チョコバナナサンデー、アイスをトッピングで。


凪くんのお家にお邪魔してミイラ取りがミイラになったので、出発はお昼前ぐらいになった。お腹は少し空いていたけれど、お腹が子供みたいに膨らむのが嫌でお昼ご飯は食べなくていいよって言う。
手をさり気なくつつくと、冷たくておっきい手が私を捕まえる。自分からちょっかいを出したくせに、緊張で手汗をかいていたから恥ずかしい。
そんなタイミングで「あつい」と凪くんが声を出したので思わず顔を見る。片方の手で顔を扇いでいる彼は、気温のことを言っているのだった。

「でもホントはこんなギラギラの時間に出る予定じゃなかったんだもん」
「俺のせい?」
「半分は。あとは太陽のせい」

都会の数少ない植木から、混みあった蝉の声がする。私たちも日陰を求めて、店が並ぶ通りを歩いていく。
目的地は繁華街の外れにある。私たちは歩く度にどんどん口数が少なくなって、ぬるくなった手の温度を感じていた。
道の角を曲がる時、カフェののぼりに「チョコバナナサンデー」の文字が見えた。私の視線が揺れる布に釣られるように動いて、凪くんが立ち止まる。

「チョコバナナ?」
「あ、うん。ごめんつい見ちゃった」
「食べたい?」
「えっ?」
「なんかほら、頑張ったぜーのご褒美みたいな」
「あー……じゃあ、帰りに?」

「うん」と凪くんが返事をして、私は空いた手の方の裾を握り込んで頷いた。胸を羽根でくすぐられるような心地だ。
カフェの角を曲がって少しすれば、お目当てのホテルだった。昼間だからか想像してたのよりも派手じゃない、普通の宿泊施設の装いをしている。それでも入口近くに設置されたビビットピンクの下品な吊り看板は、ここが何たるかを丁寧に教えてくれているように思えた。
堂々と入れば誰も咎めないという凪くんの言葉を信じて、私は190センチの影に隠れながらホテルへと入る。凪くんは手間取ることもなくスマートにチェックインを済ませて、ホテルのカードキーを抜き取った。
エレベーターで5階に上がるまでの死刑執行を待つ囚人のような心地、部屋の扉の自動ロックがかかる無機質な音。
キングサイズのベッドに腰を下ろして、少しの沈黙が二人の間に流れる。昼間なのにこの部屋は夜のように薄暗い。

「汗臭いと思うし、シャワー浴びてくるね」
「うん」

私はアメニティをいくつか手に取り、逃げるようにお風呂場の扉を閉める。寂しいくらい広い空間にぽつんと私ひとりだ。
袋を切ったボディソープは、他人行儀な花の香りがする。

凪くんと体を重ねる試みをするのは、これで2回目になる。お家でした時はいたくて、上手く全部入らなかった。段々と惨めな気持ちになって涙が零せば、凪くんは困ったように眉を少しだけ下げて、「また今度しよ」って私の鼻にキスをした。めんどくさい女に、凪くんは優しかった。

「はぁ……」

シャワーのお湯が床に跳ねる音、私の心拍が胸に手を当てなくても分かる。バスローブと着てきた服と迷って、私は真っ白なバスローブに手を伸ばした。

「お待たせ……」
「ん、おかえり。これ見て待ってて」

スマホを私に手渡して凪くんは身体を起こす。画面の中では青いラッコが涙目で右往左往しているのが見えた。

「ぼのぼのだ」
「俺、風呂早いからちょっとしか見れないと思うけど」

凪くんは頭を掻く。
多分、彼なりに気を遣ってくれているのだと思って、有り難くスマホを使わせて貰うことにした。みんなで隠れんぼをするお話のようで、ネットで有名なしまっちゃうおじさんは出てこない。
ぼんやりしているぼのぼのがなんだか凪くんに見えてきて思わず口角が上がってしまった。今度なんかキーホルダーとか買おうかな。
次の動画が再生されようとした時、横腹に重たい衝撃が走る。

「わ」
「あがったよ名前」

濡れた髪のまま、お腹に頭をぐりぐりと押し付けるので、バスローブが水分を吸っていく。動く度に凪くんから私と同じ香りがした。
「名前」と、もう一度名前を呼ばれる。顔を上げた凪くんは、何かを堪えるように瞳を揺らしていた。
チョークで塗りたくった真っ白な手の根元は、毛深い茶色の腕をしたオオカミであることを子供の私は知っていたはず。あ、と私は間抜けな声を出して、後ろ手にシーツを握りしめた。

「ね、ちゅーして」

恐らく彼は「いいよ」の代わりの、身体に触る許可が欲しいのだ。ずるいと言いかけた言葉を胃の中に飲み込んで、私は凪くんに触れるだけの口付けをした。
それを合図にして、縺れるような形でベッドに押し倒される。ちゅ、ちゅ、と私のキスが凪くんの呼吸に飲み込まれて深くなっていく。頭が働かなくなるまで、ずっと舌を絡めて吸って合わせた。どちらのか分からなくなるまで唾液を交換して、口周りがべとべとになっているのにも気にならない。

