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金曜日の夜は平日の中でも一番忙しい。けど、ピークを過ぎてしまえば後は消化試合だ。
腕時計を確認してみれば、時刻は0:50。もう大体のお客さんは帰っていて、残ってるのはあの井崎さんだけだ。

ちなみに、今に至るまでにあの若い人にはめちゃくちゃ絡まれた。
沙里さんは俺が絡まれるの好きじゃないの知ってるから何度か助けようとしてくれたけど、あまりのしつこさに折れて少し飲んでしまった。
上鳴さん、というらしいその人は、女性は好きだけどキャバクラで痛い目を見たから苦手なんだと言っていた。まぁ、此処はそういう遊びを楽しむ場なんだけどね、本気になっちゃいけない。

「零音、井崎さん帰られるからタクシー呼んでー」
「あ、了解です」

ドリンク場の片付けをしていたら先輩からの指令が飛んできたから手早く手配。これで今日は閉店だな。
お見送りするべく入り口に向かうと、コートを着込んでる井崎さんと沙里さんを発見。

「あぁ犬山くん、ちょっと頼まれてくれるか」
「はい、何でしょうか井崎様」

井崎さんに肩をぽんと叩かれて声を掛けられたけど、これは嫌な予感しかしない。スッと指差された先には潰れてる上鳴さんの姿が。

「悪いんだが、起きたらタクシー乗せて帰してくれるか」

これからアフターでな、と付け加えて手渡された諭吉さん。後で叩き起こすか、と決意しながら了承の意を返すと、井崎さんはにこやかに帰っていった。


「上鳴さん、起きてください、もう閉店しましたよ」

店内の片付けは粗方終わらせて、最後の仕事に取り掛かる俺。と、それを見守る同僚二人。
無表情でほっぺたを軽くぺちぺち叩いてるけど起きやしない。というか、二人も起こすの手伝ってくれれば良いのに、にやにやしながら遠巻きに見てるのは解せない。

「かみなりさーーん」

眠いし早く帰って風呂に入りたい。べちべちと叩く強さを上げたらむにゃむにゃ言い始めた。

「うぇ……あれ、零音くん…」
「おはようございます。お帰りの時間ですよ」

にっこり営業スマイルで挨拶すると、状況を理解したらしい上鳴さんが慌てて起き上がった。

「えっ!?あ、ごめ!あれ、井崎さんは!?」
「お先に帰られました。起きたらこれで帰るようにと預かっておりましたので」

どうぞ、とさっき預かった諭吉さんを渡すとあーってうな垂れていて、慰めの声を掛けたくなる。まぁよくある話だけど、実際やられたら凹むよね。

「ごめんな、ありがとう」
「いえ、お気になさらず」

タクシーは呼んでありますので、そう言いながらコートを差し出すと上鳴さんは苦笑いしながらもう一度ありがとうと言った。




それが、俺と上鳴さんのファーストコンタクト。

で、それから数日経ったある日の夜。たまたま道端に転がっている上鳴さんを見つけてしまったのが現在だ。一瞬自分の目を疑って二度見したけど、どうやら現実らしい。
んーー、この人、どうしてくれようかな……。

「どうした?……なんだ、知り合いか?」
「修次さん…や、前店に来てた人で……」

閉店後、男だけで店で鍋パーティーをして上機嫌だった帰り道。なんでこんなとこで寝てんだとか、何してんだ生きてるんだろうかとか、色々な疑問が湧いては消えていく。
修次さんは女の子達の送迎を担当してるおじさんでめっちゃ良い人だ。で、その良い人は良い人らしく良い事を提案しちゃうっていうね。

「零音の家そこだろう、此処で寝てたら危ないから連れて帰ってやれよ」

まそうなるよね、やっぱし。道端で倒れてる、多分酔い潰れてるだけだろうけど、でも、そんな顔見知りを放置出来る程薄情でもなくて頭を掻いた。
俺もほろ酔いなんだけどなー。
ながーく溜息を吐き出して、修次さんに手伝って貰いながら上鳴さんを運ぶ事にした。





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