鳥はかわいい



「では、ビーチフラッグならぬカレッジフラッグで決めましょう!私、優しいので!」

誰が想像しただろう。
マジフト大会の実行委員を遊びで決めるとか。



「優しくねーーーーわ」
「珍しく意見が合うな」
「珍しくありませんわよダーリン!」
「……まだ続いてるのかその呼び方」
「もちろん」

毎年毎回の事だが、行事ごとには実行委員が付き物である。
大体において実行委員というのは主体が生徒なのだが、マジフト大会は特例で、メインの運営に教師陣が多めに組み込まれている。安全管理のため、というのが主な理由。
その実行委員を決めるのにカレッジフラッグとやらをするらしい。
……なんでそうなったんだと言う他無い。

曰く、例年各寮各学年から5人づつ程度選出しているのだが、昨年の運営補助決めは荒れに荒れたと言う。
皆観戦したいのが本音で、その中で補助役員をやる者と言えば大体「あー、まあいいよ、面倒だけどやるわ」という奴が大多数。
やりたい!というのはそんなに居ない上に、「去年やったからやらない」という1番厄介で何も言えない拒否権を出すものも多く、中々決まらずに各寮で揉めて、サバナクローあたりは少々乱闘騒ぎになったらしい。
うわ、怖。

今年は各寮各学年代表者で対決をして、勝った者が所属する寮・学年クラスからは補助役員を出さないようにできるということになった。
例えば、トッカが代表者になって勝ったなら、1年Cクラスのハーツラビュル寮からは役員を出さなくて良い。
代表者の胃痛が凄まじいシステムである。

「どうやってやるんだ?」
「聞いてなかったのかよー!」
「眩しくて寝てた」
「ハア、ダーリンてばほんと……。まー、ビーチフラッグ的な?カレッジ内に置いた複数のフラッグの内1つを取って、ホームエリアまで戻って来れたら勝ち」
「この広いカレッジ内を?」
「魔法は禁止だが箒は使って良いらしいぜ?それに、ホームエリア近隣で待ち伏せしても有りってことだよ!」
「小汚ない奴が増えそうだなあ……」
「それこそコレの代表になりたかねぇよな」

現にこれから、テラスラウンジでクラス内のディアソムニア所属メンバーと話し合いをするのだが、それなりに全員嫌そうな顔をしていた。分かりやすくて何より。

「本当に嫌だよ。箒を使えたとしても、まずどこにフラッグが置かれてるかも分からないんですよね?」
「そーらしいな、俺あんま飛行術得意じゃねえからマジで俺は止めといた方がいいぜ」
「誰が純粋な人間にやらせるものか。それでは負けに行くと言っても過言ではないじゃないか」
「予防線引かせてもくれねぇのかよ」
「辛辣な物言いは慎みなよ、君。だから人間に友人と呼ぶべき存在がいないのだ」
「い、いいいないわけでは無い!」
「落ち着け」

上から妖精族@、人間@、妖精族A、人間@、妖精族B、そして俺。
発言はしていないがここにルームメイトが加わるので、このクラスのディアソムニアは妖精族3人と人間2人、鳥人1人という内訳だ。
飛行術が苦手らしい人間が呆れたような、諦めたような顔で肩を竦めるので、ポンポンと肩を軽く叩いておく。
うちのクラスのディアソムニア所属の人間は、2人ともちょっとハーツラビュルっぽい気質なこともあって、妖精族とこんな感じの距離感を保ったままだ。
対戦は全学年がランダムに分けられるので、上級生と当たることを考えたら、そりゃあ、ハーツラビュルの1年寮長のように余程優秀でなければ人間には任せられない。獣人のように基本的に身体能力が優れた者もいるし、入学したてのカレッジの1年生なんて、殆どが「子供」の枠にまだ片足突っ込んでるような身体をしてるからな。
……待った、この言い方はちょっと変態臭かったかも知れない。違います。純粋に生物的に未熟だという話です。

「すまない。こちらが出てもかんばしい結果が出せるかどうか分からない訳だから、悪戯に騒いでしまったね……」
「結果か……それは、どうしてだ?」
「対象物を探知する魔法を僕は知らないからな。君達は知っているかな?」

