竜と鶴とじゃ目出度えや

【諸注意】
刀剣シリーズの男主、竜田生駒と姫鶴一文字です。
連載の本丸の延長にするのは難しかったので、どこかの本丸の、どこかの姫鶴と竜田生駒です。
竜田生駒の設定自体は同じです。
よろしくお願いいたします。
※自分の本丸が大好きな女性の審神者が出てきます。










「ねえ!歌仙ちゃんいますか!」

あるじさまにしては珍しく、朝食後朝一番に僕たちのところに駆け込んで来ました。
足音が聞こえてきて、広間の障子戸が開かれたところに目を輝かせて立っていて。

「ここだよ。全く、廊下は走らないようにと言わなかったかい?」
「大変申し訳無い!でも、あの、ちょっと、相談があって」

歌仙さんと松井さんがお茶を飲んでいたテーブルに加わったあるじさまは、堰を切ったように話し出しました。
普段から元気な方です。
でも、こうやって朝からいらっしゃるのは、ちょっと珍しいと思いました。

「お目出度いことに!再来週から鍛刀キャンペーンがあるんだけど、今回頑張りたくて、資材の運用と調達の相談がしたいの!ほんとにマジで資材を枯らすことはしたくないから、相当数残数確保しながら鍛刀したい。わがまま言ってるのは分かってて、」
「主、少し落ち着くんだ」
「あ」
「一からゆっくり話そう。期間は少し先だろう?そうやって急ぎすぎると、事を仕損じるよ」
「う、うん!ありがと」

落ち着いたあるじさま。よかった……。
隣にいた堀川さんを見たら、にっこり微笑んで、「主の鍛刀ブン回し希望は久しぶりだね。頑張ろう!」と言ってくれました。
僕はこの本丸では5番目に来た刀です。
その時から数えても、少し無茶をする鍛刀をしたのは数回。片手に収まるくらいでしょうか。

「それで、今度は国宝でも来るのかい?」
「ううん、お寺の所蔵でそういう指定はされてなかったはず……ごめん、めちゃくちゃ急いで来たんだよね。ちゃんと調べたこと思い出せてなくて」
「おや、だからこの時間に来たんだね」
「もしかして人形(ひとがた)の見た目が好みだった?」

優しく楽しそうに聞く松井さん。
ちょっとだけ、そわそわします。

「そうじゃないよ!いや!めちゃ綺麗だとは思ってるけどそれは皆のこともそう思ってるし……。じゃなくて!ねえ、竜田生駒のこと覚えてる?伽羅ちゃんと火車くんの同派の!」
「な、まさか」
「川跨いで山と町中行ったり来たりした短期マップ!土地の高低差と入り組んだ街並みのせいで本当に上手くいかなくて大変だったし、結局ドロップ出来なかった。今度は鍛刀だから、今度こそって思ってるの!」

大倶利伽羅さんとかちゃくんの……。
ぼくは、松永家にいた頃の竜田生駒さんを、ほんのちょっとだけ知っています。
見えたのは、ほんの一瞬でした。
あの一瞬がとても気になって、姫鶴さんに話したこともあります。
だって、主君に伴って出陣しているのは、ほんとは僕たちにとって、名誉なはずで……。

「では、博多や三日月とも話して決めよう。山の紅葉の美しさに目を瞠るものがあったけれど、あの往復登山には苦しめられたからね。面目躍如と言うところか」
「ありがとう!!頑張ろう、絶対、うちの刀剣になってもらうんだから!」

1時間後に執務室集合!と言い残したあるじさまを見送って、僕は、不安な気持ちになってしまいました。
でも、大倶利伽羅さんとかちゃくんと同派の刀……。きっと、あんな悲しそうな顔をしていたのは理由がありますよね……!

