※佐野×上鳴
朝、一緒に登校しよう。
佐野がそう言い始めてから、ソイツは毎朝俺を待っていて、見つけるなりおはよう、と笑顔で言う。
ぼーっとしてたり、スマホを見て何かをしてたり、本を読んでたり。待ち方のスタイルはその日によってバラバラだけど、俺が来ると嬉しそうに笑うのは変わらない。
佐野の猛烈アタックにほだされたのは、もう暫く前の話だ。
女の子だいすきなこの俺が何の因果でこうなったのかについては、なんかもう説明のしようがないし、ぶっちゃけ恥ずかしいから割愛する。初めて使ったわ割愛。
──そんなある日、約束の時間より10分くらい早めに着いた事がある。
けど、もう既に佐野は待ち合わせ場所に居て、いつもと変わらない笑顔でおはよう、って言った。
「お前さぁ、いっつも何時に来てんの?」
「えー、さっき来たとこだけど」
何でもないような顔でそう言うから、なんか俺もちょっと意地になって次の日は30分前に来てみた。早起きすんのちょっとキツイなって思いつつ、隠さずでっかい欠伸をひとつ。
流石に30分前に来たら居ないだろーって思ってた。思ってたんだけど。
「あ、おはよう。今日は早いな、っていうか眠そ」
「お……はよ……」
頑張って早起きしたのに、佐野はもう居て。
何も変わらない笑顔でそこに立ってて、何でか分かんないけどちょっとだけイラっとした。
「まじで、佐野何時に来てんの……?最近朝冷えてっし風邪引くよ……?つーか暇じゃね……?」
「んー、そうかな。上鳴の事考えながら待ってるの、結構楽しいけど」
あと俺身体は丈夫だから風邪は心配しないで、って言って俺の手を握る。
バカじゃないのかなぁこいつ。鼻の頭赤くしてさ、絶対寒かったんじゃん。しかめっ面の俺を首を傾げて見るけど、心配すんなとかさぁ、そんなん出来るわけないじゃん。
ふと近くに自販機があるのを見付けて、あーそうだ、って思いついた事を実行するべくタッと踏み出した。
突然走り出した俺にびっくりしたのか、ちょっとだけ目を丸くした佐野が視界に入った。けど、そんなのは知ったこっちゃあないわ。
「……どうした?なに、ココア?寒かった?」
「うん、そう、冷えるだろー」
「まぁ今日確かにちょっと寒いけど、え……?」
少し遅れて追いついた佐野に、はいって差し出したあったかいココア。
けど、ぼけっとしたまま全然受け取ってくれなくて、どんどん不安になってくる。
「佐野……?えーと、ココア嫌いだったっけ……」
「…っえ」
ぎこちなく固まる佐野に、俺の方が照れて顔が熱くなってきた。
なに、なんで、え?普段ほんとにサラッと色んな事こなす癖に。固まられると、どうしたら良いか分かんなくなる。
そんな事を思ってたら、差し出した手を缶ごとぎゅっと握られてびくっとした。
「嫌いじゃないよ、でもそれは上鳴が飲みな。俺はその気持ちだけで十分あったかいから」
鼻だけじゃなく目元まで赤くしてそんな言葉を吐く。まってくれ、お前キャラちがくねぇ?そんな爽やかおうじさま〜みたいなキャラじゃなかったよな?
挙句の果てに握りしめた手にちゅっとキスを落とされて鳥肌が立った。別にときめいたとかじゃない。違うから。
目を見開きながら茫然としていたら、目の前でキラキラオーラを発してた佐野がフッと笑った。
「バカだな上鳴、はは、惚れ直した?」
「……!?!?」
にやぁって効果音が付きそうな表情で、佐野はそう言い放った。
今まで出てたキラキラオーラは一気にどっかいって、すっかりいつも通りの佐野だ。え、え、なに?まさか。
「からかいやがったな……!」
「いやいや、まさか。俺はお前のそういうとこすげー好きだよ」
「ぐっ……このやろ……!」
にっこり笑顔で好きだとか言う。俺がそういうのに弱いっての分かっててやってるところが駄目。それも込みでほだされた自覚があるだけに、余計に駄目だ。
俺の手からココアを取って、ありがとうと軽やかに笑う。もうでも、何を言っても効かないだろうから諦めて溜息を吐いた。
「……ちょっと照れたくせに」
「あ、ばれてた?上鳴が可愛い事してくるから、ついね」
それでもちょっと仕返しとばかりにぼそっと呟いた言葉も、さらりとかわされる。なんかもうお手上げだ、と冷えた空気に熱い息を吐いた。
今日は早いからゆっくり歩いて行こうか、なんて笑う。
意地悪な事もすげー言うけど、基本は優しいところが好きだ、と思う。
でも悔しいから、そんな佐野の手からココアを奪ってあったまる事にした。
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