そう言われてみれば。
ホワイトに近いブロンドヘアの妖精族はこのクラスでトップの成績優秀者だ。きっとこの妖精が代表になるだろうと踏んでいたのだが。意外と冷静だな。
悩む仕草で頭を捻る彼の、尖った耳に付いたピアスが動きに合わせてチリリと揺れている。

「知りませんね。習ってもいないから」
「お、お前が知らないのなら、……私が知っている訳無いだろう……」
「ええ〜!俺も知らねえわ。俺らまだ1年じゃん」
「分からねー…。追跡の魔法は知ってるけどさ、あれは対象物に一度接触しとかなきゃだろ?」
「そうだな。又は鮮明に対象物を思い描く必要がある。けれど、今回フラッグは教員達が用意する上に、『赤いフラッグ』としか伝えられていないからね。ボク達は色しか思い描くことができない状態だ」

フラッグは大きく目立つようにするらしいが、どれほど大きいのかは分からない。触ると持ち運びしやすいサイズに変わるというので、待ち伏せ強奪は可能だが、「前の組を観察してどのようなフラッグが見ておく」ということが例えできても、「追跡すべき元のサイズ」が分からないので条件が揃わない。
つまり、どんな者も1からカレッジ内を探さなければいけないということ。

「イヤ〜!もう超詰んどる詰んどるツンドラ気候」
「お前、ちょっと黙っておけないか?なんで真顔でそんな事言うんだ?」
「やば……つまらなすぎてクソほど引いたわ。何、お前?」
「はあ〜?ちょっとスベったくらいで当たり強すぎない?」

ちょっとじゃないんだよなあ。
見ろ……向かい側に座る妖精を……。
「人間て分からん」て顔と「愉快な人間だな」と「本当にこいつディアソムニアか?」って顔だよ。

「まあ、こいつと詰んでるか否かはとりあえず脇に置いておいて。別に最悪負けてもいいなら、俺が出るが」
「脇に置いとかないでよお!って、え?お前が?」
「負けてもいいなら」
「負けて良い訳無かろうが!?」
「おい、落ち着けと言われたばかりだろう。この状況を打開しようとしている者を、理由も聞かずに怒鳴り付けて良いことなんて何も無いよ。……それで、君はどう考えているんだ?」

同級生に叱られてシュンとした男は恨みがましくこちらを見てくる。
妖精のことに詳しい訳ではないが、他の妖精が一歩後ろに下がり気味なので、ホワイトブロンドの妖精は所謂、良いとこのご子息というところだろうか?
でなければ叱られた男は黙っていないだろうし。

「有効なユニーク魔法でも持ってるんですか?」
「いや、考えとか特に無いんだが、フラッグはカレッジ敷地内にバラけるって話だろう?外のフラッグなら上から見ればいいし、それなりには飛べると思う」
「そう……。そうしたら、僕が行こうか。君は、そんなに飛行術の成績は良いわけではないだろう?飛行術の成績はこの中ではボクが1番だから」

このブロンド妖精はクラスメイトの成績順まで覚えてるんだな。すごい。
なんでお前立候補したんだ?みたいな目線が痛いんだが、別に虚勢を張った訳じゃないし、敢えて言うなら、このブロンド妖精がサクッと代表になればいいなと思ったからだ。
成績優秀者の一部は「本当は実力を誇示するために立候補したいけど、周りの空気を伺って何も言わない」タイプだから半分は誘導。

「まあな。じゃあ任せていいか?」
「いいよ、負けても文句は無しだからね?」
「もちろん」

周りも頷いている。
この勝負、比較的不利なのは人魚が多いオクタヴィネルと、インドア気質なイグニハイドだろうから、学年でも優秀者なブロンド妖精なら対処は容易かな。

「なんでダーリンは立候補しちやったんでちゅか〜?」
「本当に煩いな」
「なあ、こいつなんでウチの寮いんの?」
「うわ〜!お前に言われるとかビックリなんだけど?!」