「あれ?1時間後って演練とか当番始めちゃうけど、そのままの編成でいいのかな?出陣先とかもそのまま?」
「あっ!そうですよね?良いんでしょうか?」
「ちょっと歌仙さんと話してくるよ!」
「ぼ、ぼくも行きます……!」

歌仙さんと、それからあるじさまにもお話したら、やっぱり一旦取り止めになりました。
早速色々編成を考えるそうです。










「姫鶴、南泉」
「ん?どしたの」

縁側で日向ぼっこしてる南くんとごろごろしてたら、キラキラした顔のかちゃ。
なん、かあいい顔して。

「紹介しに来た。新しい刀」
「え、」
「鍛刀成功したのかよ!にゃ!」
「ん……!」

かちゃの後ろにいるっぽい刀を見るために立ち上がる。結局、おれと南くんは資源回収と通常任務で周ってたし、あんま詳細知らねーんだよな。
影は南くんとおんなじくらい、そういえば打刀だって言ってたっけ。

「……、」
「初めまして、だと思うんだが……。竜田生駒と名付けられた物だ。よろしく頼みます」
「おー、オレは南泉一文字。よろしくな!にゃ」

南くんの元気な挨拶を聞きながら、記憶の引き出しを片っ端からひっくり返す。全部行くととんでもねえから、だいたい天正……安土桃山あたり。

「姫鶴?」
「ん……んん〜。ま、いっか。おれは姫鶴一文字。よろしく、かちゃのおにーさん」
「ああ、福岡一文字の刀と共に戦えて嬉しく思う。よろしく」

自然に浮かべられた笑顔に面食らった。
風貌や雰囲気は確かにかちゃ達に似てるけど、なんてゆーかさ。

「山鳥毛達はどこか知らない?」
「えー?談話室じゃね?」
「朝話した時はスクリーン使って映画見るって言ってたぜ。待機組が何振か集まってるはず、にゃ」
「分かった。行ってみる」

軽い礼を残して去っていく。
後ろ姿を見送りながら座りなおしたら、おれと同じ気持ちだったぽい南くんが震えてる。

「広光派ってあんな、真正面から笑顔で世辞みたいな事言う奴いるのかよ……」
「ウケる。そんな南くんに、最近の鍛刀補佐の鍛刀期間名言を教えてやろー」
「何……にゃ?」
「『火車切がポケモンだったとしたならば、経験値進化したら大倶利伽羅で、なつき進化なら竜田生駒でしょうね』ってよ」
「……宗三までポケモンはまってんのかよ!いやでも分かる気がして嫌だ、にゃー!」

主がポケモン大好きなのが原因で、刀剣には必ずちっこいぬいぐるみが渡されてる本丸だからさあ。諦めるしかねーよ。

「つか、さっきの『まいっか』は何だったんだ?にゃ?」
「なんか記憶が引っかかってんの。何かは分かんねーけど」
「ふーん?」
「上杉の子達にちょっと聞いてくるかあ。あつきがワッフル焼くっつってたし厨かな」
「ワッフル……」
「バニラアイスつき」
「……オレも行く」

バニラアイスで一本釣りされた南くんと厨に行けば、案の定ごっちんとごことけんけんがあつきの手伝いしてる。

「あれっ?おつうと南泉もおやつ?」
「ようやくきたね」
「姫鶴!南泉もわっふるたべよう!ちょうどできあがるぞ!」
「ちょこ味も作ったんです。南泉さんはどちらが好きですか?」

ニッコニコで駆け寄ってくるごことけんけん。かあいくて花丸。

「オレはこっちのザラメ付いてるやつ。でもこれ配んなくて良いのか?にゃ」
「このわっふるはしさくひんだからね、はやいものがちだよ」
「お、ラッキー!」
「あつきー、おれはチョコとプレーンよろ」
「はいぜんはじぶんでしなさい」
「おつうの取り皿こっちー!」

ちぇ。
ごっちんから紋の入った皿を貰って、並んだワッフルから2つ引き抜く。
マグカップには保温ポットからカフェオレ。
6振でテーブル囲んで座って、いただきますして一口放り込んだら、温けえふわふわサクサクが口の中をバターの匂いで満たした。
うま。マジで最高。

「うわ〜!美味しすぎない……?!もうバニラアイスのっけようか?ボク、ディッシャーっていうの使ってみたかったんだよね」
「2個乗っけてくれ!にゃ!」
「まちなさい、まずはひとつにしたほうがいいとおもう」
「南くん腹冷やすよ」
「ぇ゙」

