鬼ごっこ
※何でも許せる方向け(万能の言葉)
※誰も救われない、暗い、メンヘラヤンデレ系のお話です
※他作品と毛色が違いますので注意
ザァ、と風が通り抜けていくのを感じた。澄み切った夏の空はどこまでも高くて、今の私の気持ちなんて微塵も考慮していないくらいの明るさだと思う。
空が他人の気持ちなんて考える事無いんだけども。
滑り台のてっぺんの柵にかかった黄緑色の縄跳びが、ぷらぷらと強い風に煽られてる。あぁでも、こんなに良い天気の中でブランコが出来るのなら悪くないかもしれない、なんて。
ギシ、と乗り上げた木箱が軋んだ。
目の前で不規則に揺れる縄跳びを掴んで、今までありがとう世界、なんて思ってもない事を呟いてみる。
中学3年生の夏、私は世界に別れを告げた。
「なぁ、そこで何してんだよ」
後ろから掛けられた声にゆっくりと振り返ると、知らない男の子が私を見ていて、誰だろうと首を傾げた。
「死のうとしてるならやめとけよ。俺で良けりゃ話聞くぜ」
「あのね、此処で会う約束をしたの、でも来なかったから、いつかあの子が来たら後悔するように、此処でぶらさがっておこうと思って。毎週、毎週待ってたんだよ」
何故だか分からないけど、誰だか知らないこの男の子に話してみようと思った。そんな私の言葉を聞きながら、男の子は少しずつ歩み寄る。
「なら、俺が来るから、死ぬのやめろよ」
瞼に傷を作った彼はニッと笑って、今まさに首を吊ろうとしていた私の命を救ったのだった。
「それでね、ね、切島くん、昨日は授業中に凄い事があって…」
それから毎週金曜日は、私と切島くんの約束の日になった。切島くんは約束を破らずにちゃんと毎週来てくれて、お話を聞いてくれる。単純な私が恋をしてしまうのはあっという間だった。大好きな、笑顔が素敵な切島くん。
例えどんよりと曇った冬空の下になっても、私達はいつもの公園でお話するのを辞めなかった。
「俺さ、雄英に通う事になったんだ」
「へぇ!そうなんだ!っていう事は合格したの?すごい!」
お話の途中で切島くんが言った言葉に、パッと空気が華やいだ。すごい!雄英に通えるだなんて!
「あーうん、そうなんだ。悪ぃ、言うの遅くなっちまって……先に言って落ちたらカッコわりぃと思ってよ」
苦笑いしてる切島くんも素敵。そんなの全然カッコ悪くなんてないのに、切島くんは男らしさにこだわりたがるんだから。だから私は言うんだ、彼への賞賛を。
「そんな事ないよ、切島くん!絶対凄いヒーローになれるよ!だって切島くんは、私を救ってくれたヒーローなんだから」
切島くんの綺麗な髪を撫でてにっこりと笑う。私の汚い赤銅色の髪とは違う、艶やかな、黒。
「ありがとな、名前。名前がそう言うならすげぇヒーローになれそうだぜ」
照れ臭そうに笑った私だけのヒーロー。なんだか私まで嬉しくなってしまって、年甲斐もなくはしゃいでしまう。
「切島くん!鬼ごっこしよ!」
「は!?なんでだよ!?」
「良いから、切島くんが鬼だからねー!」
ったくしょうがねぇな、なんて、駆け出した私に呆れて付き合ってくれる切島くんはとっても優しい。
また来週も遊ぼうねって言って笑って、でも、その次の週末に大好きな彼が現れる事はなかった。
次の週末も、また次の週末も待ち続けた私を、絶望が襲う。あぁ、またひとりぼっちの待ちぼうけ。
約束してくれたのに、また遊ぼうねって、切島くんも、ダメだったのかな。
好きだってはにかんだあの顔も、全部嘘だったのかな。
滑り台の柵で揺れる縄跳びが風に靡いていて、私を手招きしている様な気がした。ガタガタと木箱を運んで縄跳びの元へ、思えば、この公園の景色はあの時となんにも変わってない。切島くんだけがこの公園で宝石みたいに輝いてた。
「ヒーローなんて、きらいだ……」
だけど、そんな光ももう無い。ざんねんだなぁ。
「苗字名前さん、死ぬ前に少し、よろしいでしょうか」
縄跳びに首をかけた時、目の前が真っ暗になってびっくり。まだ吊ってないから、たぶん死んだ訳じゃないと思う。広がる黒いもやもや。
「わたし?なに?あなた死神かなにか?」
「面白い事を仰いますね、少しお話がしたいと思いまして。如何でしょうか?」
大好きな大好きな切島くんと会えるんだって、そのもやもやは言った。
そっか、うん。そうしたら、遊びの続きをしよう!