決まった途端に横並びにいる人間組がはしゃぎ出してしまう。
げんなりしてため息を吐くと、さっきまで静かにしていた黒髪の妖精がこちらを見ていることに気が付いた。口元は緩やかに微笑んでいるが目が笑っていないので怖い。なんだこいつは。

「でも、ぼくも興味はあります。どうして、立候補したの?」
「はあ、別に、深い意味は無い。俺は鳥人だし、箒に乗らないのならそれなりには飛べるからな」
「は?」
「…………うん?なんで静かになったんだ?」

ぴた、と止まった周囲に驚いて見回すと、ルームメイトにガシッと肩を捕まれる。
うわ、止めて欲しい。背中や肩甲骨辺りから腕は翼に当たる箇所なので触られるの嫌なんだ。

「なんで!言わないの!?俺も知らなかったんだけど!?もう結構ルームメイトしてるっていうのに!!」
「え、別に、言いふらすことでも無いだろ」
「そうだけどそうじゃないんスわ」
「うん?」

ルームメイトの手を肩からやんわりとはたき落としながら、ちらりとブロンド妖精を見ると何か考え込んでいた。
え、別に絶対やりたいわけじゃないから、今さら考えなくていいんだが。

「君。質問なのだけれど、種族は?あまり言いたくなければ、目か科まででもいいよ。」
「フクロウ」

科で止める必要あるか?まあでもいいか。能ある鷹は、なんちゃらだ。
実際の能があるかどうかは知らない。

「フクロウ!それは良いね!キミが代表になるべきだよ!」
「ええ……、そんな元気に言われるとやっぱり嫌だな……」
「この者がか?ど、どうしてだ?」
「フクロウの飛行速度は最高で時速60km前後だ。下手な者の箒よりは断然速く、自由に飛行が可能だろう」
「なんで時速知ってるんだ?俺も知らないのに」
「ふふ、棘の谷にもフクロウは居るからね」

ブロンド妖精はにこにこと笑っている。
うわ、怖い。こいつ本当は何歳なんだ?

「ふーん、なるほど。分かりました。だから君は飛行術の成績がすごく良いって訳じゃないんだね」
「まあ」

そりゃそう。自力で飛べるのに、態々箒を用意する意味あるか?無いだろ。
飛ぶことに慣れすぎて箒に対するやる気は無い。
大体の鳥人はそういうコトで、飛行術の成績は可もなく不可もなく、という程度。
「飛ぶための仕組み」が違うから、箒の扱いもコツが掴みにくいし。

「それに、ボクが代表の場合、1番の懸念は強奪だと思う。人体に影響を加えるような魔法が禁止であるから、防御しても正直一か八かだね」

正直ブロンド妖精含め、ここに居る5人は体格が良いわけではない。ごくごく標準。むしろ細身かもしれない。
人体への影響を及ぼす魔法が禁止ならシンプルに拳で来るだろう。この学校治安悪いし。
ま、殴られはしなくても、体格の良い上級生とぶつかる程度で普通に押し負けるだろうな。

「フクロウは捕食者側ですからね。森の中の食物連鎖のトップクラス」
「そうなの?」
「種と森によるけど一応な」
「でもさ、それはフクロウの場合だろ、えーーと、お前の場合は?」

名前が覚えきれないらしい人間に目配せして続きを促した。

「それなりに飛べるし、一応フクロウだからな。やられたらやり返す位はできると思う。多分」
「じゃあ、その、大丈夫か?」
「……さっきからふざけた発言しかしてなかったが心配してくれてるのか?」
「そりゃな!」
「大丈夫、問題無く勝てると思うよ。キミの爪はキミに見合った鋭さだろう?」
「まあ」

棘の谷に他のフクロウの鳥人でもいるのだろうか。
嫌に詳しいな。

「そっか、鳥だから武器が爪なのか」
「獲物を捕らえる爪、ですね、心強い味方だ」
「待って待ってダーリン強者説?マジで?」
「強くは無いって。あとダーリンやめろ」
「では、ボクではなく彼にしよう。決定という事で」

