鳥はかわいい



三日月の夜。
ここでは珍しく、しっとりと細かい霧が立ち込めている。あちらこちらに見える明かりはぼんやりと霞んで、あまり明るいとは言い難かった。

そんな静かな夜にルームメイトとちょっとした歓談中だ。
ミスターのところで買って持ち込んだ布張りデッキチェアと、小さなテーブル、小型の鉄製ランプ、ローズマリーが香るジンジャーエール、ポテトチップス・オニオンサワークリーム付き。
ようやく色々な事に慣れてきて、最近は比較的ゆっくりと、自分のペースを掴めて過ごせてると思う。
自室のベランダに出れば、シャワー後の熱い身体がひんやりした空気で冷やされて心地がいい。

「はあ……、ここホントにディアソムニアかよ。この脂っぽい感じたまらん」
「別に、普通に食べれば良いだろ。制限されてるわけでもないんだから」
「いやあ、あんなさあ、なんつーの、キラキラした妖精族が代表の寮に所属しといて、夜中にポテチ貪ってますってちょっと違わねえ?」
「別に……?」

彼曰く、夜中にミネラルウォーターと果物ならいいらしい。
意味が分からない。
ポムフィオーレだとか、たまにいるダイエッターは解る。それが彼らの信念と努力なんだろうし。
だが、こちとら食欲旺盛な男子学生。好きなもの、たくさん食べたいだろ。
課題を終えた後、やたらと空腹を訴える腹の音に耐えかねて、先ほどキッチンで大量に揚げてきた芋は俺の技量の無さによって時折異様に分厚くなっている。
スライサーどこにあるか分からなかったし、そういうことができそうな魔法もまだ知らない。

「お、当たり!」

嬉しそうな声に顔を向ければ、友人は片側だけ分厚くなった芋を引き当てたようだった。
俺的にはハズレなのだが、彼としては当たりらしい。
たまに、よく分からない感性をしているなあと思うのだが、まあ、彼とは種族が違うのだし、そう言うものなんだろうと思う。個人の好みもそれぞれだ。

「食べ終わったら寝るぞ」
「ああ〜ん、この食っちゃ寝感最高!」
「歯磨きはしろよ」
「もちろんだわダーリン……!」
「きもちわる」







さて、自己紹介ならぬ、他己紹介をしようかな。
今回紹介するのは俺のルームメイト!兼クラスメイト!
昨日、夜中に態々ポテトをチップスにした男だ。
食に対する信念がすごくない?

本日の授業終了後、移動用のカバンに道具を詰め込む目の前のそいつは、勉強それなり、運動は比較的良い方、よって成績は中の上。たまにテストの山をアテんのか、上の下くらいにはなったりしてる。
特徴と言えば、大きめで丸っこい、アーモンドアイかな。強く輝くようなオレンジ色だ。
今はその眼を半分閉じたり開いたり、しぱしぱ、長い睫を揺らしていた。
おねむでちゅかね〜?

「おい、ダーリン」
「……返事したくない」

薔薇の王国の北側、満月の森林というところの出身らしい。ディアソムニアに寮分けされてる。
身長はハニー(自称)の俺とそんなに変わらない。恐らく173cmとかそんな位だ。

「なんなんだよお前は、その呼び名にハマるな……」

片眼だけ閉じて、くるんとこちらを向く。そしてため息と共にコテン、と首を傾げた。
そうそう、その仕草が好きなんだ。
いや「きもちわるい」って言われるから、言わねえけど。

「お呼びだぞ。ほら、ドアんとこ」

本来の用事を言って振り向けば、壁に寄りかかる緑髪の男。ハーツラビュルのトレイ・クローバー。

「誰?」
「は?お前知らないの?知らないのに呼ばれてんの?なんで?何かやらかしたか?」
「何も。人違いか?」
「いやでも目ェ合ったっしょ、今。軽く手を上げて合図まで貰ったじゃん?」

