18
次の日、体育委員である私は体育祭の担当決めのため部活前に集合の声がかかった。体育委員は各クラス男女1名づつ。全クラス集まったところで話が始まり、準備から当日で各々担当を決めるとの事だった。私は当日の担当は嫌だったため事前準備の担当になった。体育祭で使う道具や備品の確認担当で、私の他に3名いた。そして、その中にはバレー部の近藤くんがいた。前回の体育委員の集まりは6月の球技大会前だったが、その時は近藤くんの存在を知る前だったからまさか同じ委員会とは思ってもなかった。
私と近藤くんの他2名は、どうやら2年生女子の先輩2人で仲良しのようだった。その事もあり、2年の2人はグラウンドの倉庫担当、私と近藤くんは第一、第二体育館の倉庫確認を担当する事になった。
「みょうじさん久しぶりやな。よろしく」
「あ、う、うん。よろしく」
「ははっ、そんな怖がらんくてもええよ。もう人のもんやし、取って食ったりせんから。同じバレー部で揉めんのもダルいしな」
近藤くんは私の態度を見て何かを察したのか、何もしないと宣言してくれた。きっと倫太郎くんから聞いた近藤くんこ話も、ただ付き合ったのかを確認しただけやったんかなと思った。
その日の夜、一応倫太郎くんに電話で報告をすると凄く心配された。近藤くんとの会話も伝えても納得した様子はなくて、むしろ危機感持ってと注意された。
「倉庫内確認する日だけちゃんと教えて。絶対ね」
「わかった。たぶん再来週のテスト後とかにわかると思うからまた教えるね」
そう言うとしぶしぶ納得してくれた。倫太郎くんと付き合ってから分かったことは、彼はかなりの心配性やった。私に対しては特に。別に不満もないしむしろ嬉しい事やけど、倫太郎くんは疲れへんかなって私も不安になってしまう時がある。
それからと言うもの、倫太郎くんはほんまに私の護衛なんか?ってくらい一緒におる時間が増えた。全然ええんやけど、クラスの子との交流とかもあるやろうし大丈夫なんかなって思いつつ、それを口にすると拗ねそうやったから心の中にしまっておいた。
そして今日からテスト週間と言う事もあり、全校生徒部活禁止週間にもなった。倫太郎くんと約束通り勉強をするために放課後図書室へ向かう。
「席空いてへんね」
「みんな考えること一緒だね」
図書室は人がいっぱいで、席も座れない状態だった。
「勉強する場所探すのもめんどいし、もしよかったら私の部屋で勉強する?お母さんおると思うけど、お母さんにも倫太郎くんの事紹介したいと思っとったし。もちろん倫太郎くんがよければやけど」
突然自宅、むしろ自室に誘うのはやばかったかなと思ったけど、お母さんに紹介したいのはほんまやったし、勉強も静かな空間の方が捗るしと思い声を掛けた。倫太郎くんは少し驚いていたけど、私の説明を聞くと「それならお邪魔しようかな」と承諾してくれた。
「手土産とか持って来てないけど大丈夫かな」
「そんなんいらんって!突然私が誘ったんやし、ほんま気遣うような家庭でもないから」
倫太郎くんが珍しく少し緊張しているようだった。自分が逆の立場やったら同じ気持ちなんやろうなと思うけど、ほんまにうちの家は一般的やし、お母さんにも倫太郎くんの事は話してるから問題は全く無い。
「家にはお母さんだけ?」
「お父さんは単身赴任で東京行っとって、お兄ちゃんは4月から大学生で今は京都で一人暮らししとるよ」
「そっか、じゃあ今はお母さんと2人で家にいるんだね」
「うん。きっとお母さん倫太郎くんの事気に入るやろうから、また遊びに来て欲しいな」
「じゃあ気に入ってもらえたらそうしようかな」
そんな会話をしてるとあっという間に家に着いた。事前に倫太郎くんを連れてく事を連絡していたから、鍵を開けてそのまま家に入る。
「ただいま」
「お邪魔します」
「わー!倫太郎くんやんな!なまえの母です〜!」
お母さんさんはおかえりも言わずに倫太郎くんにがっつく。ほんま恥ずかしいからやめて欲しい。
「むっちゃ身長高いな!バレー部なんやってね!ちょっとなまえ〜!むっちゃかっこええ彼氏やん!」
「あ、ありがとうございます」
「ちょっとお母さん落ち着いて…」
「ごめんごめん!なまえに初めて彼氏紹介したいなんて言われたもんやから嬉しくて〜!」
お茶準備してくるから手洗いして部屋行っててなー!と侑くんに負けず劣らず大きな声で言いながらリビングへ戻って行った。
「…ほんまごめんね」
「いや、めっちゃ歓迎されて嬉しかったよ」
手洗いをして部屋へ行くと、倫太郎くんは部屋を見渡してソワソワしていた。
「なまえの部屋、可愛いし綺麗だね」
「あんまりごちゃごちゃするの嫌やから物は少ないかも」
「シンプルだけど女の子って感じでめっちゃいい」
「ほんま?良かった」
部屋の真ん中にローテーブルと小さいクッションを置いて座るように促す。そのタイミングでお母さんがドアを叩いた。