あーあ、確かに誘導は半分だったが、面倒だな。







当日。
ホームエリアは代表と付き添いの二人までの入場で、他はモニター観戦らしい。

蓋を開けてみればホームエリアになっている中庭には、ちらちらと鳥人がいる。考えることは皆同じな訳ね。
第1ラウンドの組のやつなのか、ルームメイト曰く「腕」を「翼」に戻している奴も既にいる。背中が大きく開いた服を着ているのが、大体の場合鳥人。

見回していれば、前を歩いていたダーリンがぼそりと呟いた。

「うわ、ハヤブサがいる」
「ハヤブサ?どこどこ」
「あそこ。壁際のとこ」
「何、猛禽仲間で知り合い?」

ただの人間で、鳥に詳しい訳でもない俺にとっては、パッと見じゃどの種なのか分からない、灰色っぽい斑の翼。
チャラチャラとした飾りと細かい刺繍の付いた衣装を着てるんだが、あれなんだ?民族衣裳か?ポムフィオーレか?
ウチの子はものすごいシンプルな黒の上下だぞ?

「いや、全然。例えば……学年で脚が速い奴って、なんか有名だったりするだろ」
「確かに。相手は俺の事は知らないだろうけど。そういうこと?そんなに速い訳?」
「俺の3〜4倍くらい速い。最速は時速200から300kmじゃなかったか?多分」
「生身から出てくるには意味が分からねえ数値きちゃったよ……」
「フラッグは複数あるが、同じ組じゃなくて良かった。万が一でも叩き落とされたら不味いからな」
「叩き落と……???」

ヤバい単語も出てきた。いや無理。もう聞かない。

「まあ、負けてもいいって言質取ったしな、勝てることに越したことは無いが、気楽に行こう」

珍しく、パヤ!と目を細めて笑った。
確かにそうだが、こうなったら勝ち負けよりもこいつが無事に戻ってこれるかどうかが重大だろ!?
なんだ叩き落とすって!他にもそういうやついたらどうすんの?!

「なんでそんな笑ってんだよ?」
「んん、久しぶりに戻るから、ワクワクしてるみたいだ。もう薬飲んで良いかな」
「いいよ。まーそりゃあ、ずっと自分の身体であってそうじゃないもの動かしてるってことだもんな?気持ち的に窮屈か」

今回は変身解除薬が支給されたらしい。
即効性に優れた吸入薬だ。酸素スプレーみたいな容器に入っていて、文字通り吸い込んで作用させるやつ。
スプレーに付属したマスクで口周りを覆い、噴射した薬品を思い切り深呼吸した。

「……よし」
「ほんとに変わんの?」

半信半疑で見ていると本当に変わり始めた。
襟足から首元、肩から背中、肘、指先まで皮膚の色が変わって、
まばたきの間には、皮膚にパチ、と切れ込みが入って、
ふぁさ、と羽が生えたようになって、
次の瞬間には、淡い光の粒と共に、そこには立派な翼があった。
収まりが悪いのかごそごそしてるところを呆然と見ていれば、ふるる、と身を震わせてコテン、と首を傾げる。

「え、めっちゃ変わったじゃん……!」
「速くていいなこの薬。苦味とかもほぼないし」
「反応が普通すぎない?ご自分の本来の身体だろうけどさ、もっと何かない?」
「別に」
「……ダーリン相変わらず冷たいじゃん……?」

首周りは特にふわふわだ。髪の毛も襟足辺りは羽に変わっている。ひよん、と頭に兎の耳みたいな羽が立っていて、風に吹かれて揺れた。

「いやでもマジで超モフ!触っていい?」
「嫌だ。セクハラ」
「語弊〜〜〜!」

少しまぶしいらしく、片目だけ開いたり、パチパチと多めに瞬きをしながら首をすくめた。
無理する必要は無いし、と思って日陰に移動していると、ビイイイイイ!という電子ホイッスルの音が聞こえてきた。
第1ラウンドがスタートしたらしかった。