なんとなく見たことある気はするが、よくわかんね。
そんなことを宣っている。
一癖二癖三癖くらいある個性派が個性派を殴りにかかっていくような人材が湯水のように湧く、このナイトレイブンガレッジだって、お互い知らない人間なんて五万といる。
いや五万は言い過ぎだけど、すげえいる。
部活が一緒じゃない限りは、他寮の先輩なんてほとんど関わることが無い生き物だ。
通学制の男女共学校だって、そんなもんだろう?
だけど正直、こいつは興味が無さすぎる。
寮長・副寮長くらいは覚えとけよ。

「まあ、行ってくる。じゃあな」
「おー」

なんだろうな。何もないといいけど。
何か起こるかも知れない、と思っちゃうのは学舎としてどーなんだよ?と思わないでもないが。
あいつには普通に卒業して欲しいと思ってる。
俺がここに入学して、ディアソムニアに分けられたときはマジで信じられなかったし、転寮しようかとも思った。手続きクソ面倒だからやらねえけど。
ただルームメイトがあいつだったから、まあ有りかなと考え直した。
凪いだような落ち着いた気配で、コテン、コトン、と首を傾げるあいつ。
先輩と並んで教室から出ていくところを見ると、その細身が目立つ。
ほーら、言っただろ、昼飯抜くから育たねえんだぞ。
今度食べなかったらハニーは許しませんからね。








「あの、ですか?」
「そう、あの」
「あの浮かれアコーディオン野郎が」
「っふは、はは、そんな風に呼んでるのか?」

先輩はハーツラビュルの副寮長らしい。
副寮長を知らないのかと思われそうだが、いかんせん分からない。
素直に「誰ですか」とリアクションしてしまったのを、本人は軽く流してくれた。
優しい人だ。ありがたい。
そんなド初対面であるはずの俺を呼んだ理由は、自寮の困った野郎を注意してくれないかということだった。
その困った野郎、困ったことに俺の昔からの腐れ縁というか友人……だ。あまり友人とは呼びたくないのだが、血の繋がりがあると言うには遠すぎる。名前を付けるとすれば友人だ。多分。

あいつ、トッカ・ストリクスは、四六時中小さなアコーディオンを抱えている。
アコーディオンのことはよく知らないが、子供の玩具のような小さいサイズのものを、食事中は膝の上に、寝る時は枕元に、必ず1日中手の届くところに置いている。そしてテンションが上がったりすると弾き始める。
それなりに上手いのでクレームは少ないのだが、厄介なことに夜もそこそこ弾く。

想像して欲しい。
安眠導入BGMでもなく、自分の好きな音楽でもない曲や音の羅列が、ずっと聞こえてくるのを。
気に入った曲は何回も何回も繰り返すので質が悪い。
子供のころなどはレパートリーも少ないから最悪2時間同じ曲だった時もある。ノイローゼになるだろ、試験前とか特に。
今までどうしていたのか、どうして今のタイミングなのか聞くと、最近寮長が変わったらしい。それで、明るく楽しい事好きなヤツが多いハーツラビュルでもとうとう問題になったと。

「いや、彼が夜行性なのは理解してるんだが」
「気を使わないでください。サバナクロー内はともかく、カレッジでは夜行性のやつなんて少ないですから。夜は控えろと言っておいたのに……」

苦笑いでこちらを見下ろす先輩を見上げながら、どうしたものかと考える。
クローバー副寮長が言う通り、奴は夜行性だ。
フクロウの鳥人の血を引いているトッカ──ストリクス家は、外見はほとんど人間だが、身体能力や生態の一部がフクロウの鳥人に寄っている。
もともと完全な夜行性ではないし、魔法薬を飲んで夜に眠るように調整しているが、日が落ちてから朝方の方が元気なのは変わらない。
意思では変えられない、そういう身体だ。
それに、トッカの家は音楽一家。一族のほとんどは音楽学校へ進学して、そのまま演奏家や作曲家として活躍しているような家系。
トッカがアコーディオンを手放さないのを咎めなかったのは、奴の家族がそもそも注意したりしていなかったから。
そんな男を俺が説得できるだろうか。

「庭園に待たせてるから、そっちに案内するよ」
「はい」

噂に聞く、ハーツラビュルの庭園。
迷路のように入り組んだ木々の間を、クローバー副寮長は迷い無く歩いていく。意味が分からん。絶対迷うだろこんなの。
上を飛ぶか、木を突き抜けるか、したい。

