NOTEBOOK

みかりく

2019.12.12

宝石の様にキラキラと輝くクリスタルチャームが彩られたケースをコロコロと人差し指で転がす。嵐からオススメを受けたので買ってみたのはいいが、可愛さ故の勿体無さも多少あり、なかなか使えずにいた。見ているだけでも飽きないのではあるのだが。
「りくちゃんのそれ、かわいいなぁ」
余った布の切れ端を掻き集め、隣でチクチクと針を進めていたみかの視線がりくの手元へと向けられる。
「中はピンク色だよ」
「ええやん〜!りくちゃん似合うと思うわぁ」
みかの一言に蓋を開け、リップバームに人差し指をつけると、ほんのりピンクに色づく指先。そのまま伸ばした手は吸い寄せられるかのようにみかの下唇にぴたりと触れた。
「へ?」
淡いピンクに染まる唇に思わず笑みが浮かぶ。
「かわいいね、みか」

まおゆの

2019.11.28

終わらぬ仕事と書類の山、生徒会役員では無い幼馴染まで付き合わせるのは悪いとは思うが、正直居てくれるだけで癒やされる事にこの上ないので大変有難い。
「真緒、これ此処でいい?」
ファイリングされた書類を片すゆのに返事をする。抱えていた物が片付け終わったゆのは、机の上に積み上げられた書類を手伝いに真緒の側へ来る。
「まだまだいっぱいあるね、お疲れ様」
「ありがとな…、マジで助かる」
謝辞を述べながら背筋を伸ばす。学生の特権とは言え、こう机に向き合ったままだと身体もおかしくなりそうだ。
「…ご褒美貰えるならもっと頑張れそうなんだけどなー…、なんて」
疲労から思わず出た本音に冗談、冗談!と笑い飛ばそうとしたところ、ゆのは真剣な眼差しを真緒に向ける。
「じゃあ一個だけ、お願い叶えてあげる、なんてどうかな…?できる範囲で、だけど…」
今、何と。
「え、」
予想外の返答。その答えは想像もしていなかった。というか、いくら相手が幼馴染だからと言え、こちとら健全な思春期青少年。一体全体どんな返答をすればいいんだ!?

2019.11.27

色めくサイリウムの海の中、プロデューサーである自分がステージに立つなんて思いもしなかった。
人生、何が起こるかなんてわからない。レオの直接指導の元、短期間で散々猛特訓を叩き込まれた挙句、最終仕上げに晃牙による屋上バンジー付き。色んな意味で生きた心地を忘れたこの経験。
「マツリマツリ!どうだった?」
臨時ユニットに誘い参加させた張本人は、少し高い律の肩に腕を回し、キラキラと瞳を輝かせながら律の顔を覗きこむ。
「…夢みたいです」
この景色を、日々同じユニットで練習を積み重ねているあの二人は見ているんだと思うと、少し羨ましくなってしまう。今までは舞台袖から応援し、見守るだけだったというのに。
いっそ夢なら良い、夢で終わらせられたらいいのに。まだ整わぬ息と昂ぶる気持ちがその思いを否定する確かな答えだった。

せなゆず

2019.11.17

ずみくんと一緒に帰りたいから待ってるね、とレッスンへ向かう前に告げたゆずゆ。いつも使用しているレッスン室には居なかった為、探し歩いた結果見つけたのは図書室。珍しく連絡が入ってなかったが、机に突っ伏してすやすやと寝息をたてている姿を見ればそれも納得。
「全く…、レッスン室で寝てなかっただけいいけど」
一つ、溜息を零してから音をたてないように椅子を引き、その隣に座る。
「ゆず、起きなよ」
声を掛けたが、幸せそうな寝顔に変化はなし。人差し指で頬を突くと程よく柔らかい。なんともまぁ、気の抜けた無防備な寝顔だこと。見つけたのが自分だから良かったものの。
「しょうがないお姫さまだねぇ…」
誘ったのに寝ているゆずが悪いんだからね、そう心の中で呟く。
頬に流れてかかる髪を指で掻き分ける。そのままゆっくりと距離を縮め、頬へ口付けを落とした。

