎだった。他人の皿から奪おうとする者、苦手なものを他人の皿に入れる者、騒ぎに巻き込まれて怒る者、などなど。
かろうじて客2人を巻き込むのは避けているが、いつ流れ弾が飛ぶか分からないような有り様で、ミツキと陽は、そっと気持ち避けておいた。
これは最終的には、言葉で言っても聞かないと理解したラクが、主な原因だったヒイロとソウの頭を掴み、無理矢理衝突させて強制終了させた。・・・その際、ガツンッ、というなんとも痛そうな音がして、全員が竦み上がるという嫌な副作用もあったり。
まあ、それでも充分手加減はされていたし、2人も数分後にはまた元気にあれこれ喋っていたので、彼らのそういう丈夫さもきちんと考慮入れられていたのだろう。相変わらず、無駄に気が利く。
なんとか無事に食事を済ませた後。
お風呂には、真っ先にミツキとヒナが向かった。・・・ラクを引きずって。
白と緑の保護者2人から苦言を呈されても、無駄にテンションの上がった女の子たちは止まらない。ラクの中身が誰よりも乙女らしいことを理解したため、余計にだ。
とはいえ本人としては、家族であるヒナはともかく、ミツキにまで今の自分の裸を見せる訳にはいかない。大体、ヒナと入るときも、しっかり水着着用の上、本当に不承不承なのだ。何か事情があるときは仕方がないのでスルーするが、基本的に女の子と一緒にお風呂はしたくない。・・・まあ、かといって男と一緒にお風呂に入るかと言われると、相当に悩むところだが。
ちなみに今回の場合、両脇を女の子2人にしっかり固められてしまったために、普通に脱出ができない。なまじ力がありすぎるせいで、下手に抵抗するとケガをさせてしまう可能性があるからだ。1人だけならなんとでもなるが、両腕で1人ずつとなるとちょっと難しい。
そのため、周囲に向かって助けを求めるも、ラクを女の子と認識しているソウは「何がおかしいの?」と言わんばかりだし、ヒイロとシノはラクが女の子の裸に一切反応しないことをよく知っているため、ちっとも気にしていない。ハクとリョクなどは、ヒナに「うるさい」と言われてボールに放り込まれてしまった。四面楚歌とはこういうことなのか。
「待っ、ちょ、誰かッ・・・陽ぅぅぅ!!」
しかし、それでも諦めきれなかったラクは、最後のひとりに助けを求めた。
・・・が。
「ごめんな、俺には無理」
「んな―――っっ!?」
苦笑気味に手を振られてしまい、なんで止めてくれないの!?と叫んだラクだった。
・・・そしてとうとう脱衣所に引っ張り込まれる、というところまできた時、ぎりりと顔を険しくしたラクは最終手段に出た。
「・・・ごめんっ!」
謝るなり、ばしゅ、と両の掌から放出された黒い球体が、女の子2人を一瞬で包み込み、すぐに拡散して消える。その途端にふらりと傾く体を危なげなく受け止めて、ラクは深ぁーい溜息を吐いた。安堵と、あきらめと、機嫌の悪さと、申し訳なさが、見事に混ざった溜息だった。
「・・・へぇ。ね、いつダークライに会ったの?」
一部始終を平然と見ていたシノが、ラクに尋ねた。先ほどの技、ダークホールは、ダークライの専用技なのだ。
技の残滓を足で追い払いながら、ラクは低く唸りつつ答える。
「会ったっていうか、助けたお礼に教えてくれたんだよね。私としても、あの組織にダークライゲットされちゃうと不便だったし」
「ああ、そういう・・・」
爆弾で無理矢理従えられていても、ラクはそうやって地味に戦力を低下させていたのだろう。確かに、ヒナたちが組織に突撃をかました際にダークライが出てきていたなら、眠らされて負けていた可能性がある。ナイス判断としか言いようがない。
「あーでもやっぱりやだなぁ。私この手の技の手加減って苦手なんだよね・・・これは明日までしっかり寝てるな、きっと」
「熟睡?」
「熟睡ー。もう、だからやりたくなかったのに・・・」
ぶつぶつ文句を言いながら、2人を担いで脱衣所に足を踏み入れるラクに、今度は陽が不思議そうに首を傾げた。
「なあ、今から何すんだ?」
