零さん




「っぁ、れぇさん、きもち、」
「は、俺もだ、」



痛いぐらいに腰を掴んで中を犯す零さんに縋るように手を伸ばす。それに気付いて近付いてくれる零さんの背に腕を回してぎゅっと抱きつく。ぺとりと肌が触れ合って、そこからまた気持ちよさが広がる感覚がして思わず甘ったれた声が漏れてしまった。おかしそうに笑う零さんに少しだけムッとするけど、こんな風に笑う零さんは珍しいから、まあ良いか、なんて。
小さく名を呼べば、答えるようにキスをされる。ああもう、好きだ。





「…また居ねえし」



喘ぎ過ぎでガサガサになった声で呟いて、空いたスペースのシーツに触れる。…冷たい。随分前に出て行ったみたいだ。残り香もない。相変わらず痕跡を残してくれない男だ。
寝起きでぼんやりとした頭をおさえながらゆっくり身体を起こす。
昨日汗やら唾液やら精液やらで身体中べとべとだったはずなのに、綺麗なところを見ると零さんがやってくれたのだろう。
俺だって、甲斐甲斐しく零さんの世話やいてみたりしたいな。奉仕しようにも、経験が零さんしか無いせいで零さんに内緒でスキルアップがなかなかに難しい。たまにディルドとかで練習してみたりしてたけど、零さんはそういう道具を使うのをあまり好まないし、見かけたら捨てられてしまうから何度めかで諦めた。玩具が見つかったらいつもより手酷く抱かれるからそれを狙ってたってのもあるけど、流石に何度も買うのは財布がきつかった。バナナとかでやる。
きちんと服まで着せてくれている零さんの几帳面さに笑って、フローリングに足をつける。まだケツに何か挟まってる感覚がある。でもそれにも随分慣れてしまって、その感覚が無ければ零さんに抱かれたのが夢だったのかと思ってしまうほど。

零さんは多忙な人だ。学生時代はそうでもなかったけど、社会人になってから一気に自由な時間が減ってしまった。俺だってそれなりに忙しくしているけど、零さんの比じゃない。俺のところに来るときは目の下に素晴らしい隈を携えてやってくることが多いのに、決して寝顔を見せてくれないのが悲しい。あの人はいつ寝ているんだろう。

零さんがくれたコーヒーメーカーのスイッチを入れて、出来上がるまでの間に軽く洗顔と歯磨きを済ませる。キッチンに戻ればコーヒーの良い匂いが鼻をくすぐった。
何食べようかな、何かあったかな。
くう、と小さく鳴く腹を擦りながら冷蔵庫を開ければ、ラベリングされたタッパーがきちんと並んでいた。これも零さんだ。料理があまり得意じゃないからとコンビニ弁当やカップ麺ばかり食べる俺を見かねて来た時はこうして作り置きしてくれる。俺、零さんに負担しかかけてねえな。料理、出来るようになったほうが良いかな。でも零さんのご飯大好きだしなあ。
むむ、と眉を寄せながらほうれん草のお浸しとラベリングされたタッパーを手に取る。これだけじゃ流石に、後はどうしようかな。きのこの甘辛炒め…うーん、主菜はハンバーグにしよう。零さんのハンバーグ大好き。
冷凍ご飯をチンして既に出来上がっているコーヒーをマグカップに注ぐ。料理が出来ない分盛り付けは上手く出来るように心がけている。それに、零さんが作ってくれたご飯だ。蔑ろにはできない。



「いただきます」



うん、いつも通り美味しい。