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春高が終わり1週間が経った。倫太郎とはまだ2人で話せていなかったが、今朝『今日の放課後一緒に帰ろ』と連絡がきていた。

今日は学校の空調設備点検の日のため、全部活お休みとなっていた。ホームルームが終わると、遊びに行く人や足早に教室を後にする人など、それぞれがいつもと違う行動をしていた。

「なまえいこ」

倫太郎がわたしの席まで来て、いつものように手を握り教室を後にした。友達にバイバイと挨拶をしながら廊下を歩くも、久しぶりの2人の時間で少しだけ緊張してしまい、手汗大丈夫かなと心配をしてしまった。

最近の出来事や他愛のない話をしながら帰路を進んでいた。わたしから春高の話はしない方がいいだろうと思い、倫太郎の話題に乗ったり、こちらからも新しく当たり障りのない話題を振っていた。

「少しだけ公園に寄らない?ちょっと聞いてほしい事あって」
「え?あぁ、うん。時間とかは全然大丈夫やけど」
「外さみぃから温かい飲み物買おう」

倫太郎からの突然の不自然な寄り道に警戒しつつも、脳内では無理にポジティブな思考を浮かべるよう必死になっていた。飲み物を買い2人でベンチに座ると、倫太郎は余計な話をせずに話をしだした。

「春高でさ、俺ら負けたでしょ?しかもシード枠の初戦で」
「…うん。そうやね」
「ほんとダサくて情けなくてかっこ悪くて、整列した時なまえの顔見れなかった」

視線を下げながら自虐的な言葉を並べる倫太郎の姿に、息が詰まりそうなほど苦しくなった。

「わたしの言葉が響かへんくてもええから聞いて欲しい。全然ダサくない。ほんまにかっこよかった。見てて胸が苦しくなるくらい熱かった」

倫太郎は視線を変えずに耳だけを向けていた。

「一生懸命やって負ける事は、めちゃくちゃかっこいい事やと思う」

そう言うと倫太郎は私に視線を向け、少しだけ目を見開いた。そしてふっと微笑を浮かべると、ホットココアを持つ手に少しだけ力が入ったような気がした。

「俺はなまえがいなかったら今頃どうなってたんだろう」

私が何も言えずにいると、倫太郎は少しずつ暗くなってきた薄青色の空を見上げた。

「自分勝手でごめん。別れたい」

少しだけ感じ取っていたが、倫太郎の口から直接その言葉が出ると、複雑な感情が湧いてくる。

「なまえの事は大好きだよ。手放したくない。俺のものだってずっと言い張りたい。だけど、今はバレーに打ち込みたい気持ちも大きくて」

ずっと黙っている私に追い打ちをかけるように言葉を続ける。

「なまえはかっこいいって言ってくれたけど、俺の中では人生で1番恥ずかしかった。自分をどんだけ過信してたんだろうって情けなくて」
「そんな事…」
「俺がそう思ったの。バレーのために地元出てきたのにこんなもんかよって。応援してくれてるなまえとか親に不甲斐なくて泣きたくなった」

倫太郎は予想以上に傷付いていて、私にもっと甘えてよなんて言えなかった。

「なまえとの時間が無駄とかではない。気持ちが薄れただなんて思ってない。だけど、一回だけバレーだけに集中したい。最後の一年、後悔しないように」

倫太郎は辛そうに、だけど決意の固まった表情をしていた。答えなんて一つしかなかった。

「そんなん…っダメなんて言えへんやん」

自然と自分の目から涙が溢れていた。泣きたくないと思えば思うほど涙は止まらなくて、倫太郎を困らせてしまうと焦燥感に駆られた。

「俺はなまえの事好きでい続けるつもり。だから、引退したらまた告白する。その時まで俺のこと好きでいてくれたら、また俺の彼女になって欲しい」
「…なんなの、それ。勝手やなぁ」

1年先のことなんて分からないやろと思いつつも、別れた直後に告白紛いの事を受けて、なんだか面白く感じてしまった。

「俺変わるから、見ててよ。なまえにかっこいい姿見せるから」
「…うん。楽しみにしてる」

別れ話の後とは思えないほど、2人は穏やかな顔つきをしていた。







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