「そうでも無いんだけどな」
「……顔に出てましたか?」
「はは、ばっちりな。大丈夫、置いて行ったりはしないからな」

笑ってそう言うと、またサクサクと芝生を鳴らしながら進んでいくので、俺は付いていくので精一杯。
ある程度進んだところで──もう俺はどうやって戻ればいいか分からないが──開けたところに出た。
白いテーブルとイスがぽつぽつと置いてある。なんでもない日とかいう日用のやつか?(違うらしい。パーティーは別のところに会場があるんだと。)
その1つに、普段より大きな演奏会用のアコーディオンを抱え、件の奴が単調な音を小さく弾きながら座っている。

ふぃ、ふあーーーん。
ふすーー、ふぃあーーー。

…………うわ、……間抜けな音だ。
どうした?本当に音楽一家か?
驚いて止まっていると、こちらに少し身を寄せて、クローバー副寮長がひそひそ囁いてきた。

「それが、リド……うちの新しい寮長がお前を呼ぶから、って言った途端にああなんだ」
「まあ、その、理由はおおよそ分かるんですが、そっちの寮長はよく俺を知ってましたね?」
「ストリクスがよく話してる、というか歌ってるからな、お前の事」
「うわ。何て歌ってますかソレ」
「うわ、って。瞳が綺麗だ、とかかな。最初は恋人でも居るんだろうかって話してたんだが、違ったみたいだ」
「なんて迷惑な歌を……」

クラスにいるハーツラビュルの奴によく見られてるのはそういうことか。

「まあ、お手柔らかにしてやってくれ。確かに困ってるが、あれ以上落ち込まれてもな」

とん、と肩甲骨あたりを叩かれる。
ぞ!っと寒気が走ったのを誤魔化して、奴の方に近付いた。クローバー副寮長はお茶を淹れに行くらしい。
近付くにつれ、向こうもこちらに気付いて音を止めた。大体は俺が近付くとテンション上がって弾きまくるのに、これは少々堪えているみたいだ。
逆に俺は、思っていたより楽に事が進みそうで安心する。

ず、とイスを引きずり腰かけると、か細い声がこちらに飛んで来た。

「申し訳ない」

俺より身長の大きな男だ。
顔が良いから、将来安泰、アコーディオン奏者としては大々的に売れるだろうと言われている。
演奏家なのに顔も売るのかと驚いたものだが、商業ってそういうことなんだろう。よく知らないが。
それがまるで子供のように縮こまっている。

「何に」
「その、呼び出すことになってしまったことに……。言い訳はしない。自制が出来なかったのは、トッカのいけないところだろう」
「分かってるんだったら、別に、俺に謝ることなんて無い。だけど、寮長と言い合うなんて相当だろ。何でだ?」

1年生の身で、寮長と言い合いになって、それで怒った寮長が俺を呼び出したのだ。
『歌に唄うほど気に入っている相手』なら注意も堪えるだろうと判断して。
トッカはアコーディオンを年中抱えている以外は、比較的普通……いや、普通ってなんだ?普通の基準が分からないから、そうだな、……NRCでは大人しい部類のやつだ。
俺とも喧嘩はしないし。
それが寮長となんて。

「彼は、ああ、賢く気高い人だ。とても。トッカ達と同じ1年で寮長に就任する実力。寮長としても、相応しいだろう、トッカが悪いんだ、でも、どうしても、ああ!!」

ファーーーーン、!!!

アコーディオンが鳴り響く。
煩い。背凭れに体重をかけて仰け反った。
トッカの方をちらりと見ると、一度弾いた後はテーブルに伏してしまっている。
……まあ、これは、あれだ。
トッカの中では一応全部理解はできていて、原因が自分なのも脳では申し訳ないと思っているやつだ。でも、心は整理が付いてない。
そんな精神状態のまま寮長と話して、売り言葉に買い言葉で言い合いになったのだろう。
相手も1年らしいし……いや、1年で寮長てすごい。なんだそれ。じゃあクローバー副寮長て何学年なんだ?メンタル強者だな。

