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あれから暫く、俺の前に一至さんが現れる事はなかった。
元はと言えば、俺がふらふらとしてしっかりしなかった所為でもあるんだけど、人間関係っていうのは本当にどうなるか分かったものじゃない……。その点はちゃんと反省してる。
あの騒動の後、実は俺の知らない所で上鳴さんが色々動いてくれていたらしい……という事を教えてくれたのは、なんと修次さんだった。
いつの間にか二人は友達になってたみたいで、これにはほんとに驚いた。もしかしたら案外気が合うのかもしれない、なんて思ってちょっとだけ、ちょっとだけ嫉妬してしまったのは内緒だ。
沙里さんには、晴れて両想いになったので無事付き合いますって報告したら、何故か号泣されてしまった。これがもう落ち着かせるのが大変で、修次さんは横でげらげら笑いながらちょっと泣いてて面白かった。
めっちゃ喜んでくれて嬉しかったんだけど、それに俺ももらい泣きしちゃって、そんな状況にまた皆で笑いあった。
二人には本当に心配と迷惑をかけて、もう全然頭が上がらない。まぁ、元から上がらないんだけどね。
「はーい炒飯出来たよーん」
「ん、今度は上手く出来た?」
「こないだよりはね!たぶん!」
テーブルに置かれた二人分の炒飯を見ながら、たぶんなんだって笑う。
俺が料理出来ない事に早々に気付いてたらしい上鳴さんは、最近簡単なご飯を作るのにハマってる。男の料理って感じだけど、これが案外悪くない。……それに、キッチンに立つ背中はちょっとカッコイイから好きだったりする、ってのはまだ本人には内緒。
狭い俺の部屋で、今までと変わらない日常を噛み締めていると、あー、と声が聞こえた。
「ん……?」
「いやー、零音くんとまた一緒に暮らせる幸せ?みたいな?を、しみじみ感じてただけ」
「あっは、なにそれ」
同じ様な事を考えてたのか、って可笑しくなった。俺も、何でもない日常が今凄く幸せ。
それをそのまま伝えたら、上鳴さんはにっこりと嬉しそうに笑った。
「でもさー、来年までには引っ越そうぜ?」
「え、引っ越し?」
「うん、そう。この部屋も零音くんとの思い出たっぷりで好きだけどさ、ずっと一緒に住むならもうちょい広い部屋が良くね?」
「あー……たしかに、そう、かも?」
むむ、と悩む俺に、狭い部屋で二人でぎゅーってしてんのも良いけどね、と上鳴さんは続けて笑う。
そもそも二人で住む様な部屋ではないんだから、むしろよく今まで耐えてたよなぁってくらい。
確かに…ぎゅってしてるの、嫌いじゃないから良いんだけど……。
くるくるとスプーンを手元で遊ばせながら、じわじわと込み上げてくる照れをどうにかやり過ごした。
「……じゃあ、不動産屋行かないとね?」
「おう、ベッドもデカイの買っちゃおーぜ、二人で寝ても狭くないやつ」
不動産からの家具屋デートだ!なんて盛り上がる上鳴さんが可愛くて、でもカッコ良くて、胸がじんわり暖かくなる。
好きだなぁって、溢れる感情をどうにも出来なくて、そんな上鳴さんの頬に堪らずキスを落とした。
「上鳴さん、だいすき」
「なに急に!あはは、おれもー」
そう言ってはにかむ上鳴さんは、お返し、と言って唇にキスをくれた。あーもう、本当に好き。
何にも良い事なんてない、平坦な人生だと思ってた。どうしようもないって諦めてた。
それが、毎日眩しいくらい輝いて見えるなんて、少し前の俺には想像もつかなかったと思う。
いつか自分がした話をふと、思い出す。
好きだな、って思った人に好いて貰える事だってある。奇跡だって起きるし、宝くじだって当たるんだ。……これは実際に当たった訳じゃないけどね。
街のネオンも相変わらずで、お店だって何にも変わらない。だけどそんな煌びやかさも、これからは少し違って見えるんじゃないかなぁなんて思うのは、もしかして色ボケだろうか。
まぁそれも、悪くないかな、なんて。
ね、俺だけのヒーローさん。
Fin.
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