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「信じられない」




遠見で見た光景に絶句する。美朱ちゃんはちゃんとお守りを身につけていてくれたみたいで無傷だけれど、翼宿は何故か傷だらけだ。…まさか、自分の分まで美朱ちゃんに持たせたの?それなら、井宿も?



「なまえさん?」



張宿…ううん、亢宿が不思議そうにこちらを見てくる。それに何でもない、と返してまた遠見に集中する。
…亢宿のことは、みんなには言えなかった。言おうとすれば、声が出なくなる。みんなのことも、彼のことも助けたいのに。このまま黙ってるしかないのかな。



「ぎゃあああああああ!!!!」



柳宿の叫び声がして、軫宿、亢宿と顔を見合わせて声がした方へ走る。
勢い良く扉を開けば、軫宿の猫が宙に浮いていた。



『今、ネコの形の分結界を開いていますのだ!!そちらから何かの方法で結界を破ってくださいのだ!!』



井宿の声がした直後、何かの爆発音と美朱ちゃんの叫び声が聞こえた。私にも転移の術が使えたらすぐにでも飛んでいくのに…!
このあと亢宿が笛の音色で結界を破るけど、術士として私も何か出来ることはないのかな…?…一か八か、やってみるしかない。



「…なまえ?何して、」
「私のことは気にせず、張宿、早く!」
「は、はい!」



張宿が笛を吹くのを横目に、私は結界を張る呪文を唱え続ける。井宿がいるから心配はないと思うけど、お守りを持たない馬鹿な翼宿のためだ。何のためにお守りを作ったか分からない。あんな目に合わせたくなくて拒否されても無理やりお守りを押し付けたのに。



『なまえ、さん…?』
「!美朱ちゃん、もう少しだよ、頑張って!私達みんな待ってるから!」
『うん、なまえさん、なまえさん…!』
『なまえ…?』



微かに、鬼宿の声が聞こえた。…いくら蠱毒の力と言えど、許さない。私の妹である美朱ちゃんを、仲間である翼宿を傷つけるなんて。



棕鬼宿そうきしゅく!よく聞きなさい!私は貴方を許さない!薬の力だろうがなんだろうが、私の大切な人達を傷つけた貴方を許さない!首洗って待ってろ!」



そう叫んだ直後、美朱ちゃん達が現れた。皇帝様が美朱ちゃんを抱きとめようとしたのを突き飛ばして、私が受け止める。何か視線が突き刺さるけど気にしない。今の最優先事項は美朱ちゃんだもの。



「美朱ちゃん、よく頑張ったね、偉いよ」
「なまえ、さん。…私、鬼宿と、さよならしてきたよ…っ」
「っ、うん、かっこよかったよ、美朱ちゃん、」



頬を撫でれば、安心したように微笑んだ美朱ちゃんは、すぐに気を失ってしまった。
翼宿は、軫宿に任せれば大丈夫そう。…美朱ちゃんのメンタルケアは、どうしたら良いんだろう。



「ところでなまえ。アナタ、鬼宿と知り合いなの?」
「え?何の事?」
「あれだけ大声でキレながら本名呼んでれば気付くわよ!どういうこと?」



美朱ちゃんを部屋で寝かせて皇帝様に任せた後、再びみんなのいる部屋へ戻れば、柳宿に詰め寄られてしまった。あらやだ、これって所謂壁ドンってやつじゃないですか?なんてときめいている場合じゃない。目を逸らそうとしたって顎を掴まれてしまった無理だった。
助けを求めようと井宿と亢宿を見ても、二人も柳宿と同じ顔をしていて、仕方ない、と小さく息を吐いた。



「…幼馴染なの」
「…幼馴染?」
「私と、鬼宿きしゅく。同じ村で同じ年に生まれて、隣の家、15の頃まで一緒に育って、その後私が村を出てからは会ってない」



嘘は言ってない。それに私は、鬼宿きしゅくの額に鬼の字が浮かぶのも知っていた。だから別に、彼が国を出た鬼宿だと知っていてもおかしくない。だからほんの少しだけ、朱雀七星士様に詳しいだけ。
そんなことを適当に言い連ねれば、3人は理解したような、けれど納得してないような複雑な表情を浮かべていた。




「それよりも今は美朱ちゃんの心が心配だわ。恋人である鬼宿に襲われるなんて…」
「…何言ってるの?あの二人は恋人じゃないわよ」
「え?」
「鬼宿に忘れられない人がいるとかでフラレたって言ってたわ」
「…え?」
「アンタこそ、二人が一緒にいるところを見たわけでもないのに、どうしてそんな勘違いするのよ」



まずい。何が起きてる?既に原作から逸れてる?どうしよう、どうしたら良い?それなら美朱ちゃんはどうやって立ち直るの?鬼宿きしゅくはどうしたら元に戻る?皇帝様が美朱ちゃんの気持ちを踏みにじった鬼宿きしゅくに憤りを感じて決闘を仕掛けるシーンは?愛の力はどうなるの!?



「…様子がおかしいわね」
「どうしよう柳宿様、鬼宿きしゅく、戻らないかも!」
「はあ!?」



いや、あの薬は戻らなくて当たり前だから、それが本来の使いみちなのか。美朱ちゃんと鬼宿の想い合う力が強いだけで。いや、戻らなきゃ駄目なんだよ、どうしたら良いの!?





*





「………なまえ?」
「鬼宿…?なまえって、誰…?」
「…別に、何でもねえよ」
「嘘。じゃあ何で泣いてたの?美朱と別れた時より、そのなまえって人に許さないって言われたときのほうが泣いてたじゃない!きゃっ、」
「言ったろ?俺はお前のものだって…」



不安そうな顔をする唯を押し倒してその唇を奪う。首筋に口付けて、胸に降りて…



棕鬼宿そうきしゅく!よく聞きなさい!私はあなたを許さない!”



「っ…悪い…唯」



俺を、捨てたくせに。今更何だってんだ。美朱のことを想うことも許さなかったくせに。それなのに、お前を忘れることも許してくれないのか…!





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