「え?や、だなぁ何言ってるの?私が零君のこと間違えるわけ…ない」
ヒクリ、と口の端が引き攣る。
口では否定したけど、本当は少し違和感を感じていた。だって、零君はこんな作り笑いで笑ったりしない。私に敬語だって使ったりしない。それに何より、きっと抱きしめてくれた筈だ。あんな風に永遠の別れみたいな言葉を残してしまったから。だから、彼が零君だったのならきっと部屋に入ってきた瞬間に、抱きしめてくれてた筈、きっと。
だけど、抱きしめてくれない。
目の前にいる彼はまた困ったように笑う。視界が微かに滲む、鼻の奥がツンとしてくる。泣いてしまいそうだ。
「じゃ、あ零君…じゃないなら、誰なの?これ、夢なの?私………」
やっぱり、死んじゃったの?
もう零君に会えないの?
「ーーーっ、」
呼吸が微かに乱れ始める。早く、浅いものへと変わっていく。
「はっ、」
「落ち着いて下さい、このままでは過呼吸
を起こし」
「いや!さわらないで!!」
呼吸の乱れを素早く察し、異変にすぐ様気付いた彼が私を落ち着かせようと体に手を伸ばしてくる。だけど、その手を勢いよく振り払った。体が痛む。息が苦しい。このままじゃ彼の言う通り過呼吸起こす。分かってる、落ち着かなくちゃ、分かってる。分かってるけど、
「だっ、だって私、私…零くんっ」
ボロボロと涙が溢れる。頭の中はぐちゃぐちゃで、今の状況を判断出来る冷静さが残っていない。
これが夢なら、もう零君に会えない。それだけで心がこんなにも掻き乱される。
「うっ、う…、」
会いたい。零君に会いたい。夢じゃ、幻なんかじゃないって実感したい。
「……なきゃ…」
「え?」
「零君の所に、帰らなきゃ」
「あ、待って下さい!」
撃たれたばかりなのに。少し体を動かすだけで体が痛むのに。どこにこんな力が眠っていたのだろう。
ベッドから起き出して、驚いて反応が鈍っていた零君に似た彼の横を通り抜けて、部屋から飛び出した。
零君に会いたい。ただそれだけ。
流れ星に願いをかけて
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