「すごいな、あのハヤブサの鳥人」
「箒に乗っているより余程速いね」

食堂兼観戦ルーム。
丁度今、第1ラウンドが終わったところだ。
すでにフラッグを持っていたポムフィオーレのハヤブサに、箒に乗っていたサバナクローが引きずり落とされたあたりで1番沸いた。
落ちた生徒は教員が無事に回収しているようだが、奪ったフラッグをオクタヴィネルに譲渡したところで更に沸いた。どうやら取引をしていたらしい。
同時に、こっちでは賭けでもしていたのか、全然関係のない寮やクラスだろう者から落胆の声も聞こえる。

「でも、鳥人だからといってあれほど速いのは、ポムフィオーレの彼くらいだろう?トレイのクラスは誰が代表なんだい?」
「ん?人間だよ。この学年、鳥人は少ないからな。リドルのクラスはどうなんだ?」
「こちらも人間だよ。マジフトの選手には選ばれなかったから是非やりたいと言っていてね」

どうやらそういう生徒はちらほらいるらしく、今始まった第2ラウンドも白熱している。
前哨戦といったところか。

「はいはーい、お待たせ!プチシュークリームとポップコーンのハーフアンドハーフだよ!」
「ありがとう!ケイト」
「悪いな」
「どーいたしまして!で、なになに?何話してたの?」

このカレッジフラッグに便乗して、特別観戦メニューを提供しているカウンターに行っていたケイトが戻ってきた。手には大きなバケットに入ったプチシュークリームとポップコーンの山、飲み物の乗ったトレー。

「見てただろう?あのハヤブサのことだよ」
「あーあ!あれヤバくない?てかエグくない?掴んでから何すんだろと思ったけど、一旦上がってからものすごいスピードで下降したの、けーくんマジびっくり」
「あれは、あのハヤブサの彼自身に攻撃を加えない限り逃れられないだろうね」
「そうだな。ただ、あのスピードで下降……もとい落下したら魔法を使う余裕も無くなりそうだ」
「やばぁ」

プチシュークリームを口に放り込みながら、画面に視線を戻す。
次のラウンドが始まるところだ。

「お、次も鳥ちゃんがいる」
「あ」
「なんだいトレイ」
「あの子だぞリドル、ストリクスがよく唄ってる相手」
「なんだって?!…………確かに、インペリアルトパーズの瞳だね」
「ええ?リドルくん歌詞おぼえてんの?」
「あれだけ壊れたオルゴールのように繰り返し演奏されたら、嫌でも耳に残るだろう!?」

鳴り響くホイッスルに、各々飛び立つ代表者たち。
各々を追うドローンの中で、彼を追う影像だけ動きが少ない。歩いているらしい。
会場をぐるりと回ったあと、ようやく羽根を広げた。ドローンのカメラが距離を取る。

「でっか!」

ケイトのリアクションに心の中で頷いた。
身長の2倍以上はある大きさの翼で、ぶわりと舞い上がる。
しばらく巡航したあと、木と岩の陰に有ったらしいフラッグを見つけて難なく掴み取った。きっと彼のクラスなのだろう、端にいたグループが歓声を上げたのが聞こえる。

「さて、ここからが大変だぞ」












意外と取れるものだな。
フラッグを胸元のベルトに差し込んで固定。
今のところ襲われてもいないし、順調そのものだ。警戒はしてるけど、見つからなくて焦っているやつも見かけないから、このままゴールすればいい。

ま、そんな簡単に行くわけ無いのがこの学校だよな。
右手前方、20mほど下に喧嘩発見。
こちらには気付かないほど怒鳴りあってる。
かわいそうに。正直助けてあげてもメリットは無い。でも、素通りしようとしたのを辞めて降下した。

「は??!う、うわっ?!」

掴みかかっている方の肩に留まる。
俺の重みでバランスを崩して少しぐらついた。

「離せよクソ!!んだよお前も持ってるじゃねえか!?寄越せ!!」
「やだ」
「いッ、?!」

掴んだまま上昇。
獲物の乗っていたホウキは、揺れたあとに力を失って地面へ落ちていく。

「俺のホウキーーー!!!」
「折れないと良いな」
「てめぇ……!!離せよ!」
「いいよ」

お言葉通り、右肩を離した。

「ヒィ………あああああ辞めてくれ!おれっ、まだ、魔法下手でっ!」
「ふうん?」
「……っ」

なんか知らないけど絶句してるな。
左肩に俺の爪が食い込んでるはずだけど、そこまで痛みを感じてないらしい。喋る獲物は愉快だ。
静かになったやつをそのままにして、ゴールに向かって下降する。