「初めまして、我々は敵連合。せんえつながら……この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
ゆらぁりと揺れる、黒いモヤ。驚愕と、動揺と、恐怖が綯い交ぜになったヒーローの卵たちの顔、顔。
雄英高校に襲撃した敵、黒霧さんは言った。
「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズ……ですが、何か変更あったのでしょうか?」
光る眼を細める彼に、迫る二人の生徒。あぁ、あぁ!なんてこと!
「きりしまくん!!!」
「なっ……!!??」
耐え切れずに黒霧さんから飛び出した私は、向かってきた切島くんに抱き着いて満面の笑みを浮かべた。あぁなんて幸せなの!
「切島くん、切島くん!久しぶり!会いたかったんだよ!」
高揚する気持ちを抑えられずにはしゃいでしまう。大好きな切島くんとようやく出会えた!
だというのに、横から勢いよく迫る手があったから咄嗟に飛び退いたら、切島くんが爆発した。なに、あの子。私の切島くんになにを。
「ッ……おい、名前、だよな?何でお前が此処に、いんだよ……」
爆発したと思ったら切島くんは無事で、よかった、怪我もしてないみたい。だけど、そんな事はお構いなしに、困惑している彼は私に問う。当然だよね、久しぶりに会った場所がこんな所で。でもね、そんな事はどうでもいいんだよ切島くん。
「そんな顔しないで切島くん。私はね、怒ってるの。どうして約束破ったの?あれから私、ずっとずっと、ずうっと待ってたのに。どうして来てくれなかったの?おかげで、またブランコしちゃうとこだったよ。でも黒霧さんが、切島くんと遊べるよって言ってくれたから、頑張ったの。凄いでしょ?ねぇ、褒めて?一緒に遊ぼう?そうだ、鬼ごっこの続きしなきゃ!」
彼に言いたい事がたくさんたくさんあって、言葉が次々溢れてくる。あぁ大好きな切島くん。
私が知らない間に綺麗な黒髪は赤く染まっていて、あれどうしてだろう?聞いたら教えてくれるかな?いいなぁ、それはそれで綺麗。
誰かが私の事を切島くんに尋ねてる。知り合いなの?って。そしたら切島くん、俺の彼女だって、ふふ、嬉しいなぁ。大好きな切島くんが私の事を紹介してくれてる!でもねぇ、じゃあ。
「どうして置き去りにしたの……」
「名前、ちげぇよ!むしろお前が居なくなったから俺は……!」
分からない、どうしよう、切島くんの言葉なのに理解が出来ない。ダメだなぁ、私はバカだから。でもいいや、今日は遊ぶって決めて来たんだから。
「切島くん、今日は遊びましょう!今までの穴埋めしてよ!さぁ、鬼ごっこしましょ。今度はあなたが私から逃げなきゃ血祭りだよっ」
ピッと取り出したナイフで自分の腕を切って、溢れる血を切島くんにかける様に腕を振るう。
醜い私を好きになってくれた切島くん。私の大好きな大好きな切島くん。
さぁ、鬼ごっこを始めましょう?
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