チャカチャカと銀色の道具を鳴らしながら、ごっちんがデカい容器からアイスを配る。
ディッシャーは力が必要だから後家には適役だ、とあつきが言った通り、後半は作業に慣れたっぽくて、きれーに真ん丸になってた。

「わっふるやくぞ、っていったとき、あまりのりきじゃなかったのにおなかがへったのか?」
「それもあんだけど、聞きたい事があって来たら出来立てでナイスタイミングってやつ?」
「聞きたい事、ですか?」
「ん。あのさ、おれ、誰かからあの竜田生駒のこと、聞いた気がすんだよね。確実、直では話してねーけど、なんか引っかかってんの」
「……あ、」

大当たりだったぽい。
おろおろし始めたごこの顔を、隣から覗き込むと話し始めてくれた。

「い、一度だけ、竜田生駒さんを見かけたことがあったんです。その時、あの、……」
「ん、ゆっくりでいーよ」
「は、はい……。主君と一緒に出陣できるのは、誉れだと思うんです。でも、あの時の竜田生駒さんは、…………泣き疲れて、戸惑って、どこか虚ろなお顔をしてました。勘違いじゃ、なかったと思います」
「珍しいね。あの刀って打刀の登録みたいだけど、当時なら太刀だろう?もしかして戦、嫌なのかな?」
「さっき、『一文字と一緒に戦えて嬉しい』つってた」
「矛盾してんにゃあ」
「僕、心配で、姫鶴さんにちょっとだけ聞いたんです。戦場に行くのが嫌な太刀っていますか?って……」
「あー、それで引っかかってんのかあ」

アイスを頬張って考えていたけんけんが手を上げた。
口の中が無くなるまで待ってるの、えらいね。

「竜田生駒は、松永久秀のしょゆうだったときいたぞ。あのころ、松永はいろいろ《さく》をこうじていたときいている。すごく、はらんばんじょうだったとおもう」
「ボクたちも個々に波瀾万丈ではあるけど、忠義を重んじる時代にしては、不義理で自由な数奇者だった印象だよね。松永弾正って」
「松永弾正なー……。大倶利伽羅も火車切もそうだけどよ、広光派って根が一本気で真面目だろ。そういう主を持つと多少は戸惑うんじゃねえか?にゃ」

確かに?
かちゃはおれとごっちんがちょっとした悪戯を思いついた時とか、「だめだって……!」って上着引っ張るし。

「でも、姫鶴と南泉に『うれしい』といったのなら、しんぱいはなさそうだね」
「多分な。世辞で言ったわけじゃなさそうだったぜ?」
「じゃあ、練度差的に同じ部隊で周んのも先だろーし、一件落着ってことで」
「うん、いっしょににんむができるのが、まちどおしいな!」
「そーね」

雑談しながら2つ目のワッフルを食べ終わるころ、主の足音と話声が聞こえてきた。
とりあえず変わらずに色々話してたら、やっぱ主が広光派を引き連れて来てて苦笑いしてんの。

「あ、皆おやつ?良いなあ、ワッフルだ!」
「しさくひんだから、あじのほしょうはしないよ。それでもよければめしあがれ」
「やった!!嬉しい、ありがとう!」
「仕事部屋に持ってくよ。それで、後ろの3振はどしたの?竜田生駒はさっき火車切が案内してなかった?」
「そうそう、冷却シート取りに来たんだ。駒ちゃんが伽羅ちゃんにハイパー激強でこピンしたんだよね」
「は?」
「えっ?!」

でこピン?
大倶利伽羅がでこ抑えてて、かちゃが動揺した顔してんのはそういうこと?
デコピンの理由を聞けば、ちっせえ報復を果たしたらしい。

「九十九(つくも)成りたてだったんなら、もうちょい派手にいっても良かったんじゃね?」
「おい」
「やめてよ姫鶴、ほんとに驚いたんだから……」
「申し訳無い、火車切。でも全力でしたから、これで精算だ」

