IF : release but turned on.



原作沿い・分岐ルート設定。


“もしもサユキの処遇がG-5左遷ではなく、モモンガ中将直々の『監理』進言が認可され、直属秘書となっていたら”

“そして遂に、彼だけが『サクラ』の『心身ともの清廉潔白』を知ったとしたら”






そんな前提からお楽しみ頂ける方は、どうぞ以下へとお進み下さいませ。

別角度から明かされる過去や、いかに。








***



それはまるで、赤黒く蒼白く混じり合い、包帯で巻き上げた部下を潮騒へ封じ呑ます、艦下の水葬に似て。



「―――、……ッ……!」



この上なく互いに向き合い、座った男女の接合部分。

その最深部から確かに裂け、流れ出た一縷の“証”に、まるで己の身が貫かれたかの様な理性の衝撃と、本能の情動を感じる。

……同時に、ない混ぜになった苦悶と行き場のない怒りに震えた身体を、こんな時まで思いやりを見せるサユキが柔らかく撫ぜた。



「……どうか、誇って下さい。これはあなたが方々へ手を尽くし、証拠を集め、あらゆる下卑や猜疑と闘い、お護り下さった成果なのですから」

「誇れるものか。当然、……当然だ。お前の処刑案は見せしめでしかなかった。
罪状も濡れ衣に過ぎん。――マイナスをゼロにした所で、許せるものではない」



本来ならば。
こうしてお前の無垢を喰むのは“誠実な少将”だったのだろう。

だがそうは“ならなかった”理由を、私は身を持って知っている。

お前の性分は――――人間ひととして“堕ちる”には、あまりにも眩しかった。



***


あの日。
ただ幸せであれば良いと見守るに留めていた感情は、鉄格子越しに面会した瞬間、瓦解した。

投獄されたと聞き駆け付けた私の、目の前。

鎖が蛇行する獄中の隅、高窓から射し込む光に向かって目を閉じていたサクラは、ピンと背筋を伸ばした“いつも通り”の正座で、柔和に微笑んでいたのだ。

まるで、春の縁側で茶でも啜っているかの様に。

収監されてからずっとあのまま、だと困惑する看守立ち会いの元、……私は口を開いた。



『なぜ笑う?』



至って自然な疑問に、サクラはまた、朗らかな笑顔を浮かべて。



『わたしが死んでも、お日様はあたたかいでしょう』



帆船には、晴れやかな出港が似合う。

洗濯物は乾き、ふかふかの布団は良い匂いがして。

子供たちは何処へでもはしゃぎ回り、昼寝して。

作物は育ち、すくすくと伸びていく。

大切な日の一張羅もビシッと決まって、傘がない分、両手にいっぱいの花束だって持てる。

武器にも花火にもなる火薬だって、晴れれば誰かを護れるし、夜が来れば輝ける。



『そんな――わたしの愛するあたたかさは、わたしが死んでも“確実に”続いていく事が嬉しくて。つい、笑ってしまいました』



己の命を奪われようという時に全体を俯瞰し、希望を持って足るを知る。

────見事としか言い様がない精神性に、私は見上げた心持ちがした。

そして同時に、畏れもした。



『…………サクラ』

『はい。モモンガ中将』



目的と手段が入れ替わり、純然たる武力のみを追い求める者が跋扈する、このせかいにおいて。



『私には、お前が必要だ』



それほどの境地に在る者の価値を、私は示し続けよう。



***



明確な決意を腹の底に括り付け、同じ足でセンゴク元帥の元へ向かった。



『おお、来たか。モモンガ』

『聞こう』



同室に居られたガープ中将も腕組みをし、ジッと耳を傾けられること数刻。

大将赤犬を筆頭に、粛清を強行せんとする一派優位の現状に、真っ向から否を唱える。
事を荒立てるのは本意ではないが、サクラの生命を天秤に掛ける以上、迷いなど無かった。



