珈琲のあとはお酒でも
※相澤×カフェ店員男主シリーズ
吐く息が白い。空気が冷える季節になって暫く経ったけれど、春はまだ遠いとある冬の日。
雪でも降るんじゃないかなぁそれは嫌だなぁなんて思いながら、冷たい手をすり合わせて道行く人達を眺めている。
「ヘイ名前、今にも凍死しそうな顔してんゼ大丈夫かぁ?」
「山田さん……、遅いです、凍死します」
うおおおいマイクって呼んでくれヨ!ってハイテンションに返してくれた待ち人ことプレゼントマイクは、街の喧騒の中颯爽とラフな私服姿で現れた。
本名で呼ぶと嫌がるからあえてそう呼んだんだけど、きっちりリアクションをしてくれてちょっとだけ嬉しくなる。こんなキャラクターだけどほんと優しい人だなぁ。
「遅くなった俺が悪いけどな?カンベンしてくれよ……。うーしじゃあ気を取り直して行こうぜ!」
「あっはい、ありがとうございます……!」
海鮮系?肉系?あー海鮮がいいですかねーなんて言葉を交わしながら、夜の繁華街を並んで歩き出す。
今日は消太さんは仕事で居ない。その合間を縫って、マイクさんに相談があるんですと持ちかけたのは昨日の事だ。
俺から声を掛ける事自体が珍しいからかめちゃくちゃ驚いてたけれど、だからこそ二つ返事でOKしてくれてとてもありがたい。
適当に見繕った海鮮系の個室居酒屋に入って、とりあえずビールを二つとスピードメニューをいくつか注文した。
「……さて、酒が進んでからが良いか?それとも酔ってないうちか?」
手元のメニューをパラパラと捲りながら、俺の方を見ずに言ったマイクさん。さすが、大人だなぁってなんか謎に感心してしまった。
「そうですね、ひとまず乾杯してからにしましょうか」
へらっと笑ってそう言えば、それもそうだな!って快活な返事が返って来た。うん、良いお返事です。
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運ばれてきたビールで乾杯をして、つまみを食べながら相談内容をざっと説明すると、物凄く長い溜息を吐かれた。
ちょっと心外だけど、でもだってしょうがないじゃん。相談出来る相手なんて他に思い付かなかったんだから。
「それで?そのパンツの色を聞いてくる変態野郎の事は消太は知ってんのか?」
「簡潔ですね……。いや、心配させたくないので、消太さんには何も言ってないです」
「お前そりゃあ真っ先に消太に言うべき事なんじゃねぇの?俺が恋人だったら超言って欲しいけどなァ?」
その言葉には何も返せず、うぐ、と唸って二の句が告げなくなった。
いや、それは確かにそうなんだろう。だけど心配させたくない、のと同時にそんな変態に目を付けられてしまった自分が恥ずかしくて情けなくて、知られたくないのだ。これは完全に俺のエゴなんだけども。
「直接的な被害が無い以上手出し出来ねぇしよ?つっても、俺らヒーローは敵相手じゃなきゃどのみち何も出来ないのよ、分かってるとは思うけど」
それは、そう。言われずとも承知の上だったけれど、改めて言われると本当にその通り過ぎて、じっと手元のビールジョッキを見つめるしか出来なかった。
だけど、一人で抱えていられなかったのだ。
するとマイクさんはカラッと笑って、んな顔しないでよーいじめてる訳じゃないんだから!なんて言ってビールを煽る。
「……なんか、すいません。こんな相談しちゃって」
「いやいやいやいや、相談してくれた事は超嬉しいし?むしろ黙ってられる方がヤバいしイイんだよ。俺の方こそ力になれなくて悪いね」
そう言って申し訳無さそうな顔で笑うマイクさんに更に謝ると、堂々巡りになるからやめて!って言われて笑ってしまった。
「まぁー出来る対策なんてタカが知れてると思うんだが……、接客業だもんなァ名前、無視するっつう訳には……」
「いきませんね……流石に」
「だぁよなぁ」
