■ ■ ■



「なーに見てんの?」



久々のオフはお家デート。

つってもお家ではなく、寮の俺の部屋だけど。


部屋にあるテレビに釘付けなヒナを後ろから抱き締める。
気付いた彼女は前から俺の腕を抱き寄せた。




「私の好きなドラマ。今再放送してるんだよ」


「ふーん・・・?どういう話?」


「甲子園を目指す男の子とマネージャーの彼女が、色々な困難を乗り越えながら、最後には結婚するっていうお話」


「・・・随分ベタだな」


「ベタだけど内容がね、すっごい共感できるの」




楽しそうに説明しながら身体を預けてくるヒナ。


確かにそうですね。

俺達、雄英高校のヒーロー科で、本気でヒーロー目指してるし。
ヒナは俺の彼女だし、これまであった色々な困難を一緒に乗り越えて来たんだから、そりゃ共感できるお話だろうね。




「聞いたところで興味ないでしょ?」


「さすがヒナ」




だってせっかくのオフだし。同じクラスで同じ寮で生活しててほぼ毎日会っているとはいえ、貴重な二人っきりの時間だぜ?
なのにヒナはテレビばっかで全然構ってくれねーし。


こうして直々にちょっかい出しに来たというわけですよ。 諦めて俺に構って下さい。


ってわけで、テレビはお終い。




「あ、見てたのに!」


「どーせ録画してんでしょ?」


「よくわかったね」


「お前の事だから想像つくわ」


「さっすがー。でもリアルタイムでも見たい。なんてったって最終回だし」




結婚式ですよ、結婚式。女子憧れの。
だから見せてくれたまえ。


手の内にあるリモコンへと伸ばされた手を、ひょいっと避けてベットへと投げ捨てる。


彼女はあからさまに頬を膨らませた。




「女優さんの晴れ舞台を」


「なんだよそれ」


「この甘えん坊さんめー」




身体の向きをかえてぎゅうっと抱き締められた。

突然の行動に踏ん張りきれなかった俺は、倒れこむ。
それでも彼女は抱き付いて離れなかった。


甘えん坊はどっちなんだか。




「上鳴、好きだよ」


「名前で呼んで?」


「・・・電気、大好きだよ」


「知ってる」


「そっか」


「俺も好き。超好き。大好き」


「知ってる」




屈託なく笑う彼女が眩しくて目を細める。 すげえ可愛い。
身体を少し浮かせて、彼女の唇に自分のを重ねる。

ちゅっと、可愛らしいリップ音が鳴った。




「俺子供は多いほうがいいな」


「どうしたの?突然」


「んで、男でも女でもスポーツやらせたい」


「・・・電気?」




話についていけないのか、戸惑う彼女に俺は微笑んでから、身体を起こした。




「左手出して」


「え?」


「いーから」




首を傾げながらおずおずと左手を差し出す。
その手をとってから、いつ渡そうか悩みに悩んでポケットに忍び込ませていた指輪を、薬指へと嵌めた。


前々から準備していた指輪。


・・・サイズはサンプルで勝手に調べてたからピッタリ嵌ることは知ってたけど、やっぱ渡すまで緊張した〜・・・!


よかった、ちゃんとサイズ合ってて。




「でん、き・・・、コレ」


「・・・ど?驚いた?」


「そりゃ驚くよ。いきなりだったし」


「自覚が足りてないんじゃないですか?俺にベタ惚れされてるっていう自覚が」




再度ちゅっと口付けると、ヒナはくすぐったそうに。でも幸せそうに微笑んだ。



俺はずっと一緒にいたいと思ってるよ、心から。
いつもからかって意地悪ばかりしちゃうけど、これは本音。

だから例え興味がないものだって、ヒナが喜んでくれるなら、俺はなりふり構わず君の笑顔を見るために努めるよ。



だってもう、君を手放せられない。離れたくない。




「俺は必ずプロヒーローになるよ」


「うん。私もなるよ」


「だからさ、お互いプロヒーローなれたら、その時はさ、」




寂しい思いをさせるかもしれない。 泣かせてしまうかもしれない。いや、きっと泣かせると思う。不安がらせてしまう時だってある。心配なんてめちゃくちゃ掛けると思う。
俺達はヒーローだ。どうしたって互いの存在は一番にならない。守るべき人々がいるから。


けど、それでも俺は、叶うならずっとずっと傍にいたい。


それが自分のエゴだとわかっていても。




「結婚しよう」




さっきまで笑っていたのに、今は涙をいっぱいに溜めて俺を見つめる彼女に、思わず微笑む。
頬に手を伸ばすと、上から手を重ねられた。


頬を伝う涙が掌に零れる。


親指でそっと、それを拭った。




「大人になっても、また同じ事を言ってくれる?」


「そりゃね。でも今のも本気だかんな?冗談で言ってないから」


「・・・本当、今日は電気に驚かされてばかりだなぁ」


「嬉しいくせに」


「さすが」


「・・・それで?してくれるの?くれないの?まあ拒否権はないけどな」




空いている方の手で腰を引き寄せて、普段下にある彼女の顔を見上げる。


まあ答えはわかってるけどね。
その可愛い口から言ってくれるまで、安心できない。

柄にもなく緊張してるから。




「するにきまってる。じゃないと許さないから」




泣きながらも満面の笑みでそう言う彼女。

これでもう、お前の未来は俺のもの。
誰にも譲ってあげない。



「それじゃあ最後に」


「なーに?」


「知ってるくせに」


「わかりませんー」


「・・・ったく」





俺の可愛い未来の花嫁さんに、誓いのキスを。