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夜のネオンは明るく眩しい。その煌びやかさに惹かれて寄ってくる者は多い。それは、良いものも悪いものも含めて。
俺はどちらだろうか、明るくもなければ暗くもない。けど、別に今の生活に不満があるとかそういう訳じゃないから、境遇を嘆いたりもしない。まぁ要するに普通。

「ふぁ……」

欠伸を噛み殺しながら明るい街をだらだら歩く。何か良い事でも起こればいいのに、なんて事は、多分今すれ違って行く誰もが思うんだろうな。




ピリリリリ、と鳴り響く着信音に少し跳ねた。ポケットから取り出したスマホの画面に表示されてるのはオーナーの4文字で、無意識にうげ、と声が出た。

「もしもし、犬山です」
「おう零音どこだ、沙里がご立腹だぞおせぇって」
「っとまじですか、いや……そもそも沙里さんが無茶振りなんですよ」

分かってっから早く帰れ、一方的にそう言って電話は切られた。俺の愚痴くらい聞いてくれても良いんじゃないの……。
はぁ、と盛大に吐いた溜息は誰に聞かれるでもなく、闇に消えていく。
これ以上怒られる前にさっさと帰ろう、そう思い小走りで店に向かった。


「お待たせ致しました、リンドウのたこ焼きです」

夜の街より一層煌びやかな店内で、賑やかに酒を酌み交わすテーブルへたこ焼きを持っていく。ほんっと、大阪でもないのにこんなとこでたこ焼きとか要望しないで欲しいんだけど。ってのはおくびにも出さずに営業スマイル。

「きゃー、美味しそう!ね、井崎さん!」

無茶振りの元凶、沙里さんが満面の笑みでお客様に寄り添っているのを横目に、吸殻の増えた灰皿を持ってそっと裏に帰る。

ノクチルカ、俺が働く夜の店。所謂キャバクラって奴で、まぁそれなりに単価は高い方。
さっきのお客さんも実はヒーロー、らしい。あんたも好きねぇ、って感じだ。何ていうヒーローさんだったかはちょっと忘れてしまった。沙里さんにバレたらきっと怒られるから後で調べとこう。
バラバラと吸殻をゴミ箱に捨てながら時計をチラ見すれば、まだ23時。これからが長いんだよな。

「零音さん、トイレ空いてますか」

インカムから聞こえた後輩の声に、トイレを確認。

「ん、OK大丈夫」

ありがとうございます!と元気に返事をしてくれる後輩はよく気が利いて働き者だ。
黒服の仕事は基本雑用だけど、俺は嫌いじゃない。ズレる眼鏡を押し上げて、氷を交換しようと沙里さんのテーブルへ向かうと、井崎さん以外にも若い人が居る事に気付いた。
んー、あの人が誰か連れてくるなんて珍しいな……?
初めて見る人だ。仕事の部下とかだろうか。なんて考えながらサッと新しい氷を置いて戻ろうとした瞬間、後ろから服の裾を引っ張られて危うくバランスを崩しかけた。

「うお」
「おにいさーん、俺と飲もうよー」

転ばない様に耐えてパッと振り返ると、さっきの若い人が俺の服を握ってる。カワイイ女の子が横に居るってのに、何で俺?

「いえ、まだ勤務中ですので……」

お客さんに誘われる事も無くはない仕事だし、結構お誘いに乗る黒服も多いけど、俺は断る派だ。常連に繋がりそうなら別だけど、この人は微妙そうだなんて失礼な事を考える。

「えーそんな冷たい事言わないでよー、俺こういうとこ苦手なんだよ、助けると思ってさぁー……」

眉尻を下げて心底困り顔って感じのお客様だけど、その顔は俺がしたい。

「やだぁ電気くん、私が居るのに他の男誘うのぉ?」

沙里さんのヘルプに付いてくれてた子が甘えて助け舟を出してくれた。ありがたいけど、こっちとしてはもっとしっかり捕まえててくれって感じ。
いや、ごめん、そうじゃなくてね?とか言いながら女の子を引き剥がそうとしてる金髪さん。見た目派手なのに遊ばないのかなこの人。

「おつまみ足りないからお願いねぇ?」
「はい、かしこまりました」

ナイスタイミングで仕事をくれた沙里さんに頭を下げて、気付かれないうちにバック。ワガママ女王だけど上位に居るだけあって、やっぱよく見てらっしゃるね。ありがたい。





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