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ああ華やぐ江戸の町!天を仰いで大きく伸びをした。
長らく田舎で静かに暮らしていたこともあってか、元来はしゃぎたがりな美純はきょろきょろと忙しなく町並みを見渡した。コンビニや蕎麦屋の暖簾を横切って、目的地もないままふらふら歩を進める。時たま本屋に顔を出し、店員に睨まれながらジャンプを立ち読みしたりした。
一度見ると記憶に焼き付くような輪郭のはっきりした臈長けた顔を円かに緩ませて、足取り軽く道を行く。男も女も目を奪われたが、触れては曇るような気にさせるその笑顔に近付く者はいなかった。そんな中、上品な白の革手袋を、不躾に引き留める手が一つ。

「美純……!」

短く息を吐いた男は、ひどく切なげに眉を寄せて縋るように名前を呼んだ。親を探す迷子の声だった。呼ばれた彼女は目を見開いて、空いた左拳を振りかぶる。

「悪霊退散!」
「え゛」

宙を舞う白髪の男。手を合わせ目を瞑る女。真昼のかぶき町では多少視線を集めたが、それもすぐ霧散した。些か乱暴事に慣れ親しんでいるこの町の人々にとっては、またあの人何かやってるわ程度の事だった。
ずさーと地面を二メートル程擦った男は左頬に手を当てて勢いよく起き上がる。
女はもう背を向けて歩いて行こうとしていた。

「待てよオイ、まっ……ちょっ……待ってェ!美純ちゃん止まってェ!?」
「え?嘘、生きてる……」
「死んでると思って殴ったの?殺そうと思って殴ったの?」

口元に手を添えてわなわな震える美純につかつか詰め寄り肩に爪をたてる勢いで掴む。その手と青筋の浮いた顔とを順に見て、ようやく「銀時くん?」と呼んだ。呼ばれた男は何かを言いかけて大口を開けたがすぐに閉じ、代わりに大きく息を吐いた。

「ごめん、昨日名前まで付けてたカブトムシが死んで……化けて出たのかと」
「銀時って名前付けてたのもしかして」
「本当にそっくりでね、いちごのゼリーばっかり強請るの。ゼリーの食べ過ぎで死んだのかもしれない」
「俺だよね、絶対俺だと思って飼ってたよね」
「それに小さいクワガタといつも喧嘩してて……」
「そのクワガタ高杉って名前じゃね?」

打てば響く会話の応酬。真剣な面持ちで語る美純の顔にかかる髪を払ってやる節くれだつ指。吐いた息が絡まる程近付いた二つの鼻先。親しい間柄と言っても余りある距離感に、爪を噛みながら男の動向を見守っていたくノ一が弾かれたように躍り出る。が、口を開く前に振り抜かれた木刀で空高く打ち飛ばされ、歓喜に身を捩りながら姿を消した。
いいの?いいんだよ。視線で示し合わせる。

「で、もちろん全部話すよな?」
「銀時くんも教えてね」
「お前家あんの」
「ないよ」
「じゃ、けーるぞ」

流した羽織の袖を掴ませて、男は歩き出す。釣られて足を踏み出した美純をちらりと見下ろして、昔と同じように帰路に着く。スーパーに寄り道していちご牛乳を買った。

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