「あのさ」
「ん……」
「めんどくさい事あんま考えなくていいから。イヤだったら言って」

肩で息をして、私は頷いた。凪くんは私を見下ろしながら舌で唇を濡らす。はだけたバスローブの隙間を縫って、ブラジャーに手が触れた。ふにふにと重量を確かめて背中に手を回ると、ふと締め付け感が無くなる。
ブラジャーは、ぞんざいに投げ捨てられどこかに消えてしまった。
今日タグを切ったばっかりなのに。
目線でブラの消えた方向を追うと、凪くんは視線を遮るように顔を傾けて、耳たぶを口に含む。耳珠に熱い吐息が掛かり、背中を甘い快楽が駆け上がった。

「んっ……う」
「だめ」
「凪くん……」
「だめ、他のとこ見ないで」

鼻にかかった甘い声に拗ねるようなトーン。
頑なに目を逸らす私の顎を撫でるから、恐る恐る見上げる。とろんとした瞳の奥に見え隠している激情と視線が交わって、ドキリと心臓が跳ねた。段々と剥がれる兎の化けの皮がある。私も隠しきれない欲しがりな表情をしているのだと思うと恥ずかしかった。
胸を隠そうとした左手が退かされシーツに落ちる。片乳をやわやわと揉まれ、時折頂を掠めて動く指に吐息が鼻から漏れた。もどかしい快楽を逃すように膝を擦り合わせる。
ゆるやかな身体の凹凸に下へ下へと手を滑らせて、ついにレースに包まれた秘部へと到達してしまう。人差し指でクロッチ部分をなぞられ、下着が湿り気を帯びるような感覚がした。「濡れてる」と凪くんがわざわざ口に出して、その事実を確かめるように何度も指は往復する。
段々と羞恥に耐えきれなくなって、腕を太ももで挟んでしまった。凪くんは前髪の隙間から、こちらを伺うように首を傾げる。

「……イヤ?」
「っ……いやじゃ、ない」
「じゃあ、見せてくれる?」

目線だけの攻防。沈黙している間も、凪くんはただ私の動きを見守っていた。助けはこの部屋のどこにもありはしないのだと、仰々しい音を立てて閉まった扉のことを思い出す。自らこうなることを望んだくせに馬鹿みたいだ。
私は観念して、焦らしながらゆっくり太腿を開く。

「……かわいい」

レースが太腿から引き抜かれて、息を飲む間にまたどこかへ飛んでいく。
彼は私の下腹部を撫でて、顔を近づけると陰核にちゅ、と口付けた。突然訪れた甘い刺激に腰が跳ねる。

「っ!? や、きたな……」
「汚くない。痛くないように、いっぱい慣らさなきゃだし。多分、気持ちいいと思う」

飴でも舐めるみたいに陰核を舌で包まれて、ちゅうちゅうと吸った。舌先で転がしたり、つついたりして刺激を与えられれば、軽い快楽の波にのまれて腰が震えた。言葉にならないはしたない声を上げて、欲しがりな蜜壷が質量を求めてひくひくと収縮する。
求めるままに指を差し入れくるりと回されると愛液が溢れ出て、凪くんは舌で唾液と混ぜ合わせた。どろどろになった液を指の腹で掬っては、内壁に塗りたくるようにナカへと戻す。入らなくなった液が漏れて、段々とシーツに染みを作って広がった。

「あ〜〜ッ、むり、や、」
「狭いね……もうちょっと、我慢……ガマン」

指が二本、三本と増やされる。
増やされていく指に集中していると忘れた頃に突起を人差し指で嬲られ、快楽で頭を殴られた。
指を抜かれたと思えば、凪くんの舌がナカを押し分けるようにして入ってくぷくぷと体液が満ちるいやらしい音を立てる。
そして、その尖らせた舌がある一点を掠めた。びく、と身体が今までより大きな快楽を拾う。

「ッ、ン……?」
「んーー?ふふ……」


凪くんが嬉しそうに笑い声を漏らした。
瞬間に、ざらざらした舌がそこを擦るように、何度も往復する。

「!? 〜〜っあ……ぁッ!」

視界がぱちぱちと明滅を繰り返して、身体が強請るように弓なりに反れた。息が止まりそうになって、震える身体がぎゅうと舌を締め付ける。

「は、はッ…………、」
「あ〜、かわいい」

凪くんは舌なめずりをして下腹部から顔を離し、私をぎゅうと抱きしめた。絶頂に追いやられたばかりで、なんでも快楽を拾ってしまう身体は小さく震えてしまう。
それでも、今すぐにあったかい体温が欲しくて背中に手を回した。彼の心臓はいつもより速く脈打って、触れ合った素肌は汗ばんで熱い。他人行儀な花の香りに混じって、バニラの甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐった。
凪くんは宥める手つきで何度か頭を撫で、目線を合わせて鼻先にやさしいキスを落とす。

