04
今日は楽しみにしてた練習試合。うちの学校でやる事もあり、見学者も制服で行かなあかん事になってる。少しでも角名くんに可愛いと思って欲しくて、早く起きて髪の毛を巻いて、メイクもいつもより施し、新しく買ったワインレッドのリップをしてみた。
お気に入りの香水も軽く吹きかけて、絵麻と学校へ向かった。
「なまえ気合い入ってるやん」
「やり過ぎた?」
「いや、最高。赤リップむっちゃ似合ってて可愛い」
「ほんま?絵麻も最高に綺麗」
「せやろ?頑張った」
絵麻はいつも私の自己肯定感を高めてくれる。いつもと雰囲気を少し変えるだけでも気付いてくれて、ほんまに助かる存在。
「角名くん今日出るんかな」
「一年の実力を測る目的もあるらしいから出るんちゃう?」
「角名くんのバレー姿ほんま楽しみやな〜」
「うちは治ファンが多そうやからちょっと複雑や」
軽く恋バナをしながらいつもの通学路を進む。こんなに人がおらん通学路は初めてで、なんや変な気分になった。今のところ女子生徒しか見てないから、きっとバレー部見学者なんやろうな。
「まって、やばない?侑団扇持っとる人おるやん」
「え、なにココ。アイドルのコンサート会場なんか?」
「チケット持ってへんやん、うちら」
「グッズ買わな、角名くんグッズ売り切れたらどないしよ」
「いや、角名はまだ大丈夫やろ」
「なんて事言うねん」
そんな冗談を言いながら体育館へ向かっていると、見知らぬジャージを着た男の子が2人、前からこちらをニヤニヤと見つめながら歩いてきた。小さな声で「行く?」「声掛けようや」と話しているのが聞こえた。
自分で言うのもアレやけど、まぁ街中でも声掛けられる事は多々あって、正直対処法もわかってる。それでも知らん人から下心満載の言葉を黙って聞いてるのは、心底時間の無駄としか思えない。絵麻も面倒そうな顔してるし、たぶん同じ事思ってそうやな。
案の定「かわええな」「連絡先交換しよ」「勝ったらデートしよ」となんとまぁ随分ご勝手にお話ししよって。わたしらの表情見ても気付かんのやったらもうこれは救いようないわ〜、なんて考えていたらバレー部の大人気双子くんと私の好きな人、角名くんが来た。
角名くんはずっと黙っとったけど、心なしかいつもより冷たい視線を他校生2人にぶつけていた。どうやらさっきの会話を聞いていたらしい。そりゃ今から戦う相手に「勝ったらデート」なんて、そんな舐められた事言われたら怒るに決まっとる。気悪くしてもうたかな、と少し心配になるが、角名くん達はあくまでも他校生2人への嫌悪感だけで私らには特に思ってなさそうやった。
その後、私らをこの場から離れるように誘導してくれた治くんのフォローで、面倒事は避けられた。
角名くんとも一言だけど初めて会話が出来て、今日は序盤から絶好調な気しかせんかった。
「なまえ、角名くんと言葉交わしたやん」
「頑張ったやろ!?ほんま緊張した…」
「角名くんもちょっと嬉しそうやったよ」
「ほんまに?そうやったら嬉しいな。角名くん初めて近くで見たけど、ほんまかっこよかったぁ…」
角名くんへの感情を素直に認めてからは、率直な気持ちを言えるようになって楽になったし何より毎日が楽しくなった。絵麻もそんな私を見て優しく笑ってくれる。
体育館の2階へ上がると既に女の子がたくさんいた。前の方には双子の団扇を持って、バリバリにおめかしした子が準備万端で陣取っていた。
「なんやこれ、ほんまにアイドルのコンサートなんか?」
「ガチ勢こっわ…」
「うち同担拒否なんやけど」
「ここにもリアコ勢おるやん」
「なまえもそんな事言っててええの?あそこ見てや。角名くんファンおんで」
