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私、鬼宿が好きなの。アンタから奪ってあげる



違う、違うよ唯ちゃん。鬼宿は私のモノなんかじゃない。確かに鬼宿はこの国のために倶東国へ自ら出向いたけれど、それは私の為なんかじゃない。
私だって、鬼宿が私のものだったらどれだけ良かったか、何回も考えたよ。でも鬼宿は、私の知らない誰かを想っていて、私に揺らいでしまっても、すぐにその誰かを思い出しては私の気持ちに応えられない、と申し訳なさそうに目を伏せるんだ。



「美朱、」
「…柳宿」
「ちょっと町へ行ってみない?何か美味しいものでも食べましょ!」
「…うん、すぐ支度するね」



柳宿の気遣いが嬉しくて、柳宿の背中を見送ったあと、ゆっくりと支度を始める。
鬼宿を取り戻しに行くのは本当。でも、どうやって説得したら良いのか分からない。鬼宿はここに何の未練もないのかな。…私じゃ、それにはなり得なかった。私じゃない誰かを想っているのに、どこか諦めたような顔をする鬼宿は、どうしたらここへ戻ってきてくれるのだろう。





「柳宿、お待たせ!」
「待ちくたびれたわよ!さ、行きましょ」
「あれ、井宿も一緒なんだ」
「だ!一応護衛も兼ねてなのだ」





本当はすぐにでも残りの七星士集めに出た方が良いのかもしれない。でも、今は鬼宿が出ていってしまったことを一瞬だけでも忘れたくて。
私に気を遣って明るく振る舞う柳宿と井宿をありがたく思いながら、街の露店を物色して回る。



「もし、そこのお嬢さん方」
「へ?」
「朱雀の巫女様御一行とお見受け致します。どうか、こちらを受け取ってくださいまし」



不意に路地裏から現れたフードを被った人に、柳宿と井宿が警戒を現しにして私の前に立ち塞がる。そんな2人を見た人は、慌てたようにフードを脱ぎ去った。



「顔も見せずに申し訳ございません。しかしこれは、あなた方の身を守るもの。決して害をなすようなものではございません。どうか、受け取ってくださいませんか」



フードの下から現れたのは、私とそう歳が変わらなさそうな女の人だった。頭を深深と下げて、それよりも高く手を上げている。そこに置かれているのは、いくつかのお守りだった。



「これはなんなのだ…?」
「いきなり現れてそんなこと言われて、信じられると思う?」



私には見慣れた形のお守りだったけど、2人にはそうじゃなかったみたい。先程より警戒心を強めて目の前の女の人を睨みつければ、彼女は更にして体を小さくしてしまった。
井宿と柳宿の間を縫って彼女の前に立ち、その手に置かれたお守りをそっと掬いあげた。



「ありがとうございます!」
「巫女様…!」
「美朱!こんな得体の知れないもの受け取るなんて!」
「危険なのだ!」
「でも、この人からは嫌な感じがしないよ!」



2人が私の手からお守りを奪おうとするけど、私はそれを阻止するためにその場にうずくまる。自分でもよく分からないけど、この女の人が私たちを陥れようとしてるなんて思えない。お守りを受け取った時の泣きそうな、嬉しそうな笑顔が演技なら、私はもう何も信じられない。



「もし、信じられないのならば捨てても構いません。それは疾病は防げないもの。あなた方に害をなそうとするもののみを弾くものとなっております。疾病に関しては…私の力不足で申し訳ございません。しかし、肌身離さず身につけていてくだされば、必ずやあなた方のお役にたてるものと思います」



そう言い残した女の人は、すぐに路地裏に走り去ってしまった。
後を追おうとした2人だったけど、それよりも私の見を案じてくれて、その場に残ってくれた。



「ひとまず、王宮に戻るのだ」
「そうね。…この、数も気になるし。星宿様に相談しましょう」



私の手に握られたお守りは、8つ。丁度私と七星士を合わせた数だ。これは偶然なのかな。それとも…





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