「いい?」

私は口付けで返事をした。いいよ。

「痛いときは、」
「言う……でも、凪くんもあんまり我慢しないで……ほしい」

沢山我慢させて私だけ気持ちよくなってしまったから、今度は凪くんも一緒がいい。
窮屈そうにテントを張ったボクサーパンツを足先でつつ……となぞると、彼は大袈裟なまでに肩を揺らす。驚いたように私を見つめるその熱の篭った瞳が、この時だけでも私を離さなければいい思った。

「ッ、なんで、こう……。あ〜〜……もう、めんどくさい」

ゴムの袋を口で破り、脱ぎ捨てた化けの皮。
体液で満ちた蜜壷に、怒張した肉棒の先端が触れる。灼熱の楔がみちみちと肉を押分けるように入っていき、徐々に迫る快楽の予感に腰が逃げようと浮き上がった。逃さないとばかりに柔いくびれを掴み直され、ゆっくりとしかし性急に奥へと奥へと挿入する。
お腹がいっぱいいっぱいで苦しくて、助けを求めるように背中に爪を立てた。ギジリとベッドが最後に悲鳴をあげて、凪くんの動きが一度止まる。
彼は一息ついて「全部入った」と呟いた。ぜんぶ、はいった、言葉を胸の中で反芻する。安心したら不意に出た涙で視界が潤んで、凪くんはその雫を拾うように瞼にキスを落とす。

「チョコバナナサンデー」
「うん」
「アイス……いっこ追加していい?」
「ん、今日ぐらいはいいよ」

ぜんぶ嬉しくって、今度は私から凪くんのかさついた唇に口付けした。お腹の中の圧迫感がまた増し、苦しくてくぐもった声が出る。
凪くんは何も言わずにゆるりと律動した。
浅い所から突いて、離してを繰り返されれば思考がふわふわと飛んだ。理性を溶かして、私が彼のカタチになっていく。

「うっ、アッ、ぁ……ン、すき、なぎく」

もっと、って招くみたいに、なぎくん、なぎくんって愛おしいひとの名前を呼ぶ。
名前を飲み込まんとして、長い舌が口内を荒らした。息もままならない中で必死に酸素を求めて口を開けば、唾液が糸を引いて口の端から垂れていく。それは彼も同じだった。
ぐち、ぐちゅ、と奥を揺さぶり、肌が打たれる度に体液が押し出されて、身体がびくびくと震えている。掛け布団に足が引っかかって、そのまま蹴りあげた。

「名前、俺もすきッ……」

自然と早くなった律動に、凪くんの背に痕が残るのも気にせず爪を立ててしがみつく。彼も加減を忘れた力で腰を掴んで、一度抉るように奥を穿った。

「〜〜〜〜あ、ッン」
「ッ、イッく……」

連動するように胎内からうねり、子種を強請る痙攣で絶頂まで押し上げられる。ふるりと身体を震わせた凪くんは何度か奥に腰を打ち付けたあとに、萎えたずるりと陰茎を抜いた。

「ン、はぁ…………。すき、 名前」

頭を私の胸に預け、溶け出したスライムのようにベッドに身体を沈める。そして彼はゴムの口を結んで、これまた適当にどこかにぶん投げた。
彼を髪の毛を愛おしさで弄りながら、ふと視線を上げてラブホテルの天井をまじまじと見つめてみる。そこで、初めてこの部屋の天井が色あせたハート模様をしていた事を知ったのだ。

「…………つかれた。二時間ぐらい寝ていい?」
「それじゃ喫茶店閉まっちゃうよ。お腹すいちゃった……」

各々が好き勝手に、三大要求のうち二つの欲望を口にした。全てが終われば、忘れていた食欲が胃の痙攣として戻ってくる。もうお腹で押し上げられるスカートの膨らみを気にしなくていい。そう思ったら気が抜けて、ぐぅ、とお腹が正直に鳴いた。

「今日は頑張ったぜーなんでしょ?」
「うん……」
「チョコバナナサンデー、アイストッピング」

呪文のような言葉に凪くんは溜息をついて、身体を四つん這いに起こした。顔がめんどくさいを物語っているのに、こういう時は口に出して言わないで黙っている。
面倒くさがりのくせに、面倒くさいを一緒にしてくれる凪くん。丸まった背中がなんか、好きだった。
私が手を伸ばして彼の両足を引っ張れば、「ぐえ」という潰れた声を出して顔がシーツに沈んだ。

「三十分だけ、一緒に寝よ」

ミイラ取りがミイラになる理由は、きっとこういう所にあるのだ。


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