絵麻が指を指した方を見てみると、他の子に比べると気合いは劣るけど、確かに『角名』と書いてある団扇を持ってる子が1人だけいた。
「私も今から同担拒否になるわ」
「せやろ?まぁうちら武器何も持ってへん丸腰やけどな」
双子ファンが圧倒的に多かった事もあって、正直安心してたところもあった。でもやっぱり角名くんもかっこええし、そりゃファンくらいおるよな、と納得しつつもやっぱり怖かった。彼女はきっと自分の気持ちを彼に気付いて欲しくて行動してる。私は逆に『片想いでいい』と生ぬるい考えだ。いくら忙しい角名くんのためを思ってそうしてるとはいえ、これは完全に負けている。でも私はファンやないから。
「いくら角名くんが好きやとしても、私やったら他の人とは違うアピールをしたいな」
「それはうちも分かる。ほんまのアイドルやないんやし、団扇なんて持ったらそれこそファンって思われそうやもん」
「ま、まだ土俵にも立ってへん奴が何言っとるんって話なんやけどな」
2人で自嘲しながら後列に上っていく。真ん中は既に人がいたため、私らは端っこで座って待つ事にした。
少し待っていると稲荷崎のバレー部はウォーミングアップを始めだし、2階席の見学者もそれに伴い立ち上がる。
「あ、角名くんおる」
「治もおった。髪色目立つから助かるわ」
角名くんのバレーしてる姿を初めて見た。まだ体慣らしやから全然動いてへんけど、それでも顔が熱くなるくらい鼓動が早くなった。
相手の高校も入ってきて、まずは2階席の見学者の多さに驚いていた。その後両校ウォームアップをしていよいよ練習試合が始まる。
スタメンには先輩に混ざり双子がいた。中学からバレー部界隈では有名人だったそうで、彼らの技術は先輩も脅かすものだった。神戸第一のバレー部も関西地区では強豪校に入る有名な学校やけど、全国クラスの稲荷崎はやっぱり強く、点差は瞬く間に開いていった。
「治くんも侑くんも凄いね」
「うん、むっちゃかっこええ」
視線をコートの中から少しずらし、控えに目を向けるとそこには軽くストレッチをする角名くんがおった。そろそろ出番なんかな、と視線を送っていると角名くんの視線がこちらに向いた、気がする。距離があるから目が合ってるかは定かではないけど、なんだか恥ずかしくなってしまい慌ててコートへ視線を戻した。
「あ、次角名くん出るんちゃう?」
「ほ、ほんまやん…!どうしよ、むっちゃドキドキしとる…!」
稲荷崎のメンバーチェンジで角名くんがコート内に入った。私達の席からだと角名くんの顔までははっきり見えへんけど、いつもの無気力そうな顔付きやなくてキリッとしてるように見える。
角名くんが入ってからも稲荷崎の攻撃は変わらず続いて、さらに角名くんが得意なブロックも強化される事によって点差はみるみる広がっていた。
「なぁ、絵麻…。角名くんかっこよすぎてどうしよ…人気出たら困んねんけど…」
「確かにいつもダルそうにしてる角名くんが、こんな機敏に動いててビックリやわ」
「やばいで…ほんま泣きそう」
バレーのルールも知識も正直詳しくは分からへんけど、それでも心から楽しくてずっと観ていたいとも思える。なによりも、好きな人の真剣な姿がこんなにも素敵なんだと実感して、改めて気持ちが大きく膨れ上がった。
その後、点差も開いたまま稲荷崎が2ゲーム取り、ストレート勝ちをしていた。心なしか神戸第一の選手はげっそりしてる気がする。
試合が終わったらすぐにガチ勢さん達は急いで下に降りていった。体育館から出てくるのを待ち構えるんやろうな、と勝手に解釈した。ほんま女子高生の行動力は凄まじい。私達は階段が混むから後から降りようと、しばらく座って人が捌けるのを待った。
なんや恋ってむっちゃ楽しいやん。
BACK
TOP