かちゃに寄りかかられながら、冷却シートを貼られた大倶利伽羅を軽く撫でてくすくす笑ってんの。
なんか調子狂うっていうか。
うちと違って、また独特。











「案外早(は)えーね」
「なんだ?」
「練度上げ?」
「……ああ、主殿に頼んだんだ。そうしたらコンペイトウとか、色々とご配慮頂いた」
「あー、それね」

織田家に縁がある刀達に囲まれたからか、いつの間にやら本丸に溶け込んだ新刃は、連携確認を兼ねて第4部隊に臨時で組み込まれることになった。
年若い審神者が取り仕切るこの本丸では、こうやって一通りの刀剣と連携確認の時間を取るらしい。
頭打ちの刀剣とも、練度が近い刀剣とも同じ部隊を経験させる方針。
戦であるのにのんびりしているな、と言ったのは政府の誰だったか。

「刀装は?」
「盾兵」
「ん」

不意に、2振の前を行くにっかり青江の左手が上がる。
会敵の合図だ。
あと十数m先は開(ひら)けているようだが、それまで木々で見通しが悪い。索敵次第で不利になる。
福島からの指示は逆行陣。
木々が途切れる手前まで慎重に移動すれば、ようやっとしっかり敵が確認出来た。竜田生駒が後ろを振り返った先で、堀川が口元だけで笑ったことで、索敵が成功していることを知った。

「いくぜえ!いくさで暴れてこそ武器の華だ!」
「検非違使もいますね!竜田さん、お気をつけて!」
「ああ、これでも実践刀だ。主殿を飾り立てるだけが能じゃない」

半ば混戦の中へ切り込んで行く。
刀装を展開しながら遡行軍の初撃を受け流して一閃。
踏み込んで対峙した検非違使に相対して気付いた。

「どうやらお前達が殆ど片付けたらしいな……!」
「なら、もうちょっと待った方が作戦的には良かったかな、っ!」
「福島!」

視界の端で赤が見えたが軽傷らしい。
福島が返した一撃で敵が崩れ去るのを横目に、飛んできた短刀を鞘で砕くと、少し驚いた顔の姫鶴が見えた。
目の前の検非違使に連撃を打ち込んで戦線を上げていく。しばらくして前方から声が飛んできた。

「皆伏せて!!」
「っ?!」

爆音と地響き。
相当量の爆薬を使ったのか、辺りに硝煙と砂埃が舞って視界が悪化する。
先ほどの警告は堀川からだった。
無事かどうかが気になるが、一先ず投石と銃の音と仲間の声を頼りに着実に仕留めていくしかない。
同時に、部隊が合流したほうが安全策だ。これだけ濃くて晴れない煙幕は相手の利になってしまう。
脇差2振がどこにいるのか掴めない代わりに同田貫の場所が分かりやすいのがありがたく、陣形と照らして左に移動した。

「姫鶴」
「こまちゃん。他は?」
「煙幕で見つけられていない」
「まじーね。とりま福ちゃんも視界終わってるだろーから探そ、ッ!」
「ぐっ、!」

煙幕に乗じた右前方からの攻撃を受け止めた竜田生駒は、膂力差でジリジリと後退。姫鶴も軽傷が響くのか押されている。

「そこだよね」
「青江!」

乱入を受けて鍔迫り合いを解く。
すかさず追撃を仕掛ければ、青江の陽動で隙が生まれたのか姫鶴も検非違使を撃破した。
なかなか晴れない煙幕に違和感が拭えないが、移動することを優先する。

「熱烈に纏わりつくねえ、……硝煙のことだよ」
「やっぱそう?」
「混じり物がありそうだ。吸わない方良い」

ばさ、と青江がマントで払うと、風に逆らうように近付いてくる。普通の煙ではあり得ない様な漂い方をしていた。
視界は悪い。良くて1〜2m。
気配と音でなんとか動いているが、青江が合流してくれなければ移動はもっと難しくなった可能性があった。

「堀川くんは多分大丈夫。だけれどあっちからの合流を待つしかなさそうだね」
「流石に音と気配が無いな」

きっと煙幕に乗じて、上手くやれすぎるくらいやってくれるだろう。
先に隊長の福島が交戦しているであろう方角へ足を向ける。
早足を始めた直後。

「は、?!」
「ひめつ、っ!!」

途切れた岩盤が口を開けて待っていた。足元を取られた姫鶴が崖のようなそこから落ちるところ咄嗟に手を掴む。
元々は太刀だったと言えども竜田生駒に落下を完全に食い止められるほどの力は無く、引き倒されて腕で宙吊りになる程度にするのが精一杯。