「……すごい音だったが、大丈夫か?」
「ああ、クローバー先輩。すみません、煩かったでしょうか」
「いや、こっちは平気だが、また喧嘩にでもなったかと」

カチャ、と目の前に紅茶が差し出される。
クッキーも出てきた。
これはうれしい!おやつだ!
礼を言いながら見れば、先輩は隣のテーブルから1脚イスを持ってきて座るところだった。圧し殺したため息が聞こえる。
この状況・段階で寮長を出す訳にもいかない事を思うと、副寮長が間を取り持つしか無いんだろうが、クローバー副寮長の顔、苦笑いの顔しかまともに見ていない気がする。
いや、大変だな、副寮長って。

「そんな!トッカが彼と喧嘩など!」
「はいはい、落ち着け。反省はしてるんだろ」
「もちろん!でも、う、あ、ああー!」

フぇーーーー、!!!

「……これは……反省、してるのか?」
「してますよ、一応。先輩はありませんか?頭では分かってても、心が追い付かないなあってこと」
「ま、あるな」
「そういうことです」

腕組みしながら座る先輩と、再び突っ伏す友人(仮)を見比べながら言葉を発する。

「そうか。な、ストリクス、女王の法律に違反している訳じゃないから、なんとかリドルのユニーク魔法を掛けられずに済んだんだ。今後は気を付けなきゃいけないぞ」
「はい、すみません、副寮長……」

ぐずぐずと泣き出している。
ほんとに一応反省はしているのだ。癖が強いだけで悪いやつではないと思う。多分。おそらく。

「トッカ、」
「うん」
「迷惑になるから夜は控えろと言っただろ。例えば、夕食後は1時間だけにする、とか、時間を決めろ。あとは、談話室でだけにするとか。じゃないと、また寮長と言い合いになって、どんなものかは知らないが、今度こそユニーク魔法を掛けられることになるぞ。いいのか?」
「それは、困る」

ハーツラビュルの寮長のユニーク魔法は困るものなのか……。困らなきゃ、『罰を与えられる』ようなニュアンスで言わないだろうが。
1年でそれか?純粋に怖い。ハーツラビュル、近寄らないに越したことは無いな。
泣き止め、という意図で、トッカの頭を雑に撫でると、また突っ伏した。いや、なんでだ。頭撫でられるの嫌なのか。

「クローバー先輩は、」
「ん?」
「どう思いますか。俺、結局は他寮だし、ここの空気感とか、わかりませんから」
「ああ、そうだな……」

ふむ、と考える仕草の彼が淹れた紅茶を一口。せっかくなのでクッキーもいただく。
美味い。
定番中の定番の、ココアとバニラの四角いチェス盤柄のやつなんだが、美味い。どこの店のクッキーだろうか。ミスターのところで買えるのか?
うーん、手が止まらない。

「……クッキー、気に入ったのか?」
「!えうっ、あ、あの、すみません、話し合い中にバクバク食べて、その、美味しくて……」
「いや、いいよ。たくさん食べてくれ。俺が作ったやつだから、気に入ったのなら良かった」
「そうなんですか?あの、すごい……美味しいです、すごい……」

不躾に食べてしまって顔が赤くなるのが自覚できたが、予想外にクローバー副寮長の手作りだという。
思わず端的な感想しか出てこなくなってしまった。
本当に美味しい。

「はは、ありがとう」
「君は子供のころから、クッキーとか焼き菓子が好きだと言っていたよね!」
「ああ」

じめじめめそめそしていたトッカが復活し始めている。
もう1つ、今度は渦巻き柄のを貰って咀嚼していると、幾分雰囲気が穏やかになったクローバー副寮長が口を開いた。

「じゃあ、一先ず、彼が言う通りに夕飯後1時間までってことで妥協点にしよう。ストリクスはもう少し休んだ後、リドルに話に行くぞ」
「はい。すみません、お願いします」

本当にさっくり終わったな。良かった。
昔のトッカはもっと意固地だったんだが、これも成長ってやつだろうか?
入学してから寮もクラスも違うし、もともと住んでたところもそれなりに離れていたから、久しぶりに会ってこういった変化を感じるとなかなかに面白い。

