17
次の日、朝練を終えて教室に戻ると先に戻っていた絵麻が私のところへ来た。
「なぁ、もう他の学年まで知れ渡ってたで」
「へ?」
「吹部の先輩がもう知っとったで。角名くんとなまえのこと」
「…え、情報回るの早すぎひん?」
「まぁ何せ稲高イチの美女と期待の男子バレー部員の恋やからな」
「私のこと買い被りすぎやろ。逆にバカにしてるやん」
「いや、ほんまの事やろ」
でも確かにチア部はほぼみんなに知れ渡っていて、知らなかった人たちももれなく今日知ったおかげで認知度100%になった。
その日は移動教室の時にいろんな人からジロジロ見られて、すごく居心地の悪い日やった。昼休憩の時に1人で購買へ甘い物を買いに向かうと、たまたまいつものバレー部集団がいた。
「なまえじゃん。購買にいるの珍しいね」
「甘い物食べたくて見に来てみたんよ」
「お、今話題のなまえやん」
「治くん、怒るで」
「なまえちゃん来てからの角名の顔が腹立つで今日は角名の奢りな」
「なんでやねん」
「下手な関西弁使うなや!愛知県民が!」
侑くんの大きな声で周りの注目を浴びてしまった。周りの人たちの視界に入ると、コソコソと「ほんまに付き合うてるんかな」「2人ともスタイルええしお似合いやん」「宮侑とかと付き合うんかと思っとったわ」となんだか陰口のように感じる言葉が聞こえてきて、気分は少し下がってしまった。
それに倫太郎くんは気が付いたのか、私の腰に手を回してわざとらしく体を密着させた。そして私の顔を覗き込み、意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「見せ付けるチャンスじゃん?」
侑くん達も周りの声が聞こえたからか、いつもなら揶揄うのに何も言わずいつも通りの会話をし始めた。
「てかなまえシャンプー変えた?いつもと匂い違う。いい匂い」
「新しく買ったヘアコロン付けてみたんやけど、いい感じ?」
「うん、俺この匂い好き」
そう言って私の髪を片手で掬い、スンスンと匂いを嗅ぎ始めた。そうする事で周りも何だか見てはいけない物を見ている気分になったのか、視線を逸らす人や何も見てなかった振りをする人もいた。
倫太郎くんはご満悦そうな顔で私を見つめている。治くんが角名こわ、と目を細めて見ていた。
「こうやっておけばもっと早く認知されるかなって」
「角名が言うとなんか怖くなるのは何なんやろ」
「マーキング感がガチなんやろな」
散々な言われようなのに倫太郎くんは特に気にした様子はなく、未だご機嫌のままだった。お目当ての甘い物を買って教室に戻ろうとすると、倫太郎くんに一緒に戻ろうと言われたので大男達に囲まれて廊下を歩く。侑くんになまえちゃんを守るSPになった気分や、と言われて何だか恥ずかしくなった。
「俺らのクラス次の授業で体育祭の競技決めやったな」
「そろそろそんな時期なんやな。俺全種目出たいわ」
「それは無理やろ」
「私走る競技出たいなー」
「なまえ走るの得意なの?」
「短距離は速い自信あるよ。長距離は無理やけど」
「なまえちゃん足速いん!ギャップあってええな〜」
体育は基本的に得意やし体育祭とかは燃えるタイプやからむっちゃ楽しみ。そんな話をしてるうちに1年のクラスに着いた。各々のクラスに帰るためほんじゃ、と言いながら帰っていく侑くんと銀島くん。
「今日の夜、時間あったら電話しよ」
「うん、ええよ。私は時間あるやろうし」
「わかった。また連絡するね」
そう言って倫太郎くんとも別れた。それを見ていた治くんと、私の帰りを待っていた絵麻からの視線を感じた。
「…なに?」
「いや、順調そうやなって思っただけ」
「角名って好きな人の前やとあんな感じなんやな。いつもはクールな感じやから」
「うん。角名くんどちらかというと近寄り難い雰囲気あるタイプやもんな」
「そう…かもしれん」
「角名は硬派やし一途やろうし、ええ男と付き合えたな」
治くんはそう言って購買で買ったパンを食べ始めた。自分でも素敵な男の子と付き合えて幸せやなって思う。その反面、最近倫太郎くんの人気が出てきているのも心配していた。それを分かって治くんは言ってくれたんやろうか。
その日の夜、約束通り電話をする事になりベッドで横になりながら倫太郎くんの着信を待った。スマホをいじっていると着信画面に切り替わる。
「もしもし、寝てた?」
「もしもし、寝てへんよ。SNS見てた」
最初はそんな雑談をしながらいつも通り話をしていた。
「そういえばさ、なまえって最近近藤から言い寄られたりしてない?」
「近藤くん?バレー部のやんな?最近どころかあのバーベキューから話してへんよ」
「そっか。昨日近藤から本当になまえと付き合ってるのかってしつこく聞かれてさ。何かちょっと怖かったから気を付けてね。何か違和感とかあったら俺に何でも言って」
「わかった。教えてくれてありがとう」
「なまえに何かあったら嫌だし。あ、治にもこの事話してて、同じクラスだしなまえの事気に掛けておいてって頼んでるから、俺にすぐ報告出来ない時は治に言ってね」
今日治くんが「ええ男と付き合えたな」って話してたのは、きっとこの事を聞いたからなんやろうな。ほんまにええ人と付き合えたわ、と心が温かくなる。
「私の事そんなに考えてくれてほんまに嬉しい。ありがとうね。むっちゃ好きが増した」
「当たり前じゃん。なまえの事ばっかり考えてるから」
「それは嘘やん」
「まぁバレーの事も考えてる時あるけど」
倫太郎くんは同い年やのにしっかりしてる。冷静に物事を考えれるというか、賢く生きているようなタイプやと思う。
「体育祭の前に期末テストあるよね、確か」
「そうやねん。今回も数学ピンチ過ぎるんやけど」
「数学なら俺得意だから教えるよ」
「ほんまに!?むっちゃ助かる!中学の頃から数学だけほんまに出来なくて」
「全然いいよ。その代わり英語教えてよ。この前の英語点数悪くて」
「英語なら大得意やから任せて!」
こうして部活の無いテスト週間に2人で勉強する約束を取り付けた。
会話が一旦落ち着いた頃、既に時刻は1時を回っていて明日も朝練があるからと通話を終了した。
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