「お茶とお菓子、なまえの机に置いとくね。お母さんもう少ししたら買い物行くんやけど、倫太郎くん夜ご飯うちで食べていかん?」
「いや、突然来たのに夜ご飯までいただくなんて申し訳ないです」
「そこは気にせんでええよ!ほら、うち男2人家におらんからよう食べる人おらんくて。たまにはたくさんご飯食べてくれる人と一緒に食べたいやん?」
「倫太郎くん、無理にとは言わんけど、予定とか無いんやったらよかったら食べてってよ。ほんまに気は遣わなくて大丈夫やから」
「…それじゃあ、お言葉に甘えていただいてもいいですか?」
「もちろん!久しぶりに腕を振る舞うわ〜!アレルギーとか嫌いなもんはない?」
「はい、大丈夫です」
了解!と言って喜んで部屋を出ていくお母さん。倫太郎くんの事をよほど気に入ったみたいで良かった。
「なまえはお母さん似だね」
「うん、よく顔似てるって言われる」
「顔もだけど性格とか雰囲気も含めて」
「そう?」
「嬉しそうな時、全力で嬉しいって表現したり、素直に言葉にしてくれるところとか。いいお母さんだね」
「それお母さんに言うたら嬉しくて舞い上がるよ」
勉強道具を出しながら、そんな会話をしていた。大好きな彼氏に家族を褒められて嬉しくないわけがない。
「お父さんとお兄さんはどんな人?」
「お父さんはお母さんよりも優しいし、雰囲気は倫太郎くんに似てる気がする。物静かそうに見えて話すと普通に話してくれる人やね。お兄ちゃんはTHE お兄ちゃんって人やから、可愛い年下大好きなんよ。だから倫太郎くんの事も気にいるやろうなって思っとる」
「そっか。いつかなまえの家族に会いたいな」
「うん、倫太郎くんの事みんなに紹介したい思っとるから、また家に呼ぶね」
「ありがとう。俺の家にもいつか行こ。俺も家族になまえの事紹介したいから」
「ほんま?嬉しい。緊張するけど行ってみたいな」
倫太郎くんのご家族も優しそうな人達なんやろうなと思う。そやないとこんなに温かくてええ人に育たないと思うし。
そんな約束話をして、私達は本題の勉強に入る。倫太郎くんはやっぱり地頭がええから、文法を教えるとすぐに理解をしてくれる。たぶん文法さえ覚えれば英語も点数取れるレベルやった。
それに比べて私の数学は大変やった。
「これってこの公式?」
「んー、いや、こっちとこっちの2つを使うの。これはこの文章問題の応用編なんだけど、この答えを聞く時は2つの公式を使うんだよ」
「…頭パンクしそうや」
「一回休憩しようか。お母さん持ってきてくれたお菓子食べたら?」
「食べる…」
数学だけはほんまにいつも挫折して、他の教科は正直褒められる点数を取るのに対して、数学はいつも赤点ギリギリ。先生にも弱点を克服しろと口酸っぱく言われてる。数学さえ点数良ければ学年20位以内も夢じゃないと思っているけど、いくら数学を勉強してもテスト用紙を目の前にすると頭がこんがらがって上手くペンが進まなくなる。
「倫太郎くんってテストの学年順位どの辺なん?」
「俺?ど真ん中」
「そうなん?」
「俺文系苦手で。理数系で点数稼いでる。赤点とかはないけど」
「倫太郎くんも苦手教科あるんやね」
「全然あるよ。むしろほとんど苦手」
頭が疲れたからか、何故か分からへんけど無性に倫太郎くんに触れたくなった。
「なぁ、倫太郎くん。キスしてもええ?」
「…なまえどうしたの?」
「分からへんけど、今むっちゃ倫太郎くんに触れたくなった」
そう言うと倫太郎くんは長いため息をついた。
「なまえさ、この状況わかる?大好きな彼女の部屋、密室、2人きり、家には誰もいない、近くにはいつも触れたいと思ってた可愛い彼女がいる」
言いたいことは何となく分かった。倫太郎くんはきっと我慢してるんやろなと察した。
「俺もなまえがこんなに近くにいるんだからキスしたいし触れたいよ。けど、キスしたら止まらなくなりそうだから我慢してたんだよ」
「…我慢しなくてええよって言ったら?」
「なまえさ…」
「お母さんの買い物も1時間後とかに帰ってくる」
「ねぇ、意味わかって言ってる?」
「私そこまでアホやないよ」
今日の私はほんまに可笑しくなったんかなってくらい倫太郎くんを欲していた。触れたいし触れられたい。いつも自分が過ごすテリトリー内に、大好きな人がいるのがそうさせてるのか。倫太郎くんは少し迷っているような表情をしてる。そしてポツリと一言こう言った。
「今の俺はキスだけじゃ止められないと思う。それでもいいなら、なまえからキスして」
私は覚悟を決めて倫太郎くんに近付き、頬に手を添えてキスをした。その瞬間、倫太郎くんの目の色が変わった。
「もう知らねぇから」
何かに飢えた獰猛な肉食動物のような、そんな目をした倫太郎くんが、いつもと違う荒々しいキスをした。
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