我慢できない性分
※ホークス×元プロヒーロー年上男主
※個性「蜘蛛」 ヒーロー名「スパイド」
※お話の都合上名称は固定になります
※本誌の情報も少ないので捏造多め
平日の昼間は人通りも少なく、買出しに行くにはもってこいの時間帯だと思っている。少なくとも、小さいなりにもバーを経営している俺みたいな奴は、だけど。
普通にサラリーマンしてたらこんな時間出歩けないしなぁなんてぼんやりと考えつつ煙草を咥えて、そのまま煙を吐き出す。
今日はよく晴れてるし、すれ違った老夫婦は仲良さそうに散歩をしていた。今日も平和だねぇとか言い出してしまいそうな日和。がさりとスーパーの袋を持ち直したところで、ぶわりと風が舞った。
「あーやだわ助かりました。ホークスさんのおかげだわ」
「いやいやーどうも」
後ろから聞こえてきた会話はさっきの老夫婦だろうか、それと。
「こんにちわースパイドさん。買出しですか?」
「あーおう。立派にヒーロー活動してるねぇホークス」
ぶわっとその自慢の羽根を広げて俺の目の前に降り立ったのは、ウィングヒーローホークス、その人だった。
俺の言葉に、いやいやただの日常じゃないですかとか何とかしれっと言い放つこいつは、本当に緩いスタンスを崩さないなと思う。かく言う俺もジャージに咥え煙草で、まったくもって緩い見た目なのだが。
「スパイドさんには及びませんよ」
「どの口が言うんだよ、トップ10に言われても嫌味にしか聞こえねぇよ。そもそも、」
「俺はもうヒーローじゃない、ですか?やめて下さいよシラけるんで」
「……茶化して遊ぶなら他所でやってくれ」
顔を顰めてそう言えば、いやいやそういうんじゃないですってばとか言いながら焦った様に顔の前でぶんぶん手を振る。そんなホークスを見ていると少し笑えて、口元の煙草から灰が落ちる。
「ばーか」
同じくらいの背丈のそのデコにびしっとチョップを食らわせた所で、遠くからホークスを呼ぶ声が聞こえた。
「ほら、呼ばれてんぞヒーロー」
「あーはい……そうですねぇ」
それはもう至極残念そうに小さく呟くのがおかしくて頑張れと、またバーで待ってると伝えればニヤッと笑って飛び立っていった。まったく忙しない奴だな。
とか言うやり取りを何時間か前にしたなぁってぼんやりと思い出しながら、氷をガリガリと砕く作業をひたすら繰り返していれば、お客から怖いよって声が掛かった。
「あはは、すいませんぼーっとしてましたね」
「目付き良くないんだからスパイド、笑顔で接客しないとー」
「仰るとおりで」
常連の気安い軽口を言われた通りに笑顔で受け答えしていると、カランと入り口のベルが鳴った。ちらりとそちらを見れば、ついさっきまで考えていた張本人がだるそうにご来店されたらしい。
元ヒーローが経営するこのバーはヒーローの来店も多い。俺が居るってのもあるが、それ目当ての客も当初は多く、ヒーローが気が休まらないのでこの店では有名人扱いはご法度にしている。
ヒーローも一般人も平等に来られる店。それが俺の店だ。
さっきまで軽口を言い合っていた常連から数席離れたカウンターに座ったホークスへお疲れ、と一言付けて水を出す。
「なんにする?」
「スパイドさん」
「あ?」
「スパイドさんくださいってば」
「俺は売り物じゃねぇからその辺の蜘蛛でも拾ってろ」
「イヤーですってーそれスパイドさんじゃないですもん」
冗談とも本気とも取れないやり取り。酒の場ではよくあるような事だが、こいつのそれは90%くらい本気なのが分かってるから性質が悪い。
ホークスがバーに通いだして暫く、俺は何故かこいつに口説かれている。
「芋焼酎ストレートで良いか?」
「ちょ、ちょっと待って俺が苦手なの分かってて言ってますよねしかもストレートは無理ですすいませんでしたぁ」
芋はダメですよ芋は、ってぶつくさ文句を垂れるホークスに呆れながら出すのは冷酒。まだ若いのに好みが渋いったらない上に、小洒落たバーで日本酒飲む奴があるかよと思わないでもない。
つまみにお菓子の盛り合わせを出しつつ、先の常連のお会計を済ませてサッと片付るともう店内に居る客はホークスだけになった。平日の中日なんて大体こんなもんだ。
「スパイドさん」
片付けている間にハイボールに切り替えたホークスの呼ぶ声に顔を向ければ、ガリガリとチョコを齧っていた。なんだよ、って小さく首を傾げてみればふっと笑われる。
「いちいち仕草が可愛いですよねぇ、俺に落とされる気になりました?」
「意味が分からねぇ寝言は寝て言え」
険しい顔でそう言えば、皺になりますよなんて真顔で言う。良い歳したおっさんだしもう皺になろうがどうだって良いんだが。
「将来有望な若いヒーローがこんな落ちぶれた三十路男相手にしてんじゃねぇよ。跳べなくなった蜘蛛なんか啄ばむのは辞めろよ鷹」
洗ったグラスを磨きながら呟く。静かな店内ではこれくらいの声量でも十分届いたらしく、ホークスは俺以上に眉間に皺を寄せた。あーやっちまったかな、と思ったものの後悔先に立たずという奴で。
「啄ばんで遊んでるつもりはないですよスパイドさん。俺は本気で食いに来てるんで」
獲物を狙う鷹の目に射抜かれて息を呑んだ。だるそうに、やる気無さそうにのらりと過ごすその裏で、鋭い心を持っているのは知っていたつもりだった。
あーだのうーだの唸る俺とは対照的に、静かに俺の出方を伺うホークスにすぐに根負けした。現役こえーよ。
「……悪ぃ、冗談が過ぎた」
「あなたが欲しいって気持ちはまったく冗談じゃないんで、そろそろガチで考えて下さいよ」
「分かったから、その目やめろホークス生きた心地がしねぇ」
「アハ、美味しそうなんですもんスパイドさん」
両手を挙げて降参のポーズをしながら、簡便してくれってうなだれる俺を笑って、それでも煮え切らない俺を待ってくれるこいつは男前なんだろう。このままいけばいつか食われるんだろうなっていう予感がするけども、それでも、その時はまだ先延ばしにしていたいなんつー、俺の勝手なエゴ。
「早く俺にその毒を下さい」
手を握ってニヤリと笑うその顔を見ていると抗えない。それはもう、落ちてるのと変わりねぇんじゃねぇかって思いは、今は見ないふりで。
前へ|次へ