そろそろお開きだろうし、今のうちにクッキーを味わおうと、更にもう1つ手に取る。ナッツ入りのバニラ。

「食べたいのなら遠慮しなくていいんだぞ。ほら、」

白いレースのような浮き彫りが入った菓子皿が、そのまま俺の方に寄せられる。
1人で食べる訳でも無いし悪い、と押し返そうとしたが、クローバー副寮長は味見で食べててもう十分、トッカはもともとクッキーなどの焼き菓子はそんなに好んでいないという状況だった。
おお、これはありがたい、全部食べます。

「お前達は、結局どういう関係なんだ?」
「……一番近いのは友人、ですかね」
「でも、始めは家の繋がりです。それで、トッカは彼に出会いました!彼は今はヒトですが、美しい褐色の羽根を持っていて、そう、大きく美しい!夕暮れの太陽の瞳が月夜に浮かぶのも、昼と夜を混ぜたようで、王に愛されたトパーズのようで、トッカは旋律を紡がずに居られないのです!」

いや、変わってないな、こういうところは何も成長してない。
改めて思うがなんでこいつポムフィオーレじゃないんだ?アーティスト気質の奴はポムフィオーレに結構居るって噂なんだが?

「相変わらずきもちわるいな。先輩、聞き苦しくてすみません」
「いや、問題無いよ。それにしても熱烈だな。聞く限り翼とかは比喩かと思ってたんだが、君は……?」
「比喩じゃないですよ。先輩の学年にも2〜3人くらいは居ると思いますが、俺は鳥人です」

ファーン!!!

「うわ、うるさ。なんだよ、鳴らすならちゃんと弾け」
「自分の事をあまり大枠でくくるのではないよ!ならば請け負おう!」

途端に始まる明るく軽やかな旋律。
なんだなんだ、いきなり元気出たなこいつ。

「彼の翼を一目見よ……」
「は、何?吟えとは言ってないんだが」
「なんだ?新曲か?」
「いや先輩、新曲か、って」

完全にイスから立ち上がって弾き始めている。
俺の向かいに立ったトッカに向かうように、クローバー副寮長はイスをずらして俺の隣に座り直した。テーブルを挟んで演奏家と観客のポジション。
とん、と軽く脚を組む姿を見ていると、普通に座っていては脚を組むのにテーブルが邪魔だったんだなと思う。

「言っただろ?よく歌ってるって」
「言ってましたけど、俺をテーマに新曲作られても……。あの、このクッキーって貰って帰っても大丈夫ですか?」
「いいぞ。もう少しあるから、それも一緒に持って帰れるように包もうか」
「ありがとうございます!」

弾いてる側で話し始めるのは全然観客じゃないが。
だが分かる。トッカは本当にどこでもいつでも無限リサイタルだから、ちゃんとした会場以外での演奏は適度に聞き流さなきゃやってられない。
先輩も慣れたんだな。

「ワシミミズク、夜を司る猛禽の王者!」

「ワシミミズク?」
「ザックリ言うとちょっと大きめのフクロウですよ」
「なるほど」

ちょっと大きめと言ったがフクロウ目の中では最大級クラスだ。でも王者でもないと思う。
まあ、自分のこと説明するのは気恥ずかしいし、クローバー副寮長的にはフクロウの大きさとか、特に何も影響無いから訂正しなくても問題無いだろう。
獣人もそうだが、小さな種と大きな種との差は、大きくても40cmくらいだし。人間と変わらない。

緩やかにアコーディオンの音が小さくなって、トッカがこちらに一礼する。完全に惰性で拍手。
いや、なんでこんな曲歌ったんだお前は。恨みがましく睨めば、顔を上げてキリッと引き締まった表情でこちらを見詰めてくる。

「ちょっと大きめ、ではないのです。すごく大きい、です!」

うわ、バラしたな、こいつ。
クローバー副寮長がこちらを見てくる。満足気なトッカと見比べて首を傾げた。
勘弁して欲しい。「やだ〜!フクロウって怖い」って言われることもあるんだからな。

「……そんなに、体格が良い訳ではなくないか?」
「……トッカはほぼヒトですから見比べないでください」

俺は平均だし、これから育つんですよ。





continue.