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彼女は今日も闊歩する。
気が触れるほど清潔な白さの中を、カツカツとヒールを規則的に鳴らし、ピンと伸ばされた背筋は少しも曲がることはない。歩みに合わせてゆれる髪は絹の如く。涼し気な瞳は視線を遊ばせることもなく、ただただ前を見据えている。そして彼女が常に纏っているその衣は、いわゆる"白衣の天使"と呼ばれる装束であり、古今東西 数多の者を癒し、幾多の野郎共の煩悩を掻き立ててきた。
ここまで説明すれば皆々様も察したと思うが、彼女ーー千手ヶ原かなめはナースである。
温度を感じさせない黒目が、待合室のソファで縮こまっている俺を捉える。
「観音坂さん、お次どうぞ、奥の部屋で神宮寺先生がお待ちです」
淡々と俺を呼びに来る彼女の背景にはいつもブリザードが見える。幻覚だというのは俺も知ってる。瞳を合わせた瞬間、凍てついた手で心臓を掴まれたような気分なるが、それが嫌な感覚なのか、そうでないのかは俺はよく知らない。
俺がのっそりと動き出す間も、千手ヶ原さんは表情をぴくりとも動かさない。俺は彼女が表情を変えたのを一度も見たことがない。でも彼女が病院でなんと呼ばれているのかは知っている。
鉄仮面である。
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