「無事かい?!」
「……っぐ、ぅ、」
「こまちゃん、ごめん、ちょっとだけ耐えて」

納刀してほんの小さな足掛かりを探る。
つま先が掛かった瞬間に身体を押し上げ、もう片腕で崖を掴んだ。

「よっ、」
「う、……良かった、驚いた……。青江、警戒ありがとう」
「……、今襲撃されなくて良かったよ」
「ありがと。下まで落ちてたら戦線復帰はムズそう」

目を凝らすと下の方には川が見える。
不自然に抉れた崖を見る限り、元々の崖を爆薬で抉り取った結果だろう。でなければもっと脆くて、姫鶴を支えることも這い上がる事も出来ずに3振全員崖の下だ。

「行こうか、足元にも気をつけて」
「ああ」

爆破の痕跡を避けて進む。
移動の間に大小複数の跡を見つけたが、爆音は1回。恐らく全て同時に爆破させたんだろうということが察せられる。堀川が気付いて近くにいたのが小型爆弾ならいいのだが。

ふと、煙幕の流れが変わる。
竜田生駒が横に凪ぐと、その刃は難なく受け止められた。

「たぬたぬ発見〜」
「おー、お前ら平気だったかよ」
「勿論。君は派手に暴れたね」
「そうか?視界が無い分向こうから来やがる。楽なもんだったぜ」
「向こうは不意打ちを狙った筈だろうが、同田貫には意味を成さなかったか」
「当たり前だろ」

怪我の状態は各自軽傷程度。
同田貫だけ中傷に近いが、本刃がケロリとしているため一先ず福島と堀川との合流を優先した。
早足で駆け出すと、鎧の残骸が煙の隙間に見える。

「討伐済だな」
「この感じ、福島さんならどこかで合流を待つはず……」
「森へ入ろ。太刀としては不利になっけど、相手も同じだし身を隠して待てる」
「そうだな」
「待ってください」
「っ!?」
「堀川てめえ!」

しー、と口元に手を当てた堀川を足先まで見れば、どうやら彼も軽傷程度に留められているらしい。

「合流できて良かった。ここから四時の方角に敵本拠地への隠し通路があるみたいなんです。付近の物見を制圧しましたから、そこに福島さんと控えてました」

一度集まって主さんと軍議と行きましょう!
そう言う堀川に続いて移動する。
速足でしばらく、煙幕が突然晴れた先には木々より少し高い程度の物見櫓があった。急拵えの物見櫓ではないだろう。大きさからしてもそれなりに使われた形跡がある。
柱を複数回叩いてから上がった。

「福島さん、戻りました」
「お帰り。皆、重傷者はいない?早めに合流できて良かったよ」
「福島も。爆破の後見失ってしまったから心配していた」

遡行軍が使っていたのだろう櫓の上は、狭いがなんとか集まれる程度の広さがある。

「そういやよ、あの変な煙幕、爆薬に何かしら混ぜモンがしてあったんじゃねえのか。効果が長過ぎんだろ」
「やはりそう思うか」
「きな臭いですよね。どうします?」
「主と相談の上、かな。進軍しても問題は無いけど、不確定要素があるのは頂けない」

端末から通話を繋ぐと、その声色は年不相応に落ち着いて尖っていた。若い審神者だが経歴はある。
この状況に懐疑心を持っているのが分かる口調だ。
そうして案の定、本丸への帰還命令を言い渡されて不完全燃焼で戻る事を余儀なくされたのだった。







「お帰り、皆。手入れをするから順にお願い」

戻った先で待っていた審神者に促されて、空いていた2部屋に同田貫と福島が先に入ることになった。
就任直後には後で良いといって手入れを受けない刀も居たが、戦のためなのだと説き伏せた結果、今では重傷順に手入れを受けている。

