過去の性分
※ホークスとスパイドの昔話
急ピッチで進められた都市開発の影響で乱雑に立ったビル郡。それ故か、複雑な迷路の様に入り組んだ路地に無数の怒号が飛び交う。ついでにいくつか銃声。
指定敵団体と通じているであろうグループ数人の拠点を制圧すべく、情報にあったビルへ警察と連携して乗り込んだのは、つい先程の話だ。
「逃げても意味ねぇから捕まれ雑魚がァ!」
「誰がッ……捕まるか!」
ガサ入れに慌てて逃げ出したグループの一人を追って路地を走りながら、蜘蛛の糸を放ちつつ周りの怒号に負けず劣らずそう叫んだ。
遠からず銃声が聞こえる。今頃逃げ遅れた奴らは皆お縄になってる頃だろう。
目の前に居るこいつは強化型なのか、俺の糸を強引に避けてその勢いのまま殴りかかってきた。スッと上体を反らして避けると舌打ちをされたが、抵抗されて苛立ってるのはこっちなんだよクソ野郎。
「ッがぁ……!」
「手間取らせんな」
回し蹴りを繰り出しながら糸を吐き、バランスを崩したところを巻きつけて拘束。暴れられても困るのでそのまま近くのビルの壁に吊るしておく。
確かまだ数人残ってた筈だが、それは他の奴らに任せても問題無いだろう。そう決め付けて、ポケットから煙草を取り出して火を付けた。
「てめぇこの!ただで済むと思うなよ!」
「あーあーるっせぇ黙ってろ」
吊るした敵が喚いているが、こういうのは適当に流すに限る。
つーか敵とは言え人間相手にバンバン銃ぶっ放すのもどうよ、と思わないでもない。ヒーロー社会になってしまった今、ケーサツってのも難儀な立場よなぁと紫煙と共に溜息を吐き出す。
これ吸ったら回収頼むか、と咥え直した時、ぱち、ぱち、と路地の向こうから音が聞こえた。
「さすがヒーロー、鮮やかですねぇ」
「……誰だてめぇ」
ゆっくりと手を叩きながら現れたのは、学生だろうか。まさか敵の仲間ではないかと疑って睨んだが、貰った資料には無かった顔だ。一応、リストには目を通して全員の顔は記憶している。
睨まないで下さいよ、一般人です。そう言ってそいつは、叩いていた両手を挙げてへらっと笑う。
「一般人がこんな所で何してる?しかもお前、見たとこまだ学生だろ」
「あら、バレるの早いっすね。ちょっとお勉強が嫌になったんで、息抜きって奴ですよ」
「……息抜きにしては物騒な場所だ。敵……じゃねぇな?」
「まさか。俺はヒーローにならなくちゃいけないんで、まぁ実地見学って奴です」
ちゃんと公安にも一声かけてあるんで大丈夫ですよ、と、そいつは言った。
公安、ヒーローにならなくちゃいけない。そんな不穏な言葉の羅列に疑問を抱かない訳はなかったが、下手に首を突っ込んで痛い目に合うのはごめんだ。触れないに越した事はないだろうと煙を吐いて、地面で火をもみ消す。
「ポイ捨てしないでくださいよ」
「あ?捨ててねぇだろ、火消してるだけだ、持って帰るっつーの」
「そですか、それはすみません」
へらへらと笑いながら背中の羽根を揺らすそいつは、まったく申し訳ないという態度を見せずに言う。胡散くせぇ。
「俺、スパイドさん大好きなんですよ」
「は……?あぁ、俺ファンサとかしねぇぞ」
「いーんす、そんなん求めてないんで、ただ」
「……?」
どうやら俺のファンらしいと宣うそいつ。続く言葉を待ちながら、揉み消した煙草を拾って携帯灰皿に押し込んだ。
「俺もヒーローになります、そんで、貴方に認めて貰いますよ」
「あ?あぁ……」
「そしたら、俺のになって下さいね」
「はぁ??」
ふふ、と感情の読めない顔で笑うと、背中の大きな羽根を広げてバサリと羽ばたく。
おい待て!って声を上げたが静止に従う事もなく、その学生は飛び去っていった。俺の声は確実に聞こえてるだろうに、無視しやがったかあいつ。
「何だったんだありゃ……」
野良猫にでも引っかかれた様な気分だ。苛立つ気持ちを静めようとガシガシと頭を掻いて、とりあえずケーサツ共に連絡しようと携帯を取り出した。
……ところで、ハッと目が覚めた。
すげー懐かしい夢を見てたな、と薄目を開けたらぼんやりと自分の手足が見える。閉店後に片付けをしている途中でソファに腰を下ろして、そのままうたた寝をしてしまったらしい。
今日は客入りも多かったし、思っていたよりも疲れてたのかもしれない。テーブルに置いてた煙草を取ろうとして、はたと気付いた。
「おはよーございますスパイドさん、よく眠れました?」
「……営業時間とっくに過ぎてんだが?」
何で居るんだてめぇはって気持ちを微塵も隠さずにそう聞けば、嫌だなぁ開いてましたけど?と返ってきて溜息しか出ない。
「開いてたら入ってきて良いわけじゃねーっつんだよ」
「営業中だと相手してくんないでしょーに」
「そらぁな、仕事優先」
止めていた手を伸ばして煙草を手に取り、火を点ける。思えば、初対面の時からこいつは無遠慮な奴だったなと煙を吐きながら思う。
あの頃はまだ多少の可愛げはあった気もするが、今となっちゃあ完全に捕食者の顔だ。捕って食われるつもりもないが、これに関してはまじで時間の問題だろうな……。
「俺が居るのに考え事ですか」
「うお」
向かいのソファに腰掛けてた筈なのに、ホークスの声は予想以上に近くから聞こえた。反射で少し後退ったけど、ソファの上だからそこまで下がる事が出来ず、ふっと笑われる。
「驚いて、焦って、ビビってるスパイドさんも可愛いですね」
「うるせぇビビってねぇ、つーかお前まじでその目辞めろっての……」
「断ります」
あぁ、食われる。
そう確信した時には、唇に柔らかい感触がした。時間の問題なんて言う程、自由な時間は残されていなかったらしい。
「すいません、俺が焦れました」
肩に置かれた手が熱い。
昔も今も、こいつは俺の言う事をまるで聞く気が無い。まったく難儀な話だと、近付いてくるホークスに噛み付いた。
何度か啄む様なキスをして、小さくリップ音を鳴らして離れてからふっと笑う。
「……店の看板、クローズにしてこい」
「あは、大丈夫ですよ、もうしてきてるんで」
そんな事だろうなと、どうせキッチリ施錠までしてるんだろう、と思いながら俺は店のソファに沈められた。
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