
01
身を潜めてこそこそと生きる事に慣れてしまった。きらきらと輝くその場所をずっと真っ直ぐ歩いてきたけど、いざ縮こまって暮らすとなると案外自身の体は環境にすぐ適応する。そんな事実に初めは酷く驚いたが、一々驚いていては身が持たないと自覚し、気持ちを切り替えるように目を伏せた。そんな生活をして数日の事。この夢ノ咲学院で上手く身を隠しながら生きてこられた私が、先生から呼び出しを食らったのである。思わず「えっ」と声を漏らしてしまったくらいだ。すると先生は悪びれもなく「まあまあ、悪い話じゃないから」とへらりと私に笑いかけ、職員室の隣にある会議室へ招かれる。わざわざ会議室へ入らなきゃいけない用事とは、一体なんなのだろうか。静かに会議室の扉が閉まったのを確認した先生は「適当に座ってくれ」と促す。特に断ることもないため、返事をして端の席に腰掛ける。
「急に呼び出して悪かったな」
「いえ、特に用事はなかったので大丈夫です」
「悪かったな」なんて言うけど絶対悪いと思ってないだろ!わかってんだぞ!と叫びたい気持ちではあるが、ここはひとつ我慢しなければ。
「まあ、単刀直入に言おう。日槌、プロデュース科に行け」
「………うん?」
いや単刀直入すぎてびっくりだわ。本当にこの人はアイドル学校の先生なの?それも昔は有名なアイドルだったという仰天の事実だって今なら最大級に疑うことができるレベルだ。もっとほら……人との会話とか気持ちとか、そういう気遣いができるようになっても……いや、流石にそれは言い過ぎか。
「ええと、それはまた何で…」
「プロデュース科創立のため、女子生徒が一人転校してきたのは知っているだろ?そいつ一人じゃ大変だろうから、『アイドルの先輩』であるお前にサポートして欲しいんだ」
なんとも気の遠くなる話をしてくれたものだ。確かに今までアイドルをやってきた私だからこそ現役の子達に教えるべきことは教えるのが筋って物……なのだろうけど、その無茶ぶりさがどうにも納得いかない。……ああでも、男の子の中一人だけで生活するのは流石に酷だろうから、それを考えると手伝ってあげたいという気持ちがあるのも否定できない。
「……まあ、悩みますけど…別にいいですよ。ああでも素性は隠させてくださいね。バレたら少し面倒なので」
「ああ、それくらいはこちらも配慮しているから心配しないでくれ」
アンチも自分の内、とは思うけれど自分から炎上に向かっていくほど命知らずではない。別の科の子やファンの子に殺されて人生終わるなんて絶対に嫌だ。どうせなら歌いすぎ踊りすぎで死にたい……なんて冗談だけど。
「さて、早速だが今日のプロデュースするユニットを紹介しよう」
「おう、マジで早速だな」
「『Kingths』だ」
「おう……スタートダッシュそことかハードル高すぎるだろ……やめてくれよ…」
Kingthsには、この学園一正体をばらしたくない人物がいる。その名も後輩いびりマン。同級生である私はその当事者ではないのだが、見ていて不憫になるような後輩いびりが特徴なために(勝手に)そう呼んでいるのだ。呼び名はさておき会いたくない理由は一つ。その人物に何も言わず芸能界を去った事だ。それから目の前に姿を現してもいないし、連絡も全く取っていない。執念深い人物だからこそ、きっと私の姿を見た瞬間罵倒の嵐が私に降り注ぐだろう。つまりはメンタルクラッシャーという訳だ。
「さ、行った行った〜」とこっちの気も知らずに会議室から出そうとする先生に軽く殺意が湧いてきた。…全部知ってるくせに。