平和に行きましょう。

地獄でも天国でもない腕の中


私には彼氏がいる。隣のクラスでボーダーの二宮隊に所属している犬飼澄晴だ。高校に入ってすぐ澄晴から猛アプローチをされ、2年前に告白されて付き合ってる。澄晴はかっこいいから女の子にモテるけど、私には特別優しくてみんなの前でも堂々と彼女扱いをするため、告白される事はそうそう無い。言うなれば、彼女溺愛というやつだ。澄晴は清々しいほどに盲目で一途なため、学校でもボーダーでも有名なカップルと言われていた。

付き合う前から一途にアプローチしてくれてたし、正直とても嬉しかった。時間が経てば経つほど、彼にどんどん惹かれていっていた。こんなに愛してくれる人はなかなかいないと思ったし、付き合ってからも変わらず溺愛されている自覚があった。周りからも「名前は愛されてるね」といつも言われていたし、これは幸せな事なんだと自然に思っていた。

そんな彼にも、一点だけ気になる事があった。それは、強い束縛癖がある事だった。

男の子と喋るだけでも鋭い眼差しで見つめられ、ボーダー内ではまだしも、学校の男の子と話すのは必要最低限の用事のみと言われた事がある。ボーダーの男の子は少しは許容してくれるみたいだったが、それでも雑談等を親しげに話しているところを見られた日はものすごく怒られた。だけど彼は「別れる」とは口にした事がない。ただ異性関係について縛り付けたいようだった。少し過激だとは思いつつも、私も特段異性と絡みたいと思っている訳でもないし、別に異性と交流が無くても問題ないと思っていた。澄晴は私が不安にならないように大切にしてくれたから、私も澄晴に不安な思いしてほしくないと思うのは、普通の事だと信じていた。

そんなある日、学校で同じクラスの山田くんに告白をされた。山田くんはバスケ部エースで女子からも人気がある男の子だった。昼休みに友達とお弁当を食べていた時に、私たちの机にやってきてみんなの前で告白をした。所謂公開告白というやつだ。「返事は分かってるからいらないよ。ただ苗字さんに気持ちを伝えたかっただけ」と口にする山田くんは、他の女の子から見たらどう考えても少女漫画の主役のように見えるだろう。そして返事をする間もなく、自分の席へ戻って行った。

「名前に告白するなんて、山田くんも勇者だな〜」
「ね、しかも公開告白でしょ?犬飼くんに当てつけって感じ?」
「いや、当てつけたところで名前達を引き裂くとか無理でしょ!」
「名前と犬飼くんが別れるとか想像つかないもん」
「山田もイケメンだしいい奴だけどねー。狙った相手が悪すぎたね」

友達同士で盛り上がっていたが、私は内心『この件が澄晴の耳に入ったらどうしよう』と少しだけ上の空になっていた。今日、私の家に遊びに来る予定だけど、きっとこの件を知ったら不機嫌になるんだろうと、すぐ先の未来を想像して少し緊張してしまう。

そして、山田くんの公開告白は瞬く間に学年中に話が知れ渡っていた。もちろん澄晴の耳にも入ったようだった。

「名前、今日何があったの?俺、名前以外から聞いた話は信用してないから、ちゃんと話してくれる?」
「…分かった。あのね、同じクラスの山田くんがお昼休みに私のところに来て、好きですって言ってくれたの。返事は分かってるからいらないって言われて山田くんは席に戻っていっちゃって。本当にそれだけだよ」
「ふーん」

私の部屋に着いた途端、今日の事を聞いてきたため、端的に嘘のないよう伝えると、澄晴は目元だけ弓形に細めながら刺すような視線で私を見ていた。

「好きですって"言ってくれた"?席に"戻っていっちゃった"?なに、他の男に告られて喜んでんの?しかも席に戻って寂しかったみたいな言い方だよね?ムカつくなぁ」
「あ、い、いや、違うの。ごめん、告白された事にビックリして…」
「ビックリして、なに?気持ちが揺らいだ?お前誰の女なの?俺の女だよね?俺以外の男の事考えたら許さないよ?」

私が言葉を発するよりも、澄晴は食い気味に言葉を被せる。優しい澄晴にはあり得ないほど強く荒い口調で、畳み掛けるように攻め立ててくる。今まで言われた事のない"お前"呼びも相まって、私は恐怖で支配されていた。いつもの嫉妬とは比べ物にならないくらいの熱量に、私は圧倒されてしまい、言葉が上手く出なくなりオロオロと視線が動いてしまう。

そんな私を見て腹を立てた澄晴は、私の両手首を強く掴み上げて無理矢理視線を合わせた。

「マジで気持ち揺らいだの?学年でもかっこいいって言われてる男子から告白されてドキドキでもした?あー、いらつくなぁ」

先ほどよりも声を荒げて気持ちをぶつけてくる。手首の骨がギシギシと嫌な音を立てているが、それよりも目の前の豹変した彼が怖くて堪らなかった。

「澄晴…い、っ痛いよ」
「俺、絶対別れないよ?死ぬまで離さないって前に言ったよね?アレ本当だから」

私の声が聞こえないのか、澄晴の力は強くなる一方だった。暴走している澄晴の目は普通じゃなくて、私はどうすれば澄晴が落ち着くのかが分からなかった。

「俺だけの名前だろ?今更裏切るとか許さないから」

何も言えずにいる私に、次々と私を縛り付ける鋭い言葉が突き刺さる。自然と目に涙が浮かんできた。手首も心も痛くて、怖くて、逃げたくなった。

「お前は俺から逃げられないよ」

あぁ、好きって何かわからないや。

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