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冬休みが終わり学校が始まってしばらく経つ頃、相変わらず倫太郎と私の関係は良好で楽しく過ごしている。同級生の間でも有名なカップルとして長らく浸透していたし、誰も間に入れる隙がないと言われるほど仲良しカップルと公認されていた。

倫太郎の誕生日もサプライズでユニバに連れて行き、楽しい誕生日を過ごせたし倫太郎も喜んでくれた。

そしてもうすぐバレンタインの季節になる。初めて好きな人にバレンタインを作るという事もあって気合が入っていた。

「うちは治にガトーショコラとか作るつもりやけど。なんかガトーショコラのキットとかも売ってるやん。あれ使ったら失敗もせんやろ。なまえは?お菓子作り得意やんな?」
「うーん、今迷ってんねん。何作ろうかなって」
「今週末買いに行こう思てたんやけど一緒に行く?日曜日三宮に用事があるから三宮のハンズ行くんやけど、見ながら決めてもええんちゃう?」
「そうやね。うん、そうするわ」

そう言って今週末の昼から絵麻とバレンタインの準備をすることになった。

そして当日、早めに三宮に着いたため少しだけ街をフラフラしていた。

「あれ?みょうじさん?」
「ん?あ、えーっと、倫太郎のクラスの…」
「篠宮ね、まぁ顔覚えてくれてただけ嬉しいわ。みょうじさんは買い物?」
「うん、バレンタインの買い出ししようと思って」
「角名かー。ほんまアイツ羨ましいわ。どこ行くん?荷物持ちしよか?」

そう言って一緒に行動しようとしてくる篠宮くん。

「友達と行く約束しててんけど、早めに着いたからちょっとフラフラしとって。もうすぐ待ち合わせやから私行くな」
「そっか。待ち合わせ場所は?駅前?」
「うん、そうやけど」
「俺も駅まで行こうとしてたからそこまで一緒しようや」

駅までは歩いて5分かからないところにいる。なかなか折れてくれず面倒くさく思ってるのと、5分程度ならまぁええかと思い一緒に駅まで行くことにした。

部活の事等話していると、後ろからスピードを出した自転車が人の目を潜って走ってきていたのを私は気付いていなかった。

「みょうじさん!危ないっ」
「え?」

篠宮くんに手を掴まれ凄い力で引き寄せられた。突然の事で足に力が入らず篠宮くんに密着するような体勢になってしまい、焦って体を離した。

「ご、ごめん」
「いや、みょうじさん大丈夫?」
「うん、ほんまごめん。ありがとう」

私達の間に少しだけ気まづいような空気が流れたが、篠宮くんがいつものように話しかけてくれたお陰ですぐに気まづさはなくなった。

「友達って結城さん?」
「そう、絵麻と買い物すんねん」
「こんな可愛い子と美人さん2人だけで大丈夫なん?ナンパとかされるんとちゃう?」
「知らん人はスルーするから大丈夫」
「強いな〜。…みょうじさんのその指輪、角名とお揃い?」
「そうやねん。クリスマスに一緒に買いに行ってん」

そう言ってリングを見るために手を前に出す。篠宮くんはあまり興味なさそうな顔で見ていた。

「ふーん。仲ええな」
「ふふふ、おかげさまで」

そんな話をしていると駅に着いた。少し早めに着いたため絵麻はまだ来ていなさそうだった。篠宮くんも大人しく帰るようだったので、良かったと安堵の気持ちで手を振ってそこで別れ、その5分後に絵麻と合流して買い物を楽しんだ。










部活の1日練習が終わってスマホを見ると、なまえからの連絡とクラスの女の子、百瀬さんから連絡が来ていた。正直別に仲良くもないし珍しいなと思いつつ3時間前に来ていた未読文を開くと、そこには写真2枚とメッセージが二言。

『角名くんってなまえちゃんと別れたん?』
『三宮の駅前でなまえちゃんと篠宮くんが密着して歩いとったんやけど』

そして、なまえと篠宮が密着している写真と、駅前で2人並んでいる写真が貼られていた。なまえからは朝に『絵麻と買い物行ってくる』と連絡があった。なまえが変な嘘を吐くとは思っていないけど、それでもこんな写真を見てしまうと、ドス黒いモヤモヤした気持ちが胸の中を占めてしまう。

たまたま会っただけと思いたいけど、それなら密着する必要は無い。高校から少し離れた場所というのも、胸のざわつきを加速させた。

『他に誰もいなかった?』
『うちが見た感じは誰もおらへんかったよ』
『ありがと』
『言ってええんか迷ったんやけど大丈夫やった?』

百瀬さんとこれ以上話す事は無いと思い、悪いと思いつつこのメッセージ以降彼女に返信することは無かった。

なまえにとりあえずいつも通り『部活終わった』と連絡を入れると、15分後に『私も絵麻と買い物終わったよ』といつもと変わらない返信があった。嘘をついているのでは、と疑念を抱いてからなまえの言動が気になって仕方ない。信用していたはずなのに、あんな写真の所為で頭がおかしくなりそうだった。

