もう少し夢に浸らせて



戦闘訓練はものすごく楽しみにしていた。単純に勉強よりも体を動かす方が性に合う脳筋な部類というのもひとつある。が、楽しみにしていたのにはもうひとつ理由がある。


それが今身に纏っている戦闘服だ。


正直色々迷った。本当に迷った。今も尚これでよかったのかな?と不安に思ったりもしている。が、これはこれで素敵が過ぎる戦闘服だ。

巫女装束というか和装の戦闘服を着たくて、それを「要望」に書いたところ、見事にそれは叶えられていた。

思わず、おお、すげえ。戦闘服なのがもったいない。と一人静かに歓喜の声を洩らしてしまうくらいには、素晴らしい出来である。若干のコスプレ感には目を瞑るとして。

まあ、正直着るのに大分手間取ったけど、要望通り過ぎて感激が過ぎる・・・。軍服とかスチームパンクと迷ったけど全然良き・・・ありがたや・・・。



背中がぱっくりと開いたタンクトップのような銀朱の小袖に、黒い袴。しかし袴は通常のよりも極端に短く、大胆にも横に大きくスリットが入っている。

見苦しい横乳と太腿を晒してしまい恥ずかしい。お目汚し申し訳ない。羽織もちゃんとあるから安心して欲しい。

ボディスーツかよくわからないが、見た目が黒いタイツのようなニーハイに足袋を履き、装飾が綺麗に施された厚めの黒い下駄を履く。

ついでに手甲をつけて、背中には私の愛傘である番傘を・・・よっし、これで準備完了。あ、腰に鬼のお面つけるの忘れてた。これも着けてっと。その他もろもろアイテムもちゃんとしまって・・・おしっ、準備完了!


戦闘服をじっくりと堪能するように眺め、身だしなみを念入りに確認し立ち上がる。

うむ、何度か確認したけど大丈夫そうだ。
あとは恥じさえ捨てれば全然行ける。すぐにグラウンドに向かえるわ。



「着替え終わった?」

「うん、お待たせじろちゃん」

「似合ってるじゃん。中々様になってるよ。エロい」

「エロッ・・・?! ・・・あ、ありがとう。じろちゃんも似合ってるよ。その頬の三角メイクも可愛い」



ストレート過ぎる感想を頑張ってスルーして、両頬を指差して言うと照れたようにじろちゃんは僅かに目を逸らした。

可愛いなー、思わず抱き締めたくなる。
抱き締めたくなって、ス・・・ッと両腕を広げたら睨まれてしまった。照れちゃってもう、可愛いんだから〜。



「佐保の鎖骨にある紋様?はメイク?」

「あぁ、これ?そうそう」



鎖骨に浮かんでいる、・・・三つ巴の痣を指先で撫でながら私は苦笑を浮かべる。

ふと耳朶が軽いのに違和感を感じて、なんとなく耳元に手を伸ばすと、そこにはいつもの重みがなくて。思わず「あれっ?」と焦った声が出た。

気付いたじろちゃんがどうしたの?と首を傾げる。



「ピアス何処置いたっけ・・・」



着替える時、慣れない服だからか着るのが下手すぎて、何度か服に引っかかってたから外してたんだよね。



「片耳にいつもつけてるピアスのこと?短冊の所にも三つ巴の紋が入ってたやつ。先に小ぶりの青い風鈴がついてるやつだよね」

「そうそう」

「あのピアス不思議だよね。風鈴なのに揺れても全然鳴らない」

「まあ四六時中揺れるたびに耳元で鳴ってたら耳がおかしくなるからねー」

「確かに」



嘘は言っていないが、納得したように頷くじろちゃんに、少しだけ申し訳なさを覚える。それをひた隠すようにロッカーの中を探していると、ちょんちょんと肩をつつかれた。



「初瀬さん、これ。ピアス、落ちていましたわよ」

「あー!ありがとう!そのピアス大事なやつなの!ほんとありがとう八百万さ・・・、」



八百万さんに声をかけられ、私とじろちゃん二人して振り返る。
そして彼女の姿を見て揃って言葉を失った。

うえええ、コスチュームの布の面積すくな・・・っ!胸から臍までぱっかーんしてるよ・・・!
私も背中パッカーンで割りと露出多いけど、その比ではないレベルで露出してるよこの子!!私が甘かった!
つーか胸デカッ!ナイスバディ過ぎない?!君本当に高校生・・・?!



「どうかしましたか?」

「眼福だなって思っ・・・あだっ、・・・すごい似合ってるなと思って!」



素直な気持ちを吐露したらじろちゃんに叩かれた。
痛い。けどご馳走様です。

女子としても目の保養ではありますが、この露出の多さは心配でもありますな。



「ありがとうございます。初瀬さんも良く似合っておりますよ」

「ありがとう。・・・あと、呼び方名字じゃなくて名前の佐保で良いよ」

「い、良いんですの・・・?」

「本人が良いって言ってるんだからもちろん!かわりによければ私も、これからももちゃんて、あだ名で呼びたいんだけど・・・、良いかな?」

「! ももちゃん・・・!」

「あ・・・、もしかしてダメだった?」

「いいえ!あだ名で呼ばれた事がなかったので、反応に少し戸惑ってしまいまして。嫌とかではないんですのよ?!何分はじめての事でしたから嬉しくて・・・っ。佐保さんが良ければ是非そう呼んでください」



きゃー笑顔が眩しい。だがしかし揺れる乳にどうしても目がいってしまう。

ごめんももちゃん。純真無垢な笑顔を見せてくれているのに、私の頭は煩悩でいっぱいで。

けどあだ名でそんなに喜んでくれるなら、私としても嬉しい。これから仲良くなれると良いな。友達また一人ゲットだぜ。


また一人出来た友人に嬉しく思いつつ、急ぎ足でグラウンド・βに向かった。