「・・・?2人を洗ってあげるだけだけど?」
「ん?」
普通に答えられて、陽は一瞬黙った。黙って思考を巡らして、結論にたどり着いて妙な顔つきになる。
「え、いいのかよ。風呂入るの嫌がってたんじゃ、」
「私が見るのはいいんだよ中身女だから!ただやっぱ、年頃の女の子に男の裸見せるのは嫌なの!私が嫌なの!」
「わ、分かったって。そんな必死になるなよ」
しかし律義なやつだな、と思った陽は正しい。
その後は何事もなく各自就寝。
そして翌日すっきり目を覚ました女子2人は、起きて顔を洗って、まずラクに謝った。
「ごめん。調子乗った」
「うん。その場のノリってすごいね」
珍しく神妙に謝るヒナに、大真面目に頷くラク。
一晩寝て冷静になったはミツキ、真っ赤になって顔を覆って、最早恥ずかしさのあまり転げまわらんばかりだ。
そんな彼女を普通に見ていたラクは、思い出したようにぽつりと一言。
「そういや陽が心配してた」
「え・・・?」
「ミツキは酒でも飲んだのか、って。まあそう思うよねー」
「うわああ・・・」
なんて心配をさせているんだか。昨日の自分を本気で殴りたい。
うずくまって震えるミツキをよそ目に、ラクとヒナはあっさりと意識を切り替えた。
「今日はどうすんの?」
「実は午後にはシンオウに行かなきゃならないのよねぇ。シロナさんから呼び出しくらっちゃって」
「あー、そういや目ぇ付けられたんだっけ」
「あんたがね。・・・あの人ほんとバトル好きよね・・・こんな無茶苦茶なのと本気で勝負したいなんて・・・」
「うん、いろいろ言いたいことはあるけど今は黙っとくよ。とりあえずシロナさんチームには犠牲になってもらう」
「何の?」
「いや、私って今、本来の持ち技でも相当セーブしてるでしょ?だから手加減しなかったらどうなるのか実験したくて」
「・・・それは死ぬんじゃない・・・?」
「あっちも相当強いんだからそれはないでしょ。一応本人・・・本ポケ?見てから判断するけど」
「うぅん・・・ほどほどにね」
珍しくやる気があるようで、止めに入るのもどうかと思ったヒナは許可を出す。
そもそも、生来温厚でお人好しなラクはあまりバトルを好まない。運動は好きなので、しょっちゅう飛んだり跳ねたりしているが、普通に技を使うことは滅多にないのだ。覚えているものは規格外ゆえに相当多いのに、完全に宝の持ち腐れ状態。・・・まあ、下手に見せびらかすわけにはいかないので、それも仕方のないことなのだが。
結局、その日はミツキが落ち着くのを待って、着せ替え遊び第二弾に突入した。ただし、今度は外でお店をうろついて、ミツキとヒナの着せ替えだ。
(ところでラクは、『化けて』婦人服売り場に行くのは嫌がるものの、男のままで行くのは平気だ。普通は逆じゃ、と思いはするが、本人に理由を問えば、「だってデザイナーとかには男だっているじゃん」の一言。あと、ヒナと2人でいて「恋人ですか?」と聞かれると、にこっと笑って肩を抱き寄せ、「仲いいでしょ」と返して終了。肯定しないところが策士だ。)
服屋に着いたところで、ミツキはすぐさま驚きに遭遇した。
これがいいんじゃない?とか、こっちも着てみてよ、と言うのはほぼラク。ヒナが自主的に選ぶのは、相当気に入ったデザインのものだけだ。しかも、それはどうかなぁ、とラクが感想を述べると、試着すらしない。
「・・・どうして?」
心底不思議そうに尋ねられたヒナは、ふっと上を見上げて思う。そういえば。
「ああ・・・考えたことなかったわ・・・」
「えっ!?」
「だってラクは最初からあんな感じで・・・こういう類のことに関しては妥協しないっていうか・・・なんなのかしら・・・」
とにかく問答無用なのよね、とヒナ。
「まあ、あのこセンスいいしね。あのこが渋った服はほんとに似合わないんだろうし」
「着てみたことはないの・・・?」
「ないわね。そういえば」
これはこれで信頼の証なのだろうか。
2人が無言で見つめ合っていると、そのど真ん中に、がさっと服が割り込んできた。
prev / next
[ back ]