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先に仕事を終え、帰宅した人からお風呂に入り、夕食の支度をするというのがこの家のルール……らしい。他にも色々ルールはあるけど、今日の場合は俺から風呂に入る。
美月はそんな長風呂するタイプじゃないが、そんな美月より俺はもっと早い。カラスの行水だと美月にはよく笑われる。だって俺、水はそんなに得意じゃない。
風呂から上がると、入れ替わりで美月が脱衣所に入る。

「サンマを買って来たから、焼いておいてくれる?」

「はいよー」

「あ、換気扇強くするの忘れないでね。あと、豚汁に火かけておいて」

「あーい」

台所を見ると炊飯器が仕掛けられ、豚汁はすでに具材が全て鍋に入れられていた。相変わらず手際が良い。
髪をドライヤーで乾かしながら、ほんといいお嫁さんをもらったよなあ……としみじみ思う。いや、まだお嫁さんになった訳じゃないんだけど……。

換気扇を回して、サンマをトレイから剥ぎ取る。
サンマ……ってことは、あれか。美月が職場からもらって来た“すだち”を使うのか……。ちなみに“すだち”と“かぼす”は全くの別物らしい。前に美月が教えてくれたけど、俺にはどっちも同じに思える。
ジュウジュウとサンマが焼ける頃には、美月が風呂から上がってきた。
洗濯物を取り込んでいなかったと、髪も乾かさずにベランダに出ようとするもんだから、俺が代わりに取り込んだ。
洗濯ハンガーと洗濯バサミを外して畳んでいる間に、美月が髪を乾かす。俺も髪は結構長い方だけど、美月はもっと長いし、髪質がしっとりしてるから乾くまでに時間がかかる。
俺が洗濯物を畳み終わってもまだ乾かしているので、俺は夕食の支度に戻る。
今夜のテーブルに並ぶのは、ごはんと、豚汁と、サンマの塩焼き。あと美月が今朝漬けたと思われる、きゅうりの浅漬け。
並べ終わる頃には美月もこちらにやって来て、箸と麦茶を入れたコップを持って来た。

「わあ、おいしそうね」

「ほんとだよ、お腹空いたぁ〜〜っ」

俺がたまらない、といった風に麦茶の入ったコップを持ち上げると、美月もコップを持ち上げて、言った。

「お疲れ様」

「お疲れ様〜!」

かん、とガラスのコップが軽い音を立てる。
酒じゃあないけど、乾杯だ。
今日という一日に、感謝を込めて。


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