眉間に皺を寄せて唸りながら、あーいっそ転職しろよーとか色々と呟いていて、心の中でごめんねーって苦笑い。
カフェの仕事は好きだから、出来れば職を変える事はしたくない……。変態さんが飽きて現れなくなってくれたら一番なんだけれどもなぁあははって思う。他力本願だけど。
暫く、あぁでもないこうでもないと対策を出し合ってみたものの結局良い案は出ず、二人でうな垂れていた時、個室の扉がガラッと開けられた。
「名前と浮気とは良い度胸だな、マイク」
「ちょおーい人聞き悪い事言うんじゃねェ!もしそうならお前呼んでねぇだろハァァン!?」
開けられた扉の向こうに居たその姿をぽかんと口を開けて見る。それは紛れも無く仕事中の筈の消太さんで、えーあれこのシチュエーション前にもありましたね……?サプライズ大好きかこの人は……。
なんて思っていたら、凄い形相でこっちを見られてビクッとした。
「うるせぇマイク。……名前、なんか言う事あるんじゃないのか」
「え……あ、おかえりなさい……?」
俺の言葉を聞いた消太さんは一瞬目を見開いて大きな溜息を吐くと、あーただいま……とぼそりと言うから首を傾げてしまった。あれ、俺なんか間違えた感じかなこれ……。
マイクさんは笑いを堪えるのに失敗して普通に声出して笑ってるし、消太さんはしょうがないなみたいな顔でゆるく笑う。
「俺はお前のそういうとこ好きだがな」
「なんですか突然……、俺が言葉を間違えたならそう言ってほしいんですけど……」
「いや、良い。マイクから粗方聞いてる。対策、考えてたんだろう」
急な甘い言葉に顔に熱が集まるのが分かって顔を少しだけ伏せたけど、その後に続いた内容にハッとマイクさんを見た。そしたら、てへぺろ顔で手を合わせて拝まれてなるほど、と思う。
どこかのタイミングで消太さんに伝えてたのだろう。遅かれ早かれいつか知れるだろうとは思っていたけれども、早いにも程がある……。良いけどさ、別に……でも出来れば内緒にしたかったなぁなんて小さく溜め息。
「大方俺に心配掛けたくないとかそんな理由だろ。ったく、俺はそんな頼りないか?」
「いや……!そういう訳じゃなくて……!」
反射的に顔を上げて反論しかけると、消太さんがニヤッとしながらマイクさんの隣に座った。その瞬間気付く。あーこれ、からかわれたなぁやられた……。
俺が気付いたのも分かったのか、悪い意地悪しすぎたって笑いながらも謝ってくれて、あーもう、とかそういうとこほんと、とか、小声でグチグチ言ってしまう。
可愛くないよなぁって思ってぶすくれてたらマイクさんがケラケラ笑う声が聞こえて、全然関係ないけどひと睨みしておいた。
「まぁでも、俺に言ってくれなかったのは割と寂しい……が、言いにくかったんだろう事は分かるから気にするな」
「消太さん……、すみません。消太さんにはなんか、恥ずかしくて言えなかったです……」
「だろうな」
ふっと笑ってから腕を伸ばして、俺の頭をわしわしと撫でてくれる消太さんはすごく優しい。見た目で誤解されがちだけど、そういう不器用なところがすごく好きだ。
照れ隠しにうははって笑うとポンポンと優しく叩いてくれる。
「ったく、俺にも心配させろよ」
「消太さんは実力行使しそうでちょっとやです」
「それは否定出来そうにないな……」
「ねーぇ?あーんまり俺の事無視されちゃうと泣きそうなんだけどォ?」
ヒラヒラと両手を挙げて存在の主張をするマイクさんにきょとんとしてから、どっと笑い合った。
結局3人で色々話し合っても名案らしいものは何も浮かばなかったけど、飲みながら話してしまえば少し気が楽になったし、なんだかんだ一週間もすれば例の変態さんはお店に来なくなったので、まぁ、結果オーライかな?なんて思います。
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