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「・・・スガ、もしかしなくても武智とケンカした?」
部室入ってすぐ。大地に言われるならまだしも、まさか旭が聞いてくるとは思いもしなくて。一瞬、脳裏に彼女の姿が過ぎる。
少し驚いたけど、俺は別にーとそっけなく返した。
「嘘つくな。眉間にしわ、寄ってるぞ」
自分の眉間をトントンと、数回突付く大地に、思わず両手で眉間を隠す。 我ながら分かりやすい反応をとってしまい、気恥ずかしくなってますます眉間に皺が寄るのを感じた。
ついでに部活中話してる所見なかったしな。
困ったように笑う大地に、つられて苦笑する。 手厚いフォローだ。
・・・盛大にバレてんなあ。そんでもって全部顔に書いてるって訳ね。
旭にまでバレてるってことは相当だ。
「ケンカというか・・・、俺が勝手にヤキモチ妬いたというか・・・」
諦めてボソボソと話し始める俺に、二人は片付けの手を止めて座り込んだ。
気づけば部室には俺たち三人しかいなくて、俺ってばそれに気づけないほど自分の世界に入り込んでいたんだ、なんて。
部活中ならまだしも。
バレー以外は全部、彼女中心でなりたっているんだと改めて思いしめされる。
つくづく俺は、彼女の事が大好きみたいだ。
まあ、それが原因でケンカしたわけだけど。
「昨日アイツ用事で先に帰ったでしょ?その時クラスの奴とヒナが二人で帰ったんだよ。 冬だから日沈むの早くて真っ暗だったからさ。
そいつがヒナと帰る方向が同じだから、ついでに送るって。
・・・それで俺、ヤキモチ妬いちゃってさ。何しろそいつヒナに気があるって噂で有名なやつで、俺も思わずカッとなっちゃったんだ」
あー・・・。今思うと情けない理由。
勿論ヒナの事は信じてる。でもさ、こういうのって理屈じゃないんだよなぁ・・・。
「武智はなんだって?」
「怒ってた」
「え?逆ギレ?」
驚く二人に俺はうなる。
「・・・なんか前に、孝支も女子と帰ったでしょって言われて・・・」
正直言われたときは困った。
いつの話だ?と問う前にそんなことあったっけ?
俺の頭の中は疑問符だらけで、真っ白になって混乱したし。
でもあの時は俺も冷静じゃなかったし、今話してるのはそんなことじゃないだろ!って言い返したんだっけ。
あぁ・・・、ますます情けない。
「スガ。旭みたいになってるぞ」
「ゲッ、マジか」
「ゲッてなんだよ!」
「とりあえずウジウジしててもしょうがないし、あとで電話でもすれば良いんじゃない?」
「・・・うんー、そうする」
頑張れよーと背中を叩かれ、俺は笑う。
やっぱいつまでも気まずいのはイヤだしね。素直に謝って仲直りしよう。
気分を切り替えて勢い良く部室を出た瞬間、ガンッ!と鈍い音が聞こえて。ついでに手に伝わる振動に一瞬思考が停止した。
ヤバイ、誰かに扉ぶつけた?!
慌てて覗き込むと、そこにはヒナが額を押さえて立っていた。
驚きで目を白黒させる俺とは違って、能天気に「やあ」と挨拶してくるヒナ。
あれ、俺たちケンカしてるんじゃなかったっけ?
内心戸惑う。
とりあえず痛そうに額を擦る彼女に、ごめん、大丈夫か?と声をかけた。
大丈夫と微笑む彼女に、ホッと息をつく。
「あれ、武智じゃん。どした?」
「清水と一緒に帰ったんじゃなかったのか?」
後者の大地のセリフに、俺は頷く。
ヒナは視線を彷徨わせてから、困ったように微笑んだ。
「・・・えっと、・・・孝支借りてもいいかな?」
「・・・俺?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
「いてっ」
肘鉄わき腹に入ったって。地味に痛い。
「じゃあカギよろしくな」
「ん、サンキュ」
「また明日なー」
笑って手を振る二人に、俺も手を振り返す。
二人が背を向けてから部室の中へと入った。
ヒナは寒いのか、手に息を吐いて温めるようにこする。
・・・ずっと待っててくれたんかな?
そうだとしたらちょっと申し訳ないけど、かなり嬉しい。
「ほっぺた冷たっ」
「・・・ずっと待ってたもん」
突然頬を触られて驚いたのか、目を少し見開いてから頬を染めるヒナ。
やっぱ待っててくれたんだ。
こんな寒い中ずっと。
ヤバイ。思いっきりぎゅってしてぇ。
「そっか。・・・ごめんな、怒ったりして。あれ、ただのヤキモチなんだ」
「ううん、私の方こそごめんね。私もただのヤキモチだったの」
それはなんとなく気づいてたからわかってた。
言われた時は訳分かんなかったけど、その言葉の真意に気づいた時、嬉しくてついニヤけちゃったし。
「考えてみれば孝支と初めてケンカしたから、どうしたらいいかわかんなくて。
ケンカした後、すっごく後悔して・・・。その事を潔子に話したら帰りにちゃんと仲直りしなさいって、背中押してくれたの」
「俺も一緒。大地になんか旭みたいになってるぞって言われた」
あれはショックだったな。
そう言って笑うと、ヒナもつられて笑う。
俺だけに向けられる、大好きな笑顔。
やっと見れた。
思わず手を伸ばして彼女の身体を閉じ込める。
ひんやりと冷えきった冷たい体。
触れたそこはじわりじわりと、俺の体温がうつっていく。
このまま溶け合ってしまいたい。
「ね、ヒナ」
「なに?」
「出来るだけ男子と一緒に帰らないで」
「わかった。・・・女の子とも?」
「時と場合による」
「ふふっ、何それ。わがままだなあ」
今更知った?
そうだよ。
俺は我侭なんだ。そしてすごいヤキモチ妬き。
だからこれ以上妬かせないで。
顔を傾けてちゅっとキスをする。
啄ばむようなキスを続けた後、悪戯心で耳に甘噛みをしてやった。
へへっ、どーんなもんだ。
「・・・おかえしっ」
背伸びをしたのか突然彼女との距離が近づき、気づいた時には唇を奪われていた。
あーもう。
君には叶わない!
「孝支」
「ん?」
「またケンカした時、こうやって仲直りしてくれる?」
「当たり前だろ?」
何度だってするよ。
君のその笑みが見られるのなら。
「仲直りしたのに話を蒸し返してごめんだけど、結局一緒に帰った女の人誰だったの・・・?」
「それまじで分かんないんだけど。一緒に帰る女子なんているとしたら清水くらいだし・・・。・・・そういえば最近、道聞かれて駅まで案内したことあったな。茶髪の人。もしかしてそれ?」
「その人。・・・なんだ、道聞かれただけだったんだ」
あからさまにホッと息をつく彼女が可愛くて、俺は再度彼女の唇に自分のを押し付けた。
*タイトルby Gris