「っ!?お、落ち?!」
「鳥人に対して失礼じゃないか?降りてるだけ」
「静かすぎるだろ?!!」
「お前、鳥のこと何も知らないんだ」
「知るかよ!?」
「威勢だけは良いな。弾除けのくせに」
「な、た、……?!」

絡まれてたハーツラビュルに恩を売って、喧嘩売りに来たやつがいたらコレを差し出す。
これが俺の即興の作戦。完璧。
ただ、思っていたより何事もなくゴールに着くから拍子抜けだな。正当防衛を振りかざして自由にしようと思ってたのに。
受け身が取れる程度のところでポイ捨てして、俺はゴールテープのところで着地。
受け身がド下手くそな獲物は放って置く。コレのクラスメイトが回収するだろ。

「ゴールおめでとう、フラッグを預かるよ」
「はい」
「えっ、え?!と、取っていいの!?」

このイベントの管理側に回った生徒に声を掛けられて、少し胸を張って差し出す。
肩から腕=翼の形態をしているから、正直取ってもらえるならありがたい。面倒臭いから。
遠くから「ヤダー!!ダーリンのえっち!!」というバカの声が聞こえているけど無視。何がだよ。

「うわ?!」

ぶつかった感触。
生徒が何故か震える手で俺の胸元から取ろうとしているところ、無理矢理横から乱暴に奪われてしまった。振り向けばオクタヴィネルの生徒が必死に逃げていく。

「あ、もうゴールしてるから無効にはならないよ。大丈夫」
「ふうん?」

2〜3歩助走を付ける。
5mほど上昇してから獲物に真っ直ぐに下降。
捕らえた背中に乗って地面へ引き倒す。
潰れたカエルみたいな音がした。

「返せよ、獲物の横取りは許さないからな」
「ぁ、が、」
「どんな種類か知らないけど、人魚だろお前。フィールドの有利不利くらい判別できる頭は有るんじゃないのか?」

羽根をしまい直してゴール地点へ戻る。
周りが俺を避けるので便利だ。さっき見かけたハヤブサや肉食の奴等だけが「当たり前だろ」の顔をしてる。やっぱり猛禽仲間は思考が似るのか?

「ダーリン!」
「うるさ」
「だって!!」
「だってじゃないだろ……勝ったんだから褒めてくれても良いんじゃない」

不服を態度に出したら、キョトンとしたあとにブルブル震え出した。
なんだ?

「ダーリンずっとその姿でいて欲しい!ウサ耳かわいすぎ!俺の癖がぶっ壊される!」
「ウサ耳じゃない羽角!!なんだそれ気持ち悪い!」

語弊がありすぎる叫びにゾワゾワして羽根が震える。
風切羽の先で突っぱねたら、それも何故か喜んでいる。ヤバい人間だったかコイツ。

「あの、ちょっといい?」
「なに?」
「さっきはサンキューな。オレが落ちるとこだったからさ」
「ああ、アレが掴みかかってた」

明るい茶髪の人間。
無事にゴールエリアまで戻れたらしかった。

「一応あの人上級生なのに、アレとかウケる。な、今度ハーツのお茶会来ないか?お礼ってことで」
「お茶会……」
「ルールはあるけど別に堅苦しくねーし。あ、甘いもんとか苦手?だったらブレッドアンドバターとかもあるから、」
「行っていいのか!」
「っえ、あ、ああ。何?甘いもん好き?」
「好き!」

クラスメイトと眼の前の人間から息を飲む音が聞こえたが、そんなの気にしていられるか!
ハーツラビュルに恩を売る作戦大正解!
お菓子!楽しみだ!







continue.