「主殿、」
「うん?どうしたの駒ちゃん」
「先ほどの戦場の煙幕、下に積もったものを調べれば何か分かるかと思いまして、掬ってきました」

審神者に差し出されたのは小さめの巾着袋だった。
竜田生駒の刀剣男士の紋が入った、恐らく自分で買い求めた袋だろう。

「これ、駒ちゃんの!汚れちゃったね、すぐ移して綺麗に洗うから待ってて!」
「お待ちください、主殿。俺としてはこの袋の方が保証できますから、どうかそのまま」
「で、でも、」
「もらいな、主。竜田姫の名前を冠した刀のモノなんだから、得体の知れねえもん入れとくのに、今これ以上信頼出来る袋無いって」
「使うために用意したものです、問題ありません。お役立て出来れば、それで」
「っ……ありがとう!今度一緒に雑貨屋さんとかお買い物行こうね!よし、こんのすけえ〜!!歌仙ちゃん!薬研!!いる?!」

バタバタと奥に走り去っていく。
この後は待機と言われているから、手入れが終わればこの部隊はひとまず解散だ。

「……竜田生駒さん」
「ああ、堀川。次手入れ、はっ?」

ぱし、と取られた腕と肩。
「初めてなんだ、優しくしてあげるんだよ」という青江の言葉を聞いているのかいないのか、竜田生駒の身体に『ごき』という音が響く。
姫鶴は一瞬呆気に取られて動けなかったが、竜田生駒の身体が傾(かし)いだのを咄嗟に支える。

「っ!?」
「次は竜田生駒さんと僕の番ですよ!全く……肩を脱臼してるのを、良く主さん達に隠し通しましたね?」
「っ、う、だ、だからっていきなり……!」
「無理をして隠さない方が良いよ。僕も、手荒な方が得意だからね」

手入れ部屋に投げ込んだって良い、そういう顔で青江が笑う。つまりこの大脇差には最初から──竜田生駒が姫鶴の落下を阻止した瞬間には気付いていた。

「仲間なんだ、心配だよ」
「そうですよ!隠すくらいなら言ってください。すぐ嵌めますから」
「……ありがとう。でも、嵌めてくれるなら一言そう言ってくれ」
「あはは!分かっていただけたなら次回から。では、また後程」

さすがに極た脇差には敵わないな、と体勢を直して嵌め込まれた肩を擦る。
その手にそっと姫鶴の手が重なった。

「おれのこと引っ張るのに、無理した?」
「いや、無理はしていない。咄嗟だったから……そんなに不服そうな顔をしないでくれ。別に姫鶴が重かった訳じゃない」
「太刀の人型なんだから、重くないとおかしくね」
「じゃあ、落下の衝撃でたまたま外れたとしか言えない」
「ほんとかよ」

歩き出しながらも支えるような手が変わらず添えられて、竜田生駒は思わず苦笑してしまう。

「本当だ。……ふふ、我儘だな、どうしたら納得してくれるんだろうか」
「ああ?いい度胸してんね、こまちゃん」
「そう言われても、っ!」
「はい連行〜」

軽々と竜田生駒を横抱きにして歩く。
肩越しに後ろを見ると、通りすがりの蜂須賀と浦島が内番着の袂を握ってにこにこしていた。
途端に恥ずかしくなる。

「ひ、姫鶴」
「なん?」
「もうちょっと、せめて持ち方、」
「聞こえない聞こえない」
「姫鶴!」

この後運悪く大倶利伽羅に見られたことで、竜田生駒は輪をかけて、もう二度と怪我を隠さないと固く誓ったのだった。











「たのも〜、大倶利伽羅いる?」
「……姫鶴?」
「いきなりだな」

竜田生駒が姫鶴に横抱きで運ばれた数日後の午後、広光派3振が昼休みをのんびりと過ごしていた時。
一文字2振の来訪を受けて、面倒事を察知した溜め息が大倶利伽羅から漏れ出たのを、竜田生駒は横目で確認した。

「寛いでいるところ、すまないな」
「日光もどうしたんだ?何を改まって……」

腰を下ろした日光が改まって大倶利伽羅へ差し出す。
丁寧に包装された箱。
中身は分からないが明らかに贈答用だ。

「先日は姫が竜田生駒に世話になった。礼として受け取ってくれ」

3振の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
振り返った大倶利伽羅が「どうしてだ?」という顔の竜田生駒を見て大凡を察する。