ジュンヒメ

2019.11.16

この幼馴染は、昔から何かと俺の手を引き、外へ連れ出そうとしてくる。数年ぶりに再会した今でさえ、言葉も、態度も、距離感も昔と何一つ変わっていない。
「ヒメ」
握りしめられた手に軽く力を込め、自分の方へ引き寄せる。たったそれだけで縮まる距離。大きな瞳がぱちくりと此方を見つめる。
「俺の事、今でも弟みたいに思ってません?」
だからと言って、それが嫌というわけでもなく。ヒメがそう望むのなら、俺はそれに付き合うだけ。それでも、一つ譲れない事はある。
「俺はヒメの事、好きですから」
この気持ちに嘘はつきたくない。

かおしお

2019.11.14

そろそろ季節限定のチョコレートが並ぶ時期。コンビニに立ち寄った最中、案の定お菓子売り場で見つける。
「紫音、これこれ」
声に釣られて視線を巡らす紫音の瞳が、瞬く間にキラキラと輝く。
「メルティーキッスだぁ!」
店頭に並ぶ三種類の箱を見比べながら悩みに悩み、どれにするか厳選を終えた紫音を横目に、新しい種類を見つける。
「こっちは新商品かな」
「本当だ。えっと…、これお酒入ってるやつやね。美味しそうやけど…」
「じゃあ今の俺達には無理だね」
紫音が手に取っている品と違う物を薫は二つ手に取る。
「二十歳になったら一緒に食べよっか」

せなゆず

2019.11.14

正直、見ていられなかった。まがいなりにも昔から仕事上付き合いがある身内の様な者だ。本来の彼女を知っているからこそ、日に日に傷を負い摩耗していく姿は痛々しく、このまま歩みを進めればいずれ壊れてしまう未来は明確に見えている。そうなる前に踏み止まるか、道を変えるか。お節介かも知れないが、手を差し伸べる事が出来ない以上、助言する事ぐらいしか手法がない。
「いい加減誰かとユニット組みなよ、一時的でいいんだからさ」
「それをしたら、ゆずゆでいられなくなっちゃうから」
地面に手を付き、へたり込むゆずゆが振り返る。無理に張り付けられた笑顔に苛立ちが積もる。自分を痛めつけて殺してまでする必要があるのか、と。
「ゆず…、あんた壊れるよ?」
「それでもいいの、やりたい事全部したいんだもん」
「…ばっかじゃない」
「うん、ほんと馬鹿みたい。ね!ずみくん、最後までゆずゆを見届けてくれる?」
「そんなお願い、きくわけないでしょ」
「そうだよね、ありがとう」
嗚呼、嫌だ、嫌だ。何を助言しても、彼女は意見を変える事がない。死に行く様を見つめるしか出来ない。

ジュンヒメ

2019.11.14

注がれるライト、色鮮やかなサイリウムの海。全てがステージの中心にいる自分達へ向けられていると思うと、高揚感を抑えられない。意外に思考は冷静で、客席へと視線を巡らせる、数多いる観客の中からただ一人の昔馴染みと視線が交わる。
嗚呼、その顔。親父さんの話をする度に浮かべていた表情。無意識かも知れないが、今は俺自身に向けている。思わず息を飲むと自然と口元に笑みが浮かんでいた。いつか、オレしか見えなくなるぐらい輝いてやりますから、目ぇ逸らさずに見てて下さいよぉ!

ジュンヒメ

2019.11.14

「ジュンくんだ」
驚きを隠せない声と共に伸びてきた両の手が頬を包む。ぺしぺしと叩いてみたり、少しつねってみたり。まるで存在を確かめるかの様に何度も繰り返される。
「本物?」
「本物じゃなかったら何なんですかねぇ」
そう簡単に偽物がいても困りますけどぉ、と付け足すと確かに、と納得した姫香の表情が物語る。相変わらず表情に出やすいこと。
「うん、私の知ってるジュンくんだ」
頬からゆっくり離れた手がぐるりと腰に回される。鍛えてるね、なんて呑気な発見をしているがこの現状、この距離の近さ。ぎゅう、と隙間なくくっつけられた体の女性特有の柔らかさは衣服越しに嫌でもわかる。
「…ヒメ」
「はいはい?」
あぁ、別に何も意識してない、と。寧ろ、含みのある行為じゃなくて子供時代の延長戦だ、と。これは途方もない時間を有する事になりそうだ。
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