ラヴコール


※凪が自慰してるだけの話



もしもし。
ざらついたノイズ混じりの彼女の声が聞こえた。何度かチューニングを繰り返しこちらの反応を伺うので、「聞こえるよ」と返事をする。弾みそうになるのを抑えた息を吐く音が聞こえた。

『急に電話したいって言うからびっくりした』
「文字打つのめんどくさくなっちゃった」

と言ってもやり取りは淡白なものであった。彼女の「生きてる?」のLINEに兎のスタンプを返したり、「生きた」の一言に「えらい」と返事が帰ってきたり。
最低限、日々の生存報告は面倒に思いながらもきちんとやり取りをしている。この手間を省けば、彼女はへそを曲げて他の男を選ぶかもしれない。愛想を尽かされる前に適度にしっぽを振って構ってもらっている。
ブルーロックに来てから、毎日のように眺めていたつむじが見れなくなったことを、凪は残念に思っている。

「特に話す事ないんだけど」
『うん』
「声聞きたいからテキトーに喋ってて欲しい」
『なんだそりゃ』

呆れながらも彼女は笑って口を開いた。
今日は現国の谷山先生が時間勘違いしてね。そう、学食の焼きそばパンを初めて買って食べたんだよ。たわいの無い話を相槌を打ちながら聞いていた。彼女があまりに優しい声色で話すので、凪は段々と己の内側から諸々が溢れそうになるのを感じた。

「(あ、駄目かも)」

身体を預けていた壁から背を離して、煌々と輝く廊下を早歩きで抜けた。普段人とすれ違うことが多いトイレより、少し離れた薄暗いトイレの個室に入って鍵をかける。
下半身を見ればジャージが不自然に持ち上がっており、凪は自分の性欲にゲンナリした。

「(声聞いただけでコレって……。マジかー……)」

男子高校生の性欲を舐めるべからず。同じチームの人間が、溜まりすぎてちんこ爆発するとか下世話な話をしていたのを思い出した。声を聞いたのも久しい、体に触れたのはもっと前だ。ほんの数ヶ月の話、けれどなんだか果てしないほと過去の話のような気さえする。
己の欲に観念して凪はズボンをズラした。

『凪?』
「ごめん電波悪かったかも」
『ああ』

ボクサーパンツを下げると、反り勃った陰茎が飛び出して腹を打った。面倒な自分を恨めしそうに見つめて、右手でそっと包んだ。

『バイトも始めたんだよ。気になってたAI関係でプログラミングから勉強してて……』
「うん……」

呼吸が音として入らないように息を飲み込んで、中心を一定のスピードでゆるく扱く。彼女はきっと少し目を細めながらチョキを眺めて、電話越しの自分の姿を思い描いているのだと思うと尚更興奮した。逆にこちらはというと彼女の上擦った声と柔らかな曲線美を思い浮かべながら、片手とヨロシクしている。どう考えてもバレたら怒られる。

「う〜……はぁ……ッ」
『……大丈夫?』

堪えきれない声が漏れる。それを心配する声に、罪悪感が募った。

「あ〜……いやちょっと体調悪くて。声聞いて元気だそうかなって思った」
『え、それは大丈夫じゃなくない?』
「ン、でも声聞けると嬉しい」
『大人しく寝てよ馬鹿』

声のトーンが少し高くなる。彼女が照れているのだと分かった。
亀頭をするりと撫でて、手の動きを早める。段々とせり上がってくる快楽と精子をまだそこに留めようと、身体を前屈みにして耐える。

「あのさ……俺の事すき……ッ?」
『え? なに急に』
「ッ……は、だいすき?」
『ん〜凪はどう?』

ここで焦らし。今すぐにでもそこに全てを出してしまいたいが、彼女がそれを許してくれない。私のこと好き?とわかりきった答えを凪に促した。喉の奥を締めながら、振り絞るようにラブコールを叫ぶ。

「すきッ、だよ……俺、名前のこと」
『ん、凪のことすき』
「……〜〜ッ、ァ……!」

彼女の言葉をリフレインして、頭が真っ白になった。背を丸くして、音声が入らないようにスマホを頭上に離して上げる。握りこんだ自身がびくびくと震えて手の中に吐精した。は、は、と肩で呼吸を整えると、段々と思考がクリアになっていく。名前を呼ぶ声が小さく個室に響いていた。とりあえず返事はしなくてはと、余韻に浸る間もなくスマホを改めて耳に当てる。

「うん……」
『なんか、満足した感じ?』
「うん、サイコー。ありがとね名前」
『……じゃあ、早く寝てね。おやすみ』
「おやすみ」

名残惜しくもこちらから通話の終了ボタンを押そうとすると、最後に『大好き』と彼女の囁くような声が聞こえた。

「は?」

無慈悲にも電話が切れた音がする。
暫く放心して彼女のアイコンを眺めていたら、律儀にうさぎのおやすみスタンプが届いた。愛らしいうさぎを撫でるようにスワイプして、凪もおやすみをスタンプで返す。
どろどろの手をトイレットペーパーで拭き取って、また下半身を見ると元気だったからもう嫌になった。最悪だった。

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