
02
「おじゃましまー…うわあまるで無法地帯」Kingthsの活動場所へ一歩足を踏み入れてその教室を見渡すと、アイドルが寝ていたりアイドルが壁に音符を書き散らしていたりアイドルがぷりぷりと怒っていたり……等々、自由にも程がある光景が広がっていた。まあ、以前と変わらない風景だ。ふと、私の存在に気がついた一人のアイドルが「あら!」と嬉しそうに声を上げる。
「貴方が噂の二人目のプロデューサーね?」
「そうだけど……噂、されてたんすか」
「そりゃあ勿論!あ、私は鳴上嵐よ。気軽に『嵐ちゃん』って呼んで頂戴♪」
綺麗ににっこりと笑う嵐ちゃんを見るとなんだかほっこりしてくる。後輩いびりマンからは「クソオカマ」と罵倒の情報しか入ってこなかったが、やっぱり間違った情報だったんだ。会ったばかりだからまだ分からないけど、この人はきっといい人だ。なんとなく分かる。
「あ、私は……」
「あ!お前誰だ?待って!言わないで!妄想するから!」
「来ると思った…お前は話を遮るマンだ……」
「なんだそれ?面白いこと言うなお前!あ、そう言えばどこかで会った事ある?なんだっけなー…うー…」
突然現れ話を遮ったKingthsのリーダー・月永レオは私の話は全く聞く耳を持たず、一人でマシンガントークを開始した。いやそんなことよりも多少は変装している私の姿を見てどこか思った事があったのか、思い出そうと悩み始めたのは流石に冷や汗をかいた。え、こんな早くバレたら私の平穏スクールライフはここで終わってしまうのでは?月永レオにバレたが最後、この軽すぎる口で後輩いびりマンにチクるに決まってる。そうしたらあの恐ろしいオーラで雷が私に……そう考えただけで真っ青になる。もう私の命は終わるんだ……。
「あ!分かった!この前食堂で立って寝ながらカツ丼食べてた奴だな!?」
「え…誰なのそれ…めちゃくちゃ器用じゃん……逆に知りたくなってきた……」
夢ノ咲だからそういう奇怪な人間がいてもおかしくはない……けど、ついどんな人なのか気になってしまう。というか私は立って寝られないしここ最近食堂でカツ丼さえ食べていない。完全に人違いである。
「ああちなみにそこで寝ているのは朔間凛月で、今日は日直で遅刻するってさっき聞いた…朱桜司と、一人が仕事で抜けてるんだけど…」
そう言いかけた嵐ちゃんの言葉を遮るように、教室の扉ががらりと開けられた。何故だか悪寒を感じてぶるりと身を震わせると、後ろから不機嫌そうな声が聞こえた。
「誰?この女」
「あら忘れちゃった?ほら、あんずちゃんのサポートをするためにプロデューサーになった実鶴ちゃんよォ」
「……ああ、そういえばそんな噂もあったねえ。ま、別にどうでもいいんだけど」
「足だけは引っ張らないでよねぇ〜」と言いながら近くにあった椅子に腰を掛ける……そう、この人こそ後輩いびりマン。嫌味と嫌味と嫌味で構成された人間なのである。
「もう、泉ちゃんたら……。ごめんなさいねェ、いつもこうだから気にしないでね」
「(慣れてるから)気にしてないよ、大丈夫」
ひらひらと手を振って大丈夫だということを表現してみせると、嵐ちゃんはほっとした様子で柔らかく笑みを浮かべた。うん、美人さんの笑顔は国宝だ。
ひとまず後輩いびりマン……うん、とりあえず本名で呼んでつかわそう。瀬名に変装…と言うか正体がバレなくて良かった。首の皮一枚で生き延びた気分だ。
ほっと一息つこうとも考えたが、この無法地帯をどうまとめるかを真っ先に考えたほうが良いという事に気が付いて、思わず深いため息をついた。もう、お先真っ暗なのでは?