「詳しくは知らないが、戦場でのことだろう。礼には及ばない」
「そうはいかない。不要な怪我を負わせてしまったと聞いている」

姫鶴の顔を見て、もう一度竜田生駒を振り返る。
十中八九、本人たちの中では「戦場での出来事」として終わったことになっているだろう顔だ。

「……今回はありがたく受け取っておく。以後、こういった気遣いは無用だ」
「承知した。心配り感謝する」
「こちらこそありがとう。その、……大したことはしていないのだが」
「助かったのはほんとだから。もらっといてよ」

姫鶴は恐らく、一文字の気質に対して複雑そうな表情をしていた。
大倶利伽羅と日光のやりとりを見ながら、そういう律儀なところが人間に好かれるんだろうなと脱臼した本人は考えるところだが、身内というのは簡単にいかない。

「ではこれで失礼する」
「ああ」

2振を見送って、貰った菓子折りを開けば米菓の詰め合わせ。火車切が少し驚いているのを見る限り、見合わないほどの良い物だろうか。

「折角だから頂こうか。茶を淹れて来る」
「うん。じゃあ、お皿出しておく」
「皿?」
「お皿に出すと色んな味を少しずつ食べられるから……余計に小袋を開けなくても、好きなのを探せる」
「そういうことか」

『何があっても食品保存は厨か食糧庫!絶対!』と言い放った虫嫌いの主に倣ったこの本丸では、小さめの皿だけを部屋に置いておく事が多い。そちらの準備は大倶利伽羅と火車切に任せて部屋を出た。

厨までの渡り廊下を渡りかけた竜田生駒はふと翻して、隣のジグザグした八橋を渡り直す。
巨大な蓮池を楽しむために掛けられたそれに、姫鶴が腰を下ろしているのが見えたからだった。
脚を下ろすと水に浸かるため、胡座をかいて後ろ手を付いている。

「姫鶴、」
「ん」
「さっきはありがとう、火車切が驚いていたから美味しい米菓だろう?」
「んー、……かちゃは知ってるか。ま、気持ちってことで」

緩く口の端を上げて微笑み、首を傾げた姫鶴。
こう軽く言われると恐縮する気持ちが解けていく。
もう一度礼を言ってから姫鶴の後ろを通ろうとした時。

「こまちゃん、」
「なんだ?」

座ったままの姫鶴の指が、竜田生駒の指先を捕まえる。

「あの時、巾着使っちゃったっしょ。買い物行こ。買ったげる」

内ポケットに入れておいた小さな巾着は戻ってこない前提で、竜田生駒は特に気にしていなかった。
確かに審神者からも「そのまま政府に引き渡して分析中」と言われている。

「そんな、買って貰うほどのものでも無い。既にお礼は貰っているし、」
「さっきのはさ、どっちかっつーと周りが色々言うから渡したやつ。こっちはおれが、こまちゃんと出掛けたいから言ってるやつ。どう?いや?」

指を手のひらで包むように捕まえ直した。
ぎゅ、と握ると、狼狽えたみたいに黄緑の目線が動く。

「姫鶴と出掛けるのが嫌な訳ではない。むしろ、誘ってくれて嬉しいが、巾着は本当に気にしていないから……」
「ん。じゃあ、ふつーにおれと出掛けよ」
「ああ、それなら、喜んで。どこか行きたいところでも?」
「新しい雑貨屋が出来たって」

立ち上がって向き合う。
控えめに、恐らく見ていなければ分からないくらいの程度で表情が、ぱ、と明るくなる。
それをじっくりと見ながら、姫鶴はもう一声追加した。

「あとは、ちょこ菓子専門店が酉通りに移転して、新装開店記念の限定品出してる」
「もしかして元々は羊通りにあった店か?少し前に閉店していて、万屋から無くなるのかと思っていたんだが……」
「同じ店っぽい」
「……!良かった、あの店の菓子が好きなんだ」

分かりやすく笑顔になったのに釣られて、姫鶴も頬が緩むのを自覚する。

「決まり。次の非番の日でどう?連携確認はもうちょっとで終わるだろーし」
「うん、問題無い。楽しみにしている」

厨へ向かう竜田生駒を見送って、姫鶴も踵を返した。わざわざ待ってた甲斐があったな、と思いながら。




continued.