時間は16時半。今から会って直接話を聞いてみようと思い、なまえと会う約束をした。なまえもちょうど帰り道だったらしく俺の部屋へ来る事になった。

15分ほど待つと寮前に着いたと連絡があったから、門まで迎えに行きいつものようにコソコソと部屋へ上がってもらう。

「部活お疲れ様。途中ミスドあったから手土産で買うてきたけど食べる?」
「ありがとう。あとで食べよ。ちょっとなまえに聞きたい事あって」

なまえは見当もつかないような表情だった。モヤモヤしたままなまえといつも通り話せる気がしなかったから、着いて早々話を切り出す。

「どうした?」
「これ、同じクラスの子から連絡あったんだけど、今日篠宮と会ってたの?」
「え?」

なまえは目を少しだけ見開かせて驚いたような焦ったような、そんな表情をしていた。

「なんでその事…?」
「…本当なんだ」
「えっと、11時集合で絵麻と三宮で買い物する予定やったんやけど、早めに駅着いたからフラフラしてたら偶然篠宮くんに会っただけ。ほんまに10分くらいしか一緒におらんかったよ。11時からはずっと絵麻とおったし」

なまえが理由を話してくれた。結城さんに聞いてもいいよと言ってくれた。

「じゃあなんでこんなに距離近いの?こんな距離近い必要あった?」

そう言って百瀬さんから送られてきた写真を見せると、なまえは小さな声で驚いた声を出す。

「じゃあこれは事実って事でいい?」
「…ほんま言い訳みたいで嫌やねんけど、倫太郎に疑われたく無いから聞いて欲しい。あんな、事実は事実やけど、後ろから来てた凄いスピードの自転車に気付いてへんかったのを咄嗟に助けてくれたんよ。ほんまに一瞬やったしすぐに離れた」

なまえは焦ってるのかいつもより早口で縋っているように言う。信じて欲しいと目で訴えてくるのがわかる。信じたい、でも写真が頭から離れない。そんな心の狭い自分が嫌だった。

「ほんまごめん。隠してたみたいになって今むっちゃ後悔しとる。ほんまに何もないから言わへんかったんやけど、倫太郎からしたら隠してるって思うやんな」

なまえが泣きそうになりながら謝ってくる姿にさえモヤモヤとしてしまう。それも嘘なんじゃない?って考えがチラつく。俺が何も発しない事に不安に思ったらしいなまえが、様子を伺うように覗き込む。

「今、倫太郎は何を考えてるん?」
「気持ちがぐちゃぐちゃで嫌な事ばっかり考えてるよ」
「嘘ついてへんから、信じて欲しい」

なまえは本心だったかもしれない。けどその瞬間、俺は悪い方向に向かっていた気持ちがパンッと爆ぜたように溢れた。

一度爆ぜた気持ちはどうも落ち着かないみたいで、川のようにドバドバと嫌な感情が流れてくる。

「そうやって言えば逃げれると思ってる?」
「え?」
「いつももっと危機感持てって言ってたよね?でも全然なまえ分かってないじゃん。いや、分かってるけどやってる感じ?男ってチョロいしね」

なまえは静かに涙を流していた。

「ほんまにそう思ってるん?」
「は?なまえが俺の気持ちで遊んでたんじゃん。もういいよ」

そう言って俺はなまえを無理矢理ベッドに押し倒し、手を強く掴んで拘束する。

「っぃや!痛いっ、倫太郎やめてっ!」
「ちょっと静かにしてよ」

俺はそう言ってなまえの口を黙らせるように強引にキスをした。そのまま上の服を胸上まで上げて下着をズラし、なまえの丸くて大きい胸が露わになる。

「こんな可愛い顔で胸もデカくて、しかも優しくて、そんな子が俺なんかを選ぶわけないじゃんね。…ははっ、自惚れてた」
「っなんで、っそんなこと、っ言うん…!」
「もう、俺もわかんねぇよ…っ」

俺が俯いて弱々しく言葉を発し、少しだけ力を緩めたその隙になまえは俺の手を振り解いた。

「そんな事言わんといてよ…っ!私、倫太郎がほんまに好きで、倫太郎に恋しとって、倫太郎の全部が欲しいって思ってる。"俺なんか"とか言わんといてや」

なまえが必死に俺に言葉をくれる。それでも今の俺はもうダメだった。

俺はきっと本当に好きになったモノヘは愛が重たすぎるらしい。なまえと付き合うまで、今まで本気で人を好きになった事が無かったとは自覚してる。けど、俺の本気の好きがこんなに重たくて醜くいものだとは知らなかった。俺は人を好きになったらダメなんだろう。相手をいつか壊してしまう。そして、自分も壊れていく。

篠宮の件が嘘とか本当とかどうでもいい。なまえに触れた篠宮も、篠宮に触れさせた最愛のなまえにも、忌まわしさを感じてしまった。

俺だけのなまえと思っててもそうならない。もちろんなまえにも交流があるのは分かってる。それを俺だけになんて出来ないのも分かってる。俺はどうしたいのか、どうなりたいのか、どうすれば安心するのか。全てがもう分からない。

「なまえ、ごめん。一人になりたい」
「倫太郎を1人にしたくない」
「本当に。このままじゃ俺、なまえに何するか分かんない」
「ええよ」
「よくねぇよ」

なまえがなかなか引き下がってくれない。たまに頑固な時がある彼女だったのを思い出す。優しいなまえだからこそ、こんな状態の俺を1人にしたくないと思っているのだろう。

「お願い。また落ち着いたら話し合おう。今は冷静になれなさそうなの。お願い、分かって欲しい」
「…絶対やからね。私、倫太郎の誤解が解けるんやったらなんでもするから」

そう言って身なりを整え部屋を出ていくなまえ。いつもは門まで見送りに行くけど、今日は立つ事もしなかった。









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