『──以上の事から、サクラは私の監理下に置かせて頂きたい。必ずや、力となるでしょう』



それから、どの程度経ったか。



『どうじゃ、センゴク。ここまで言うんじゃ、ひとつ賭けてみんか?』

『わしは、モモンガとサユキに賭けるぞ!』



豪放磊落なその一言が、決め手となったのか。



『…………そうだな。私も、お前達ふたりに賭けてみよう』


聴取を聞き終えたお二人の判断は、やはり完全に好転して。



『────話は聞かせてもらった。あ、センゴクさん、これ今日付の書類』

『クザン……全く、お前という奴は……』

『まァまァ。間に合ったでしょ』



バン、と見計らったのであろうタイミングで無遠慮にドアを開け、入室した大将青キジが言う事には。



『つーかモモンガ、お前やるなァ。旗色悪くなったら加勢しようと思ってたけど、すげェ語るじゃん。サユキちゃんの事大好きだな』

『なッ……!』

『クザン。茶々を入れる暇があるなら明日付の書類を出せ』

『あらら。んじゃ、失礼しまーす』

『ぶわっはっはっはっは!!』



嗚呼。
全く、笑い話にもならんな。

おちた、…………などと。



***



「……まだ痛むだろう。無理に動くな」



静かにそう呟くと、鍛え抜かれた中将の肉体が、比較して――『故郷ノースブルーの白樺に似ている』――私の身体を、枝垂れかからせる。


……わたしが中将のお膝に乗るこの形を望んだのは、こうして自分の事のように心を砕き、慮ってくれるあなたを、この胸に抱いてみたかったから。

“堕ちた”海賊抜きには語れない、忘れる事も出来ないわたしを、それでもこうして求めてくれるから。



「………………サユキ、一つ聞くが」

「ふふ。はい」

「まさかとは思ったが、……私を甘やかしたいのか?」

「ええ、というより――」



***



わたしは――そう。

“サクラ・サユキ”は、海賊へ堕ちた“元少将”の『愛弟子』扱いだった事から『死罪人』とまで呼ばれ、裏切りを見抜けなかった『盲信の象徴』として、文字通り、いつ首が飛んでもおかしくない状況だった。


ただ、生まれついての「見聞色の覇気」を、そうとも知らずに平然と使って生きていた所を、“少将”が見出して――

――海軍という正義の思惑が入り乱れる縦社会を、幅広い人脈で柔軟に導いて来たのだ。


温かい家庭で育ち、平和慣れした一般市民。


戦場では無力でも、“先読み”を活かした裏方仕事……

保護された動植物の世話や迷子・怪我人の案内、雑用の効率化、住民の避難船における備蓄拡充。

果ては難解なマニュアルの改訂や、軍内文書の推敲に飽き足らず。

気づけば“旧友”の海王類などを相手に、軍艦上で交渉役まで務める「新兵」として、まっさらな制服に袖を通す日々。



『ふむ。いや、スカウトしておいて言えた事でもないんだが、サクラは異例の海兵だからな。何かトレードマークが有った方が……』

『!そうだ。これを羽織ってみたらどうだ?新作の軍製ケープだそうだ』


『あぁ、良いじゃないか。……よく似合う……』



一番鮮烈で、あまりにも優しくて。



『あ、の。少将。海兵を名乗る以上、ストイックに髪も切った方がよろしいのでしょうか?』

『いや、それは――――』



***



“最後”になった会話をたまらなく掻き消してから、ジッと私の言葉を待つモモンガさんに、視線も重ねて。



「わたしのいのちを、体感してほしいのです」



今、自分がどんな顔をしているのか、分からなかったけれど。



「………………ならば、触れるぞ」



瞬間、全身を駆け抜けた肌があわ立つ感覚に、……“何か”の手綱を放してしまったかの様な感覚に、じっとりと汗ばんでいた広い背中へしがみつく。

気づけば溶け合っていた“中”の感覚が、みちりと引いて、また満ちた。



***



「あ、ッう、ん、あ、ぁ、ひ、ぁ」

「……、……ッ」



小刻みに揺らされ続けて、どれくらい経ったか。

まともな思考はとうに融け、身体の中心、濡れそぼった秘所が、ハッキリと聞こえるほど粘着質な音を立てる。

腹部を内側から擦り上げられる奇妙な感覚は、次第に波打ってはわたしを呑み込んでいって。

熱い腕に抱かれ、侵食する口付けを受け入れ、胸の頂を吸われては迸る意識を、大丈夫か、と囁く声が辛うじて繋ぎ止めていた。



「……ッ……そろそろ、いいな」

「ぁ……ももんが、さん。……あの……」

「どうした」



潤んだまなざし、上気し甘く匂い立つ身体、蕩け切った舌足らずな声音。

……正直な所、今すぐにでも果ててしまいたいギリギリの線上で、逸る猛りを押し殺し返事を待つ。



「ありがとう、ございます。……わたしを、しあわせにして下さって」

「わたし、」

「あなたに抱かれてよかった」



それからの事は、よく憶えていないけれど。
一番激しい律動に震えながら登り詰めた高みで、痛いほど抱き竦められたまま眠りに落ちていく最中。



咲んだ花に、私は誓った。



「サユキ」

「愛している」



end.


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