44
倫太郎に誤解をさせた。あの時一緒に行動する選択をした自分に嫌気がさした。面倒くさらがらんとちゃんと断るべきやった。なんで同じ事を繰り返すんだろう、と後悔しつつ、こんなんやから嫌われるんかな、となんだか納得もしてしまった。
寮を素早く出て駅に向かい電車に乗ると、何故かそこには宮ツインズがいた。
「なまえちゃんやない?」
「あれ、なまえやん。…って、え?」
「ど、どしたん!?泣かされたん!?」
侑くんと治くんは私を見るなり驚いた顔をした。
「あ、侑くんと治くんやん。部活お疲れ様」
「いや、部活後にちょっと用事あって…ってちゃうやろ!誰に泣かされたんや!角名か!?」
「ツム声でかい。ここ電車」
侑くんは周りからの視線を感じて身をすくめた。
「ほんまに何もないよ。目にゴミが入っただけやから」
「嘘やろ。ゴミ程度じゃそんなに腫れへんわ。角名になんかされたんやろ」
「ツム、そんな責めるような言い方やめたれや」
「ほんまに!ほんまに何もないから。じゃあ私ここの駅やから」
これ以上2人といると話してしまいそうになる。それを避けるために、全然知らない駅にとりあえず降りた。気持ち的に少し一人でいたくて、改札を抜け近くの公園へ行く。
一人になったところで別れ話されるんかなとかネガティブな考えしかできなかった。結局涙を流して、落ち着いた頃に再び電車に乗って家に帰る。
連絡が来ていない事実を知りたくなくてスマホの電源を落としていたが、家に着いた時にスマホを立ち上げると、絵麻、治くん、侑くんからメッセージがきていた。
分かってはいたけど、倫太郎からのメッセージがない事に再び静かに涙を流した。
▽
なまえが帰ってからずっとベッドに寝そべっていた。考えることは変わらずなまえのこと。
俺って将来結婚とか出来ないんだろうなと、そんな寂しい事を思っていた。その時、スマホの通知音が鳴る。なまえからじゃないのかと期待をしたが、メッセージは侑からだった。
『明日朝イチ話があるから早めに朝練来い』
なまえの事か?と考えるが、なまえが侑に俺の話をすると思えなかった。結城さんとかなら理解できるけど。了承の旨を返信して、今日は何も考えたくなくて早く寝る。つもりだったけど、なまえの事が頭から離れず結局寝たのは深夜3時を回っていた。
翌日侑に言われた通り早めに学校に向かうと、部室前にはすでに侑が立っていた。
「おはよ」
「…はよ。朝早くから悪かったな」
「別にいいけど、何かあった?」
そう言うと侑は俺をキリッと睨みつけた。
「お前、昨日なまえちゃん泣かせへんかったか?」
「…なまえ、侑に話したんだ」
「ちゃうわ。帰りに電車で目腫らしてるなまえちゃんに会っただけや。何もあらへん一択で何も話してくれへんかったけど、お前が理由なんちゃう?」
「あー、そうゆう事。俺かは分かんないけど、うん、まぁそうかも」
俺が澄ましたように言うと、侑は眉毛を吊り上げた。
「お前何でそんな平気そうなん?なまえちゃんが何かしたんか?」
「平気じゃねぇよ。しかもこれ俺らの問題じゃん。何で侑が首突っ込んでくるの?」
「なまえちゃん泣かせたら許さへん言うたやろ」
「はっ、まだなまえが好きなの?」
「せやったらなんなん。お前透かしとったらほんまに俺やって動くからな」
俺も侑もヒートアップしてきてだんだんと声が大きくなって来た。まだ誰も来ていない状況で、誰も俺らを止めてくれる人はいない。
「俺は、たぶんなまえをいつか傷付ける。俺はなまえの彼氏に相応しくないんだと思う」
俺が弱々しくそう伝えると、侑は少しだけ俺に向けていた視線を和らげる。
「なまえの事を信じてあげれなくて、なまえの事無理矢理犯そうとした。なまえに近付く男が憎くて仕方ない。…俺は人を愛したらダメっぽい」
支離滅裂に言葉をつなげるけど、全く要約されていない文に恐らく理解はできていないだろう。けどここまで話してくれると思っていなかったのか、侑は俺の言葉に返しずらかったようで黙り込む。
「俺はなまえを苦しめる。昨日で十分分かったよ」
「お前は何も分かってへんな」
侑は俺の言葉にガッカリしたような声色でそう言った。
「なまえちゃんが俺らにお前の事を話さへんかったのは、お前の事を想ってるからに決まっとるやんか。お前に信じてもらえへんくて辛い時やったのに話さへんくらい我慢したんやろ。それやのに、何勝手に苦しめるとか傷付けるとか決めてんねん」
俺は返す言葉が無かった。というより、俺のこの気持ちはきっと俺以外には伝わらないだろうと思っていた。
「お前やってなまえちゃんの事むっちゃ好きやんか。なまえちゃんが側から離れてもええんか」
「侑ってなまえの事好きなんでしょ?何で俺らの事応援できんの?」
侑からの質問をスルーして質問返しをする。実際、俺なら出来ないと思うし、むしろ別れてくれた方がラッキーとまで思いそう。
「好きな子が俺以外の男の事で泣いてる方が見たないねん。ほんまに好きなんやなって実感してまうやん」
なんとも侑らしい答えだった。侑は難しいところもあるけど、根は単純だから裏表無くいい奴なんだと思う。
「俺も侑くらい男らしい奴に生まれたかった」
「俺レベルなんて並大抵の人間には無理やろ」
お互いに少しだけ本音を見せ合い、俺らの話し合いは終わった。あとはなまえと話し合わないといけない。そう思うだけで憂鬱になり、今日の朝練は絶不調だった。
BACK
TOP