03

(前回の続きです)


「もしかしてお姉様、元アイド」
「ウワーーーー!!!!」

結局朱桜司が合流した後、彼は目を大きく見開いたと思いきやきらきらと輝かせると、そんな爆弾発言をした。瀬名が分からなかった私のこの変装を、何故お前が見破った!?朱桜自体が爆弾なのかこれは。予期せぬ先制攻撃に私のライフは0になりそうである。

「どうしたの、急に叫んで。びっくりしちゃったじゃないの」
「あ、はは。ごめんごめん。いや、ちょっと忘れ物したの思い出して……ちょっと取ってくる!」
「え、実鶴ちゃん!?」

そそくさとこのレッスン室から出ようと早足で扉へ向かおうと足を向ける。ここは逃げた物勝ち!無理だこれ!ここに居たくない!どっと冷や汗が出るのを感じながら勢い良く扉を開けて一歩踏み出すと、ぐっと襟を誰かに掴まれて女子らしからぬ声が自分から出る。

「……ねえ、まさかあんたさぁ。"あの"実鶴?」
「……ヒエ…」

見定めるような鋭い目で私を睨む瀬名。その右手はしっかりと私の襟を掴んで離してくれない。そろそろ酸素不足で死んでしまいそうだからまずは手を離して欲しい…なんて要望は今聞いてくれないんだろうな。ああ、良い人生だった…☆

「ちょっと聞いてるの!?というか絶対実鶴でしょ!?人の話無視して自分の世界に入るあたりそう!ほんっと変わってなくてチョ〜うざぁい!」
「え、ええ……。突然罵られた……」

変わってないのはどっちだよ、と心の中でツッコミを入れながらも早々にバレてしまった事実によりどんどんメンタルゲージがボロボロになっていく。うう、こういう事なら初めから朱桜に会って口止めしておけば良かった。朱桜は何も悪くは無いのだし、攻めるとしたら過去の自分の愚かさだ。

「……やっぱり、なんか似てると思ってたのよねェ。でも今までずっと身を隠してきたんでしょう?何でサポートなんて引き受けたの?」

嵐ちゃんは手を頬に当てながら不思議そうに私を見つめる。

「引き受けるつもりは無かったんだけど……うーん、何だろ。自分でもよく分からないんだけど、なんとなく“そうしなきゃいけない”って気がした…からかな」

実際アイドルという職業は今でも好きだし、プロデューサーのサポートなんて立ち位置程楽しそうなものはないと思ったのもある。でも、何となく『これを引き受けたら前に進める』気がしたのだ。不確かな感情だとしても、自分は自分自身を信じてあげたい。それが本音だったりもする。

「はぁ?そんな中途半端な気持ちで臨まれても困るんですけど」
「…まあ、始めたきっかけが中途半端なのは否定できないけど、引き受けたからには全力でやるつもりだから安心してよ」
「っはぁ〜!?前よりも生意気になってない!?チョ〜うざぁい!」
「まあまあ、落ち着いて泉ちゃん」

イラつきを前面に出して文句をネチネチと言う瀬名を嵐ちゃんが困ったように宥める。「でも泉ちゃん、実鶴ちゃんが本気だって事は分かっているでしょう?」と優しく問われると、瀬名はふん、とそっぽを向いてついに口を閉じた。これがツンデレの鑑か。でも一先ずは私の気持ちがちゃんと理解されたみたいで良かった。これで更にヒートアップしたらもう転校しようかと思ったし。…大げさすぎるか。

「そう言えばお二人はお知り合いなのですか?」
「そうそう〜。仕事で一緒になること多くてね。いやあ、テレビの前ではあんなに大人しいのに普段は後輩いびりを趣味とする後輩いびりマンだなんて初めは信じられなかったよ〜」
「はぁ?そっちだって表と裏全く変わらないバカでびっくりなんですけど〜?今大人しいのはどうせ正体バレたくなかったからなんだろうけどさあ、正直言って静かな実鶴はチョ〜キモい」
「う……!なんで瀬名はこうも私の心を傷つける言葉をぜ〜んぶチョイスして投げかけるのかなあ!?」

むっ、と頬を膨らませながらブーイングを送る私を見て、瀬名は満足そうに笑ってくしゃくしゃと私の頭をかきまぜた。ああもう、ぼさぼさになるからやめてってば〜!と手を除けようとしても本人は聞く耳を持たず「はいはい〜」と適当に返事をするだけだ。瀬名は私の事を犬か何かだと思っているのではないだろうか。犬でないとしたらきっと私は幼児扱いされているに違いない。実に複雑な気持ちだ。

昔のように憎まれ口を叩き合っている中、嵐ちゃんと朱桜が目をぱちぱちとして呆然と私たちの様子を見ているのに気がついて首を傾げる。

「どうしたの、二人とも黙って」
「いや……二人とも仲が良いのねェ。ちょっとびっくりしちゃった」
「はぁ!?これのどこが仲良いって思うわけ!?」
「よかったね瀬名…私たち…ズッ友だよ…」
「うるさい実鶴!ちょっと黙ってなぁ!」

哀れむように瀬名の肩にそっと手を置くと、眉間にしわを寄せながら鬱陶しそうに私の手を適当に払った。残念ながらズッ友認定はされなかったようだ。無念無念。

「なるほど…お二人はbestfriendだったのですね!素敵です!」
「…どうするよ瀬名、天然解釈が火を噴いてるぜ…?」
「十中八九あんたのせいでしょうが」

変な事言ったせいでしょ、と私の頭にチョップを落としてくる瀬名。それが女の子に対する態度か、おおん?そう思って威嚇するように睨むと、それを超えた鋭い睨みが私を襲ってきた。瀬名は睨みのプロだった。

「ああもう、そろそろレッスン始めるよぉ!ほらくまくん起きて!」
「……ん〜、セッちゃんうるさい…あと一時間…♪」
「そんなに寝かせる訳ないでしょ!?」

レッスン室のはじっこ、窓際の日の当たる場所ですやすやと眠っていた朔間凛月は瀬名に起こされて、まだ眠そうにゆっくりと体を起こした。視線を動かしてばっちり私と目が合ったから、何も言わないのは失礼だと思って自己紹介をしようとすると、朔間凛月は「あ」と声を漏らした。

「実鶴でしょ?知ってるよ」
「え、何で」
「ん〜…まあ、兄者から?」
「朔間零後で潰す……」
「いけいけその調子〜♪」

朔間零とは一年の時からの付き合いで、私が芸能界を去った理由を知る一人だ。ちなみに私が正体をばらしたくない理由も知っているし、勿論口止めもしている。…それがあの吸血鬼、弟だからと口を外す事を許可した覚えは無い!絶対許さない!後でお説教してやる!昼間に寝させてやるものか…!

「だ〜か〜ら〜!早くレッスンしなって言ってんでしょ!?」
「うわあ!ごめんって!今やるからチョップしないで〜!」

鬼の形相で私の後ろに立ってチョップの構えをする瀬名に気がついて体温がサーッと下がる。身の危険を感じて急いで鞄からレッスンについて細かく書かれたファイルを取り出して「さ、始めようか!」と気合いを入れると、皆の顔が呆れたような表情になった。何で?



(切り替えは早いのねェ、あの子)
(…昔からだよ、あれは)
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